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箱の中

 新月から少し経ち、細い月の光が世界を照らしている。しかしその光は弱く世界は暗い。

 窓から弱い月の光が差し込む部屋の中で、動く人影が二つある。その部屋にある地下室へ続く扉は開いたままになっている。

 幾つかある部屋の窓の一つのそばに置かれているテーブルの上には、白い箱と水筒とカップが二つ置かれている。そのテーブルの側にはソファーと、パイプ椅子が置かれていた。

 そこから少し離れた所に畳が並べられ、その上に絨毯じゅうたんを敷いている一角がある。そこにはストーブがかれていて部屋を暖めている。

 二つの人影は地下室から運び出した衝立ついたてで”畳が並べられてその上に絨毯が敷いてある辺り”を囲もうとしてた。

「この”畳が並べられてその上に絨毯が敷いてある辺り”……。という表現は使い難いからこの場所は”お座敷”と呼ぶことにしよう」

「お座敷ね。了解です」

 畳の一つを少し持ち上げている魔術師はこの場所の呼び方を設定した。それに対して、衝立の下についている、倒れない為の薄い足の部分を、畳の下に入れるために衝立を押している使い魔は、顔を少し出して了解した。

「これでよし、次の衝立を並べよう。暗いから気をつけてね」

「うん。この壁みたいの衝立っていうんだね」

 お座敷が衝立で囲まれて、より部屋らしくなっていくのを見て使い魔は改めて台詞を並べた。

「最初は部屋っぽくするのに、物干し竿にカーテンを吊るしてやろうと考えていたんだけどね」

「そうだったんだ」

「でも、記憶の中にあった衝立を見つけてね。正直、これの呼び方は衝立でよかったか調べるまで不安だったよ」

「ふーん。そういえば……この衝立を地下室から運び出すの、わたしにも手伝わせてほしかったよ」

 魔術師は使い魔が来る前に、衝立を運び終えていた。

「今回は新月辺りで暗いから危ないし、今やっているこの作業には君の力が必要……体力を温存しておいて貰わねばね! こっちの方が重要なのだよ」

「……わたしは衝立を押してるだけだよ?」

「衝立もそれなりに重さがあるからね。……さぁ、この衝立をセットすれば、後は玄関的な感じのところを作るだけだ」

「玄関? ……ああ、あの二枚の衝立は余っていた訳じゃないんだ」

 畳の下に衝立の薄い足を差し込むことに慣れてきた二人は、その作業ペースが速くなっていた。

「そんなことを言っている間に、後は玄関的な……玄関を作るだけだね。……しまった」

「どうしたの?」

「私の靴が……最初並べた衝立の辺りに」

「しょうがないな~。持ってきてあげる!」

 魔術師の靴を取りに使い魔は衝立の向こうを歩いて行く。その足音を聞きながら魔術師は、お座敷の奥にある大き目のダンボールに目を留める。そして口元に笑みを浮かべた。

「ん?」

 魔術師は使い魔の足音が聞えないことに気付いた。そして、使い魔の位置を確認するように感覚を研ぎ澄ます。しかし衝立のすぐ向こうに使い魔の気配を感じない。仕方なく魔術師は衝立に覆われていない最後の部分から外の部屋の中を見る。

 お座敷から外を見ていると、衝立の壁からだいぶ離れた所からこちらに歩いてくる使い魔が見えた。右手にはカップを二つ持ち、脇に水筒を抱え、左手に魔術師の靴を持っている。

 使い魔はわざわざ遠回りをして戻って来たらしい。

「えっと、水筒を持ってくれる?」

 使い魔の意図を探しつつ、魔術師は手を伸ばす。真っ直ぐ伸びる先は使い魔の胸元……。しかし、使い魔が首を傾げるとその手は水筒へ向かった。

「なぜ遠回りを?」

「えっと、なんとなく」

 脇に抱えていた水筒が無くなり、身軽になった使い魔はしゃがんで魔術師の靴を床に置くと、自分も靴を脱いでお座敷に上がる。そして、低いテーブルにカップを二つ置くと振り向き、魔術師から水筒を受け取る。

