魔法のペンとその魔力
いつだったか、同じ考え方を共有する集団に入ることを知人に誘われたことがあった。話を聞いていると”根無し草”という言葉が出てきて、同じ考え方を共有する集団に入っていないと、水に浮く根無し草のようにただ流されるだけ……というような感じのことを言っていた。それと”島国根性”という言葉も印象に残った。
言葉の意味はさておき……。同じ考え方を共有する集団を陸地と考えて、根無し草ではない草はその陸地に根を張るのだろうか。島国根性か……自由は大切だと思う。
自分としては”根無し草”でいきたいな。”人間は考える葦”という言葉を聞いたことがある。葦も確か植物だったか……。不勉強で言葉の意味をちゃんと知らないけれど……。
身の程知らずな愚か者として……”人間は意思ある根無し草”と勘違いな言葉を並べてみよう!! たまには水面を歩くのも楽しそうだし! 意思がある人間……ただ流されるだけとは限らない!!
空には雨雲があり、時折雨を降らせている。雲が厚いのか月齢の為なのか月の明かりが見当たらない。
屋敷の窓から明かりが見える。それは大き目のコップに入れられた蝋燭の明かり。テーブルの中央に置かれた蝋燭を、向かい合って座る二人は見つめていた。
少し開いた窓から涼しい風が柔らかく入り込む。部屋の中は涼しいを少し通り越して肌寒い。
「今回はあまりひねりの無い始まり方のようだね」
「そうみたいだね。……このカーディガンやっぱり暖かい!」
使い魔は夏の暑さの為なのか、最近描写されていなかった青いカーディガンをアピールした。
「そうか忘れ去られているかと思ったけど……よかった」
「洗濯もして大事にしてるよ? 今回だってほら……いい匂いするでしょ?」
右手を隠した袖を魔術師の前に差し出す。
「確かに、洗剤なのか柔軟剤なのかわからないけど、いい匂いがするね」
「ね!」
嬉しそうに笑みを浮かべて、自分もカーディガンの袖の匂いをかぐ。
「このところ涼しいけど、来週からまた暑いと風のうわさで聞いたけど。暑くなるのかな……」
「どうだろうね。涼しかったり寒かったりすれば、このカーディガンの描写……出番が増えるよね?」
「増えそうだね」
「ふふ!」
使い魔はカーディガンの袖で頬を撫でながら、相変わらず嬉しそうに微笑んでいる。
「そういえば先日”しきがみ”の相手をしたんだよ」
「”式神”? 陰陽師と戦ったの?」
「どうだろう? 彼は陰陽師には見えなかったけど……」
魔術師はその可能性を探したけれど、見つからなかった。
「ふーん。手強かった?」
「2時間くらい相手をして終わったよ」
「2時間……って、手強いの?」
「あぁ、すまん。まぁまぁってところかな。魔方陣を完成させれば私の勝ちだし」
何かを書く仕草をしながら改めて答える。
「魔方陣……あなたはあまり使わない感じじゃなかったけ?」
そんな話があった気がした使い魔は、なんとなく尋ねた。
「終わらせるには必要だったからね」
「そうなんだ、魔方陣が有効な相手だったんだね」
「魔法のペンの魔力が途中で足りなくなったから、新しい魔法のペンが必要になったりした」
首を横に振りながら困った感じの顔をする。その顔を見ながら魔法のペンと魔力について使い魔はその言葉に潜む意味を探す。
「魔法のペンって、マジックアイテム?」
「現実の世界でも使用可能な物だよ」
「現実でも使用可能……ふむふむ」
使い魔は”ふむふむ”と言って考える振りをしているけれど、本人の中ではすでに答えがある。
「魔法のペンの正体を見破ったのか! やるね!! まぁ、そのままと言えばそのままだけど」
魔術師は自分の台詞のひねりの無さに自嘲気味な笑みを浮かべた。
「魔法……マジック。ペンはペンでマジックペンだよね?」
「そう、それだよ。ということは魔力の正体も解ってるね! ……間違えたらそこに転がってるロープで縛って蝶々結びで結ぶよ?」
前回の時に描写された床に転がっているロープを指差して、プレッシャーをかけた。
「変なひねりは無いよね?」
少し心配になった使い魔は念のため確認を取る。
「私は自嘲気味な笑みを浮かべたよ?」
といいながら、含み笑いを浮かべて更にプレッシャーをかける。
