ならびかえ
あの頃も色々考えていた。
寂しい……どうして寂しいのだろうか……。なんてことも結構考えた。……その内の一つに輪廻の輪というコトバを軸にして考えたものがあった。輪廻転生……生まれ変わり再び出会う運命。それは輪廻の輪の中で繰り返される。でも、自分はその輪から外れてしまった……生まれ変わることは無い。たとえ生まれ変わっても未来永劫一人なんだ……だから寂しい。
自分は余分な存在で、意味が無い。自分がいなくても輪廻の輪は問題なく廻り続ける。……いやだ、輪廻の輪に入れてよ……お願いだから。
と、いう感じのことで頭がいっぱいだった時もあった。まぁ、そんなことを考えているなんて、誰にも知られることもなく時間は過ぎて行ったけれど……。
今の自分としては……輪廻の輪から外れ、運命に縛られない自由があると考える。願わくば、望む運命に自分を組み込ませてもらうとしよう!!
空に月の姿が見えない。薄い雲のかかっている空には星もあまり見えない。雲の切れ間から時折見える星の光では明かりが足りず、闇の色が濃い。
闇の中に明かりで照らされている窓が見える。その明かりは微かに揺れている。
微かに揺れている明かりは蝋燭だった。その窓のすぐ側に、窓の幅と同じくらいのテーブルが置かれている。そのテーブルには大きめの水筒とコップが二つと、お菓子の入った袋や箱がいくつか置かれている。
テーブルには、背もたれのある普通の椅子が二つ用意されていて、片方にはすでに誰か座っている。その人影は右を向いて窓辺の蝋燭を見ている。その反対側の椅子はまだ空席。
先ほどから弱い風が少し開いた窓から入って来る。
微風で暑さを和らげていると、急に少し強い風が吹いて蝋燭の火の揺れが大きくなる。危ないと思い、座っていた人影は立ち上がり右手で窓を閉めた。
そして再び座るとテーブルに置いてある水筒に手を伸ばしかけて止めた。空席に着く相手が来るまで待つつもりだ。
窓を閉めた為なのか部屋の中の温度が上がり、先ほどより暑さを感じる。
風に吹かれる窓は、時々音を立てる。暑さに負けて窓を再び開けようとした時、何かを思い出したのか足早に暗い部屋の中を移動する。
何かにぶつかる音が……するわけでもなく、すぐに戻って来た。手には大きめのコップを持っている。どうやら蝋燭を大き目のコップに入れるつもりらしい。
蝋燭に人影が手を伸ばしかけた時、部屋の中になにか気配が現れた。その気配はこの部屋にある唯一の人影の後ろに、わざわざ回りこむ。
「…………夜の静寂 足元に影は無く 空を見上げれば月は雲の向こう 空に手を伸ばすと雲は流れ月が出る 月の光で影を見つけ振り向くと君はいた……」
人影が呪文を唱えると、後ろの気配はこの世界に姿を現した。
「今回はどうしたの? お菓子がある!!」
姿を現した使い魔は人影……魔術師の後ろからテーブルの上を見て嬉しそうに声をあげた。
「うむ、ちょこっとプロット立てをね……手伝ってもらおうかと。まぁ、お菓子を食べながら気楽に! という感じでね!」
「そういえば、前回そんな感じのお話もあったね」
「そう、それだよ! ……とりあえずお座りくださいな」
「うん。それでは失礼します!」
使い魔は元気よく空席まで移動して、椅子を引いて座る。
「……あ! 椅子を引いて君が座りやすい様に手伝って紳士を演じるの忘れてしまった!」
棒読みで冗談っぽく言う魔術師を見て、使い魔は微笑んだ。
「この椅子はあなたが置いてくれたんだよね。テーブルと椅子の距離が座りやすかったよ」
「……それはよかった」
口元に笑みを浮かべながらおどけて魔術師はひとこと言った。
「蝋燭はそのコップに入れるの?」
使い魔は蝋燭と大き目のコップを視線でさしながら聞く。
「おお、そうだった……。実験してみよう」
「実験?」
魔術師は蝋燭の火の上からコップをかぶせる。
「まぁ、こういう結果になる……で、あってるよね?」
「暗いよ」
コップをかぶせたことで酸素が足りなくなり蝋燭の火は消えてしまった。
魔術師は手探りで蝋燭をコップの中に入れ、再び蝋燭に火を灯した。
「火が消えても蝋燭は熱かった……」
「火傷しなかった?」
「大丈夫!」
蝋燭の入った大き目のコップを窓辺ではなくテーブルの中央に置く。
「暗い部屋でテーブルに蝋燭一本……怖い話はしないよね?」
「…………とりあえず、窓を開けよう。現実の世界で少し時間が経ったのか、強い風はおさまったみたいだし」
そう言うと窓を少し開けた。すると外の涼しい空気が中に入り込んでくる。
「涼しい! ところで、少し長い沈黙があったみたいだけど、風の強さを確認してたの?」
「……まぁ、なんていうか……。立てようとしているプロットが……。ちょっとホラー系にしようかと思ってたんだよ。この状況はわざとじゃないからね」