「なんとなくか……」

「なんとなくじゃダメかな?」

 魔術師から視線をそらして台詞を並べると水筒をテーブルに置く。

「いや、なんとなくでもいいよ」

「うん。……さあ、玄関を作って”部屋の中に部屋がある”作戦……だったっけ? を完了させちゃおう!」

「うむ」

 魔術師と使い魔は靴を履きお座敷から出ると衝立を並べ始める。

「このドアがついている衝立はどこにするの?」

「そうだね……わざわざ玄関を作るわけだし。ドアを開けてすぐお座敷の中が見えない位置にしよう」

 三枚の衝立を使って、畳の無いところにほぼ正方形の空間を作り玄関にした。

「これで完成?」

「完成だ~! ……まぁ、屋根は無いけどね。でも、部屋の中だから大丈夫!」

 完成を宣言した魔術師は、ドアを開けて使い魔に入るように促す。ドアを開けた正面は衝立の壁で、左を向くとお座敷が見える。

「ちょっと待ってて――――」

 使い魔は小走りで走っていく。そして、白い箱を持って戻って来た。

「その箱の中身はなんだろう?」

「なんだと思う?」

「ふむ……とりあえず中に入ろう」

「うん」

 優しく背中を押されながらドアを入り、靴を脱いで使い魔はお座敷に入った。

 その後を魔術師も続く。

 使い魔は持っていた白い箱をテーブルに置くと座椅子に座る。そして魔術師の方を見てその動きを首を動かしながら追う。その姿が自分の真後ろまで移動したので顔を上に向けた。

「…………」

 魔術師は無言のまま使い魔の両肩に手を置いた。

「えっと、肩を揉んでくれるのかな?」

 使い魔は少し戸惑いを覚えながら尋ねた。すると魔術師は使い魔の肩を揉み始めた。

「……私が衝立を押す役をやるべきだった」

 肩を揉みながら、少し沈んだ口調で台詞を並べた。

「?? 衝立を押す役の方がやりたかったの?」

「いや、私としたことが、寒いほうの役を君にさせてしまった」

 畳を少し持ち上げる役の位置の方がストーブに近く暖かかった。それを先ほど使い魔の背中を押した時に気付いた。

「うーん、とりあえずわたしは平気だよ?」

 使い魔は自分の体を色々触って自分の体温を確認した。

「そうなのか? ……でも、ストーブに近い位置に移動しよう」

「……そうだね。やっぱり寒い!」

 使い魔自身は本当に平気だと思っていたけれど、心配されているのが嬉しいという気持もあり、笑顔で同意して立ち上がった。

「では、背中が部屋の奥になるように座ろう」

「えっと、今いる所からテーブルの角を一つ右に曲がれば良いんだよね」

 使い魔はテーブルに沿って歩き、テーブルの角を右に曲がる。すると使い魔の向く先には屋敷の壁があった。そして右を向くと後ろにストーブがある構図になった。魔術師も同じ動きをして使い魔の隣に立つ。

「ここの移動の描写に20分くらい掛けてしまった」

「大丈夫、このお話の世界ではそんなに掛かっていないから」

「……うむ。では座るとしよう」

 魔術師と使い魔は座ると、電源の入っていないコタツに足を入れた。

「えっと……そうそう、この箱の中なんだと思う?」

 使い魔は先ほどの質問をもう一度した。

「何かヒントはないかな?」

「中身は甘いものです。それと現実の世界の今日は12月25日だよ」

 使い魔はヒントを出しながらテーブルに置かれている二つのカップに水筒から紅茶を入れている。

「なるほど。ケーキか」

「正解! ……お皿持ってくるの忘れた」

 使い魔は紅茶を入れ終えてから気付いた。

「ふむ、安心しなされ。このお座敷には大きめのダンボールがある。皿の一枚や二枚なんて簡単に出せるさ」

 魔術師はお座敷の奥の隅に置いてある大き目のダンボールから、綺麗な皿を2枚取り出した。そして袋に入ったプラスチックのフォークも用意する。そしてもう一度、大き目のダンボールの中を見てから戻って来た。

