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風鈴とワザと

 心のやみか……。

 心の闇という言葉。その言葉に込められた意味は大抵が良くないことを指しているように思う。まぁ、使い所が間違っているとも思わないし、否定もしないけれど……。

 心の闇……それは、ただの場所だという考えを持っている。闇という場所である故に見えないだけ。重要なのは、そこにナニがひそんでいるのかということだと思う。

 知っていると思っている人でも、実際には知らない所は多い。人の心の内はそうそう奥まで見えるものではない。その見えない所が心の闇と呼ばれているのだろう。それは自分自身の心の内にもある。

 あの頃の……海の深い所には光が届かない。ソレは哀しみに満ちた闇ともいえる場所。深い所に行くほど、重くて苦しくて辛くて寂しくて寒くて冷たくて…………上手くコトバにならない。でも、一人で千年分以上の時間をソコで考えていれば、さすがに慣れる。

 慣れてしまう前に誰かに救って欲しかった……と、少し思ったりもするけど。

 慣れてしまった自分の心の深い闇の所から、ソコより浅い所に潜むモノを視て感じても、恐ろしいと思うことはあまりない。

 闇に潜んでいるからといって、すべてが悪いモノじゃない。見えないだけで色々なモノが潜んでいる。なんとなく感じる優しさなども闇に潜んでいるモノ……。見えないけれど、感じ取れた時に視えるソレに感動したりもする。

 とんでもない化け物が潜んでいることもあるけれど、心の闇はやっぱり、ただの場所でいいんじゃないかな!!


 空にある月は満月を過ぎた欠けゆく月。しかしその姿は満月に近いので、夜の世界を強く照らしている。現実の世界の月より光は強いけれど、昼の世界とは違う明るさ。

 空に雲が多めで、時々月が隠れて暗くなる。それでも完全な闇にはならない。雲は少し薄いようだ。

 窓辺まどべに置かれたテーブルと椅子。椅子に座って外を眺めている人影がある。窓は開いていて外から風が入ってくる。カーテンを柔らかく揺らす風はやや涼しい。

 椅子に座っている人影は周りを見回した。目に映るのは月の光に照らし出されている部屋の中。特に怪しい人影は見えない。

「特に怪しい人影……”特に怪しい”が付くと、怪しくない人影はいるのかもしれない可能性があるね! まぁ、この部屋に今、わたし以外の人影は無いけど」

 退屈していた人影が地の文に対して台詞を言った。現状のこの世界において、自分のことを”わたし”と言うのは使い魔だけ。

「ありゃりゃ! 人影の正体がバレちゃった……」

 使い魔は少し申し訳なさそうな表情をしながら上の方へ視線を向けた。すると、それに対する答えなのか、涼しい風が優しく使い魔に送られた。

「涼しい風……。あ! 風鈴を持って来ればよかった!」

 風に吹かれて、ふと思ったことを口にした。そして少し残念そうに口を尖らせた。……それとは関係が無いけれど、使い魔の背後の景色が揺らぎ魔術師が現れた。

 使い魔はあえて振り向かずに隙だらけの背中を見せている。先ほどまで一人で退屈していたので何かを期待している。

 魔術師は上を向いてから、使い魔に背を向けて歩き出す。

 使い魔は背後の魔術師の気配に集中しながら地の文を読んでいる。このお話では登場人物は地の文を読むことが出来る。

 魔術師が向かった先には大きめのダンボールが置かれている所。大き目のダンボールには色々なものが入っている。その中から風鈴を取り出した。青いガラスの風鈴には特に模様は入っていない。

 地の文を読んでいる使い魔は、振り向かないまま口元に笑みを浮かべた。

 左手に風鈴を持った魔術師は、まだ大きめのダンボールの中に右手を入れている。そして何かを取り出した。それはロープだった。

 風鈴とロープを手にした魔術師は隙だらけの使い魔の背中を見て、怪しげな笑みを浮かべた。

 地の文から読み取った文章……怪しげな笑みとロープを組み合わせて、何かを思い浮かべた使い魔はこのままの状態でいるべきか迷い出している。

 ロープのはじを持って、ワザとを床に落としてロープを伸ばしながら歩き出す。ロープは絡まることなく一直線に使いやすそうに伸びて行く。

 魔術師は普段歩く時はあまり足音がしない。けれど今はワザとらしく足音を立てている。

 ワザとらしい足音を聞いて、使い魔は椅子に座ったまま待つことにした。危険な感じの描写とワザとらしいという描写と、今まで知り得た魔術師の性格から判断したようだ。

 足音の聞える位置から距離を測っていると、何かが床に落ちる音がしてから足音がしなくなった。

 その位置から何かをするつもりだと思った使い魔は、目をつぶってその位置に注意を集中した。

 目をつぶって背後の一箇所に注意を集中している今、使い魔は地の文を読むことが出来なくなっている。

 しかし、使い魔がその位置に注意を集中した時には、すでにその範囲に魔術師はいなかった。けれど、そこにいると思い込んでいる使い魔はそれに気付かない。注意を集中しても動く気配を感じ取れていないのに……。