「……インクだよね?」
プレッシャーをかけられた為、控えめな声で答えた。
「……」
魔術師は床のロープを見ている。
「え? 違う……の?」
使い魔も床のロープを見る。暗い床に”置いてある”……”転がっている”は描写的に変かもしれない。ロープはそうそう転がらない。これは置いといて……。使い魔は暗い床に置いてあるロープに不安を覚えた。
「……魔法のペンの魔力の正体はインクで正解だよ」
「ふぅー、良かった。正解なのかすぐに答えてくれないなんて意地悪だよ!」
「はっはっは! 君をドキドキさせてみたくてね!」
「……はぁー」
俯いてワザと大きめの溜め息をついた使い魔の表情は、呆れているというより楽しそうだった。
「えっと、なんだったけ?」
「魔方陣?」
「おお、魔方陣だ! 仕事とはいえ、手で魔方陣を書くのは結構疲れたよ」
「お仕事だったんだ。ところで、あなたは式神って使えるの?」
「しきがみか……言霊の応用でなら使えるけど……まぁ、私の解釈の内でならね!!」
「へー!! 陰陽師になれそうじゃない?」
「いやいや、私は魔術師だよ」
「……そういえば陰陽師って魔方陣を描いたりするのかな?」
「さぁ? どうなんだろう? 詳しくは知らないから解らないな……使うんじゃないかな」
「あ! 確か五芒星って魔方陣じゃない?」
「おお! ちょっと忘れてた! それも魔方陣に含まれそうだね!」
「忘れてたんだ……」
「最近、気温がユニークで物忘れが……ということにしておいてくれ! ボケてるわけじゃないよ!!」
魔術師は頭を抱えて首を左右に振る。
「涼しいから寝るには良い気温だから大丈夫だよ! 寝ボケただけだと思うよ」
「ボケはボケでも寝ボケか……なら、大丈夫だな!」
安心した魔術師は立ち上がり床に置いてあるロープを拾い上げた。
「ロープをどうするの? わたしはちゃんと正解したよ?」
使い魔は椅子に深く腰掛けて脇を締めて両手をひざに置く。
「どうして急にお行儀よく座り直したのかな?」
「べ、別に? 姿勢が悪かったから直しただけだよ」
「そうか、てっきり自分からロープで縛られやすいようにしたのかと思ったよ」
「そんなまさか! わたしは抵抗するよ? 油断するかもしれないけど……」
使い魔は目をつぶって自分の想像した展開になるかもしれないと妙な期待をしている。しかしそうはならない。
魔術師はロープを近くのソファーに置いてから、元の場所に座った。使い魔は魔術師の動く気配に意識を集中していたので、その動きを地の文を読まずに目をつぶったまま感じ取っていた。
「君の寝顔はきっとそんな感じなんだね」
「…………」
使い魔はゆっくり目を開けて、地の文と魔術師の台詞の関係性を読む。
「何を想像していたのかは、描写されてないから解らないな……」
「読まれてそうだけど解らないよね?」
「まぁ……そうだね」
とりあえず使い魔の想像した展開は描写されない闇に沈んだ。
「前回から引っ張ってるあのロープは何かに使うの?」
ロープ関係で何度か自爆した使い魔は、ロープが何かの伏線なのか確認することにした。
「う~ん、ミスリードかも。今のところ使い所がない。君が結構引っかかってくれたから、文章並べも自分的に面白かった」
「わたしは恥ずかしかったよ」
「それはすまない」
「まぁ、わたしもちょっとドキドキして楽しかったからいいよ」
何故かそう言って照れた使い魔は窓の外を見る。
「小雨が降ってるね」
同じように窓の外を見た魔術師が外の様子を言った。
「そうだね。……涼しいと雨が降ってもあまりジメジメしない」
「むしろ雨が冷たく感じそうだ」
「風邪を引かないように気を付けなきゃ!」
「うむ。……さて、3000文字を超えたしそろそろ終わりにしよう」
「うん」
「今回も文章並べの手伝いをありがとう」
「どういたしまして!」
魔術師は窓を閉めると、大き目のコップに入った蝋燭の火を指差して言う。
「消せるかな?」
「消せるよ!! ふぅ~~」
使い魔は蝋燭の火を優しく吹き消した。すると、辺りは真っ暗になる。
「では、次回に」
「次回に」
二人は闇に溶けるように帰って行った。
という感じに今回を終わりにしよう。