「大き目のダンボールの中に何かあるの?」

「なんとなくだよ」

「ふーん。なんとなくなんだ……」

 使い魔は大き目のダンボールを見つめながら、先程も魔術師が大きめのダンボール意識していたことを思い出していた。

 使い魔が魔術師の靴を持って戻ってくる時に遠回りしたのは、魔術師が大きめのダンボールにケーキを隠しているかもと思い、様子をうかがう為だった。結果としては何の意味もなかったけれど……。

「そうだったのか。とりあえず今回、私はケーキを持って来てはいないよ」

「うぅ、地の文さんがバラした……。もし、あなたがケーキを持って来ていて、それが大きいケーキだったら……わたしはケーキを持って来ていなかった事にしようと思ったり……意味の無いことを考えてました!!」

 使い魔は気を使うタイプのようだ。そんな使い魔に対して地の文は反省した。

「意味は無かったのかもしれないけど、気持ちが込められた行動だったね。ありがとう」

「……。さぁ、ケーキを食べよう!」

 なんとなく照れてしまった使い魔は元気よく台詞を並べて、ケーキの箱を開けた。中にはカットされたケーキが入っている。

「美味しそうだ」

「……どうぞ」

 お皿にケーキをのせて魔術師に手渡した。

「わーい!」

 受け取ってひとしきり眺めてからテーブルに置く。そして、使い魔もお皿に乗ったケーキをテーブルに置いたのを確認して、プラスチックのフォークを手に持つ。

「それじゃあ、食べよう! いただきます」

「いただきます」

 二人はフォークでケーキを食べ始めた。

「美味しいですな」

「うん」

 ケーキを食べつつ、紅茶を飲む。

「衝立の壁もなかなか役に立っている感じだね。上は開いているけど、暖かい空気が部屋に満ちている」

「そうだね、毛布を掛けて横になったらすごい寝心地が良さそう」

「このテーブルから、ストーブまでの距離は少し離れているから、その間のスペースでゴロゴロするのも良いかもね」

「一緒に寝ちゃう?」

 使い魔はお皿のケーキを食べ終えると仰向けで横になった。

「それはまた今度にしようかな」

「……そっか」

「もう一つケーキをいただいても良いかな?」

「どうぞ、わたしも食べる」

 二人は残りのケーキに手を付け始めた。

「……」

「……」

 なぜか二人は黙ってケーキを食べていた。

「……美味しいケーキだったよ。ご馳走様」

「美味しかったね!」

 ケーキを食べ終えて、残りの紅茶を楽しむ二人。

「さて、今回はこの辺で終わりにしよう――――」

「終わっちゃうんだ……。?? ――(ダッシュ)?」

 使い魔は内心まだ終わりたくなかった。そんな思いの中、魔術師の台詞の終わりの部分に注目した。

「終わる前に君に渡すものがある」

 魔術師はそう台詞を並べると大き目のダンボールから何かを取り出した。それは二つある。使い魔よりも早く来た魔術師は大きめのダンボールの中にそれらを隠していた。

「なんだろう?」

 使い魔は今回の時期から、自分に渡されるそれらが持っている意味を意識した。

「まぁ、なんていうか。寒いからね。一つはパーカー……カーディガンの上に着るのもありだね。もう一つはこの箱」

「この箱には何が入ってるのかな? 開けて良い?」

 使い魔は渡された箱を手に魔術師に尋ねた。

「どうぞ」

 箱を開けて中身を見た使い魔の瞳はキラリと何かを映した。

「お気に召してもらえたかな?」

「うん。ありがとう」

 使い魔は箱を閉じると大事そうに胸に抱いた。

「なんだか嬉しいな!」

「……わたしからも何かお返しがしたい」

「君が喜んでくれたなら、私はそれで満足だよ」

「でも……」

「……では、この場で可能なこと……頬にキスをお願いしても良いかな?」

「……」

 使い魔はふわっと軽く魔術師の頬へキスをした。

「で、では、ここを片付けて帰るとしよう。今回も文章並べを手伝ってくれてありがとう」

 魔術師は顔がニヤけてしまうのを隠しつつ台詞を並べた。

「どういたしまして! ありがとうね!」

「次回もよろしく」

「はい!」

 いつもと同じような台詞を並べてから、部屋を片付けてストーブの火を消して二人は帰っていった。

 と、いう感じに今回を終わりにしよう。

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