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よこしま

 黒い空には月と星が見える。月はその姿を細めていく時期で、その光は弱い。その為なのか、見える星の数は多い。

 この世界の月は、現実の世界のそれよりも明るく夜を照らす。

 強い風が木の葉を揺らして、葉同士を擦り合わせて音を立てている。

 その風が窓を揺らす屋敷のその部屋は散らかっていた。地下室への扉は開かれたままになっていて、そこから色々な物が運び出されている。

 今、この部屋には人影は無い。そこへ使い魔の気配が現れた。

 使い魔は姿を現さないまま部屋の中を観察する。現れた直後、使い魔が部屋の散らかりようを見て思ったことは泥棒? だった。そう思うと同時に、魔術師が以前に言っていた何かの化身……それの仕業? という考えも思い浮かんでいた。

 しかし、すぐに違うことに気付いた。散らかってはいるけれど、意図的に丁寧ていねいに置かれている物もあったから。その置き方から地下室から運び出している者の狙いも推測すいそく出来た。

 地下室へ向かおうか迷っていると、階段を上る足音が聞えて来る。何か重いものを持って上っている様な足音だったので、使い魔は姿を現して手伝いに向かおうとする。

 姿を現した使い魔が地下室への階段を見下ろすと、この前の冬に使っていたストーブを持って上ってくる魔術師が見えた。

「何か手伝える?」

「いや、大丈夫だよ。そこの扉の近くの足元は大丈夫そうかな?」

 使い魔は自分の足元の周りを見てつまづきそうな物が無いことを確認して返事をした。

「大丈夫だよ」

 足元は大丈夫だが、入り口から下を見ている使い魔自身が邪魔になりそうだった。

「散らかっていて悪いな。君が来る前に終わらせるつもりだったんだけど……」

「……」

 使い魔は入り口付近から移動して、この部屋の状態を見回した。

「ふぃー、さすがに少し疲れた」

 魔術師は階段を上り終え、ストーブを床に置いた。

「言ってくれれば、手伝うのに……」

「重いものが多いからさ……だが、まだ途中。お手伝い願えますかな?」

「もちろん! 何をすればいい?」

「そうだな……あそこの窓を開けてみてくれないかな?」

 魔術師は窓を指差して使い魔に指示を出した。その窓辺にはいつもテーブルが置かれていたけれど、今はどかされている。

「空気の入れ替えだね」

 使い魔は小走りで窓の方へ向かう。そして、途中で靴を脱ぎ窓へ辿り着いた。そして風に気をつけながら窓を開けた。そして魔術師の方を向くと目が合った。

「足元のそれの置き方……どうかな?」

「良いと思うよ。たたみ……重かったでしょ?」

 使い魔の足元には畳が並べられていた。

「うん。畳を運ぶのに結構時間が掛かった。腰が少し痛い」

「大丈夫?」

「問題ない。早いところ”部屋の中に部屋がある”作戦を完了せねば!」

「作戦名があったんだ……」

「これでよし。さて、では並べた畳の上に絨毯じゅうたんを敷くとしよう…………壁側の方を任せられるかな?」

 魔術師はストーブの火をつけてから、並べられた畳の上に巻いて置かれている絨毯を敷くために絨毯の位置を調整してから、使い魔にお願いした。

「コロコロ転がす感じだね」

 壁を右側にする位置にしゃがんで絨毯の端に右手を置く。その左隣、少し離れた位置に魔術師が絨毯の左端に左手を置いている。

「では、転がすとしよう」

 魔術師は右手、使い魔は左手で巻かれている絨毯を転がしていく。すると絨毯は並べて置かれている畳の上に敷かれていった。途中からは膝をついて歩きながら両手で巻かれている絨毯を転がしていた。

「あれ? 絨毯の長さ足りないよ?」

 絨毯を敷いてみると、畳の部分が残ってしまっていた。

「ワザとだよ。なんとなく畳の部分も残してみたくてね」

「ふーん。……絨毯の上をゴロゴロしてみて良い?」

「ちょっとだけだよ? 今はまだ作戦中だからね!」

「わーい!」

 使い魔は嬉しそうに声を上げると絨毯の上を手足を伸ばして転がる。

「これは……」

「どうかしたの?」

 声に反応してうつ伏せのまま少し上体を上げて魔術師を見て尋ねた。

「いや、なんでもない。無邪気な君に対して、よこしまな感じになっただけさ」

「よこしま?」

 心当たりがあった使い魔は自分の首を曲げて、自分の着ているワンピースのスカートが捲くれていないか確認する。

「ふっふっふ!」

「見えたの? 転がってる時に捲れちゃったかな……」

 台詞を並べると、顔を絨毯に押し付けながら両手でスカートの裾を押さえた。

「スカートは捲れていなかったよ」

「そうなの? でも横縞よこしまって……」

「スカートの裾を押さえると更に良い感じですな!」

 使い魔は魔術師の台詞の意味をあれこれ考えている。

「ひょっとしてこのワンピース……透けちゃってる?」

 スカートの裾を押さえるのを止めて、スカートにしわを少し作る。

「透けてはいないけど……。くっ、スカートにしわか。ぐぬぬ! という感じだ」

 スカートにしわを少し作ったことは何らかの効果があったらしい。

「透けてない……スカートも捲れていない。それでも横縞が……わかる??」

 使い魔は推理している。

「私も推理してみよう……。私の”よこしま”という言葉に対して君はスカートが捲くれたのかを気にしていた。つまり、君はワンピースの下に縞模様の布を装備しているな!」

「うぅ~。下着の模様を推理しないで! 恥ずかしいよ……エッチ!」

「そうか。どうやら私の推理は当たったようだ! よこしまの材料が増えてしまったな!」

 改めて使い魔は、魔術師を変態だと思った。そして気が付いた。

「”よこしま”って、横縞じゃないの!?」

「そう、君は自爆していたのだよ! 最初に邪な感じになったのは、転がる君のお尻の形がワンピース越しになんとなく想像出来たからだ。うつぶせのままスカートの裾を押さえてくれて、更にお尻の形がわかって良かった!」