 魔術師はロープの端を床に落とした時から、足音を消して歩いている。もちろん風鈴の音もしないように注意しながら。

 魔術師は足音を消したまま歩き、使い魔のすぐ横まで来た。そして、風鈴を揺らして音を立てた。

「ぁぅ……」

 注意を一箇所に集中していたため、すぐ横の気配に気付くのが遅れた上に、風鈴の音で余計に驚いた。

「油断した?」

「ロープにだまされた……」

 その台詞を聞いて魔術師は満足そうに風鈴を振って音を出す。

「ロープで君を椅子に縛り付けるという展開もありだったかもね」

「縛り付けたらどうするつもり?」

「そりゃまぁ……くすぐるのは確定だね」

「それだけ?」

「……さてね? 君の反応次第かな。それに縛り付けるといっても……効果的な結び方を知らない。蝶々結びでいいのかな?」

「いいんじゃない?」

「そうか! そんな展開が来たら蝶々結びで決まり!」

「なんだか微妙な感じになって来てない?」

「そうかもしれない。とりあえずカーテンレールに風鈴を縛りつけよう。……こんなにすぐ縛る展開が来るとは……あれ? 蝶々結びじゃないけど、なんだか良い感じに結べた! この感じなら、ちょっと強い風が吹いても大丈夫だろう!!」

「どうやって結んだの?」

「適当?」

「……本番に強いタイプなのかもね」

「緊張して手足が震えるタイプだと思ってたよ」

「そうなの?」

「たぶんね」

「たぶんなんだ……ふーん」

 風が吹いて風鈴が鳴る。その音を楽しみながら魔術師も椅子に座った。

「先ほどの展開……。地の文は微妙なアクションっぽい描写をしてみたかったようだ」

「読み直すと……ちょっと読み難いかも」

 使い魔は自分が目をつぶっていた時の地の文も含めて読んで顔を曇らせた。

「それでも、まぁ……練習にはなったよ」

「地の文さんも練習なんだね」

「そうらしい。……さて、どうしよう?」

「どうしようって? なにを?」

「今回、最初に文章を並べ始めてから、かなり時間が経ってしまっている」

「……わたしも、なんとなくこの世界で結構長く待った気もする」

「すまない。色々と考えていたんだけどね……」

 そう言いながら窓の外、空を見た魔術師は月の形を見て溜め息をついた。

「あれ? 今回の最初の頃は満月に近かったよ?」

「ははは……いつものことでもある。まぁ、気のせいという感じで……お願いじまず」

「お願いじまず……誤字じゃないよね?」

「うむ! もちろんワザとさ! 無駄に文字数を稼いでみた」

「これも練習なんだよね?」

 まじめな顔をして使い魔は尋ねた。

「……練習だけど、ちょっとふざけすぎたかも」

 反省した魔術師もまじめな顔をした。

「色々考えていたのはどんなこと?」

 使い魔は魔術師に、お話の展開の方向をみちびいた。

「まぁ、本当にただ色々だよ。当たり前のことだけれど、考えが矛盾むじゅんすることはたくさんある。むしろ、気になる対象ほど色々な考えが見つかって矛盾が多くなることもある」

「矛盾が多くなるんだ……大変そうだね」

「矛盾が多くてもそれは自分にとっては、どれもきっと本心だから……。矛盾した考えを持っていても、それはそれで判断材料が多いので、悪いことじゃないと思うけどね」

「判断材料……」

「考えが矛盾していても、矛盾していなくても、その中から私が選べばいいだけのこと。どれもきっと本心だから自分にとって間違いはない! ……と思う」

「”と思う”なんだ。じゃあ……わたしのことを嫌いと考えたら……それも本心なの?」

「そうなるかもね」

「そう……なんだ。色々なことを考えていたら……そういうことも考えてるのかな……」

 しゃべりながら使い魔の表情が暗くなって行く。

「でも、その考え方は選ばないよ。むしろ、たくさん考えてソレを塗りつぶしてしまうよ」

「たくさん?」

 使い魔の真っ直ぐな視線に照れた魔術師は、視線を窓の外へ向けて答える。

「よく考える対象の場合は、たくさん考えるというだけだよ。それに、知り得ている考える為の材料も重要だし」

「知り得ている考える為の材料……」

 使い魔は唇に右手の人差し指をくっ付けて何かを考えている。

「……とりあえず! えっと、前回も考えていた別の世界のお話の内容についても色々考えていたのだよ!」

 魔術師が話しの展開を進めるべく力強く言った。

「うん。どんな感じかな?」

 使い魔は穏やかで優しい口調で聞いて来た。

「とりあえず、自分が高校生だった頃の経験は、ほとんど役に立たない……というか、中学生だった頃より思い出し難い。いつも人知れず神経をすり減らしながら過ごしていたというイメージが強い」

「神経をすり減らしてたんだ……」

「昔のことだけどね……今なら楽勝さ! いや、それはいいとして……学校のホラー系のお話だから、とりあえず花子さんを題材に考えていたんだよ」

 ホラー系のお話についての展開なので……というわけではないけれど、雨が降り始めた。

「花子さん。……確か女子トイレの奥から二番目の扉をノックすると……的な?」

「そう、その花子さん。しかし、ノックして返事が返って来る的な感じなのは知ってるけど、その後ってどうなるんだっけ?」

「……う~ん、それを考えるのが必要なことじゃないかな?」

「まぁ、やっぱりそうなるか。……あえて扉をノックしないままでの展開にしてみようかな」

「それは花子さんになるの?」

「お話の中で花子さんだという文章が出て来れば大丈夫さ!」

 風が強くなって風鈴が鳴り、開いた窓から雨が入ってくる。

「そういえば雨が降ってるけど、この世界の明るさはどうだったのかな?」

「月は見えないし雲が厚い……暗いね。このまま怖い話を……と、言いたいけど、今回はこの辺で終わりにしよう」

 窓を閉めながら魔術師が今回を終わりにするきっかけの台詞を言う。

「うん。なんだか今回もグダグダだった感じがするね!」

 使い魔は明るい感じに言った。

「文章能力……やはり考えているだけでは身に付かないのか……」

「練習あるのみだよ!」

「そうだね……。では、今回も文章並べを手伝ってくれてありがとう!」

「どういたしまして!!」

 という感じに今回を終わりにしよう。

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