「わたしは変態に踊らされていたんだね」

「ふっ、今更気付いても遅い。そのまま上体を起こして私を睨んでみればいい」

 使い魔は両手を突いて背中をそらせる感じに変態を見る。その目は睨んでいるというより、楽しそうに笑っている。

「君はまだ踊らされているのだよ! 君のその胸も邪に加えるとしよう」

「ここまでしてしまったら、わたしも共犯者……。わたしも邪に協力してみようかな」

 使い魔は上体を起こしたまま、左手で状態をキープし、右手でワンピースの首もとを引っ張って服の中を見せる感じにした。

「だめだ、君はそこまでしなくてもいい」

 魔術師は使い魔の目の前で両膝を絨毯につけた。そして、一瞬ワンピースの首もとから中を見て目に縞模様を映した。しかし、すぐに使い魔の右手を奪うとそれは見えなくなった。

「ちょっとやりすぎちゃったかな?」

「すまない。私は間違えていたのかもしれない」

 魔術師は使い魔の右手を両手で握りながら謝罪した。

「大丈夫だよ。わたしはあなたが変態だって知ってるから」

「許してくれるのかい?」

「うん。あなたが相手なら、わたしも嫌じゃなかったりするし」

「そうか、ならば更に……」

 そう台詞を並べて使い魔の目を見つめる。見つめ合っていると、どちらとも無く笑い出した。

「わたしたち何してるんだろう! ふふっ!!」

「ははは! 推理から微妙なサスペンスって感じかな! ……さて、では作戦に戻るとしようか」

「…………」

 使い魔はうつ伏せで絨毯に顔を押し付けながら文章を読み直していた。

「どうかした?」

「あなたの台詞の、ならば更に……の後はなんだったのかな?」

「う~ん。そうだね、君のお胸を両手に収めてみるとか、下の方の縞模様を見せてもらうとか?」

「……えっと、じゃあ、作戦に戻ろう」

 使い魔は起き上がると周りを見回した。

「今一瞬引いた?」

「引いてないよ。えっと、わたしは何をすればいい?」

「では、スカートをめく……なんでもないです。うむ、では向こうにある座椅子を一つ頼めるかな」

「あれだね」

 使い魔は靴を履いて駆け足で座椅子が置いてあるところへ向かった。その後を、魔術師も追う。

「絨毯も敷いたから腰掛ける感じじゃない座り方もいいかなと思ってね」

「足を伸ばして座るのも良さそう」

「だね! そこで、この座椅子が必要なのさ! 背もたれがね」

 それぞれ一つずつ座椅子を持って戻る。

「窓の外が見える位置がいいね。あと、座ったままでちょうどいいテーブルも欲しいかも」

「安心めされ、ちゃんと地下室から運び出しているよ」

 窓を正面に座れる位置に座椅子を二つ並べて置くと、魔術師は低いテーブルを取りに走る。置いていかれた使い魔は置き換えようとしたけれど、ソファーに置いてあるコタツ布団に目を留めた。

「おお、それもこのテーブルに装備させるから、絨毯のところにお願い」

 魔術師はテーブルを運びながら台詞を並べた。

「薄手の毛布とか、毛布とか、クッションとか……えっと、他のも移動させとくね」

 使い魔は、毛布類を絨毯の上に移動させると、靴を脱いで自分も絨毯の上を歩く。絨毯の感触を足の裏で楽しんでいるようだ。

 そこへ魔術師が低いテーブルを盛って戻ってくる。

「コタツ布団を装備させても、電気が無いから温かくはないけどね」

「ストーブがあるから大丈夫……でも、ちょっと寒くなってきた」

 今二人がいる位置とストーブは微妙に距離が離れている。

「……火の側は暖かいけれど、あのストーブでこの部屋全体を暖めるのは難しい……」

「ストーブの側にいれば大丈夫だよね」

「うむ。しかし……とりあえず今回は終わりにしよう。計画を遂行するには少し体温が足りなくなってきている」

「ストーブの側で一緒に毛布に包まれば体温は回復するよ?」

「魅力的な提案だ……でも、それは次回にしよう」

「……うん」

 使い魔は少し残念そうな声で台詞を並べた。

「次回は計画を完了させて暖かい部屋でお菓子を食べるとしよう」

「うん。楽しみにしてるね!」

「真面目に寒いから、少し手を考えてみることにしよう。では、今回の文章並べも手伝ってくれて、ありあとう!」

「どういたしまして!」

「では、ストーブを消して帰るとしよう」

 そう台詞を並べて、魔術師はストーブの火を消した。そして二人は帰っていった。

 という感じに今回を終わりにしよう。

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