「……そうなんだ」
使い魔は特に気にしていないような声色で普通に答える。今の彼女には暗いところが苦手という設定がある。
「ホラーといっても怖いお話が紡げるかは微妙だけどね」
「あなたは幽霊って信じる人?」
「ふむ、私は魔術師だよ」
「それは答えになるの?」
「ダメかな?」
「ダメだと思うよ?」
「そうか……なら、存在するという方向で……」
「……ふーん」
「さて、では、まずはこの水筒に入っているコーヒーを飲もう! この水筒には氷も入れてあるから冷たいぞ!!」
魔術師は微妙な感じになっている話題を変えるつもりなのか、妙に明るい口調で言いながら二つのコップに水筒から冷えたコーヒーを入れる。
透明のコップいっぱいに入ったコーヒーを零さないように慎重に使い魔の前へ置く。
「ありがとう! 暑い時は冷たい飲み物もいいよね!」
明るくお礼を言うけれど、内心はどうやって飲もうと考えている。持ち上げると零れそうだし、手に持たないままコップに口をつけるのも躊躇われる。
「ふっふっふ、どうやらお困りのようだねお嬢さん」
「……あら、わかります? どうしましょう?」
魔術師はおもむろに長袖の袖に指を入れて袋に入ったストローを二本取り出した。そして一本を無造作に自分のコップの近くに置き、もう一本を”丁寧”に使い魔に渡した。……くっ、上手く描写できなくて”丁寧”という言葉での表現になってしまった。
「ありがとう! 地の文さんもありがとう! ”丁寧”という言葉でわたしは満足だよ」
地の文を読んだ使い魔が、わたくし……地の文を甘やかした。まぁ、いいけど。
「このお話は登場人物が地の文を読める設定」
魔術師がこの世界の設定を確認のために台詞をはさんだ。
「えっと、設定です」
使い魔が微妙な後押しをした。
「……とりあえず乾杯」
「乾杯」
お互い零れそうなくらい入ったコップを持つことが出来ないので、台詞だけの乾杯をする。ストローをさしただけでも微妙に零れそうだったが、二人とも零さず一口飲むことに成功した。
「さて、それでは少しプロット立てをしてみよう!」
「ところでプロット立てってどんな感じなの?」
「……いまいち解らない! まぁ、とりあえず大体のあらすじとか設定とかだと思う!」
「微妙になりそう」
「……大丈夫! プロットは一度立てたことがある! 微妙だったけど」
「……微妙がいっぱいになりそう?」
「かもしれない。あ! クッキーをどうぞ」
魔術師はクッキーの入った箱を開けて使い魔に差し出した。
「いただきます」
手渡されたクッキーの袋を開けて口に放り込む。そのクッキーの大きさは小さめで普通に一口で食べることができた。
「……とりあえず、今回プロットを立てるお話の中では、私たちも地の文が読めない設定で行こうと思ってる」
「えっと、一応それが普通なんだよね?」
「たぶん……。それと、そのお話の世界に私たちもお邪魔するわけだけれど、ポジション的には脇役な感じで……」
「脇役……名前はあるのかな?」
「名前……それも難しい。いや、それ以上に登場人物がこの世界より増えてしまうから、書き分けられるかも心配だ。まぁ、なんとなくだな!」
「意外と楽観的だね」
「まぁね!」
魔術師は手元に転がっていたお菓子の袋を開けて中身を一気に口の中に放り込んだ。それは飲み物ではないラムネ。
「口の中、大丈夫?」
「……問題ない!」
コーヒーを一口飲んでから右の親指を立てて答えた。
「そういえば、わたし達……まだこの世界での名前もないよね」
「そうだったね。でも、プロットを立てる世界の名前はこの世界での名前じゃないよ。あくまでも私たちにとっては役を演じるということだし」
「この世界での名前を先に考えない?」
「この世界は私にとっては結構重要な場所だからね……大切なところは結構、慎重だったりするんだよ」
「……大切なんだ。ふふ! そっか!」
嬉しそうな笑みを浮かべながら、魔術師がしたのと同じようにラムネを一気に口に放り込む。そして一瞬だけ変な顔をしてからコーヒーを一口飲んだ。
「登場人物の名前をどうするか……。あえて苗字だけとか名前だけとかにするという手もあるか」
「その場合は、わたしは名前の方でお願いね」
「う~ん。……つかいま……つかまい……塚麻衣……でどうかな?」
「……とっさの思いつき?」
「いや、並び替えは前から考えていたよ。……まじゅつし……しまゆつじ……縞由辻……でいこうかな」
「あくまでもその世界での名前なんだよね?」
「そうだよ。あくまでも役の名前」
少しずつプロットらしきものが見えてきたのかもしれない。それを実感して、魔術師はコーヒーを一口飲む。使い魔も同じように一口飲んだ。そして何かを思い出したらしく両手を合わせて小さな音を出した。
「そういえばホラーなんだよね? 廃墟とかを探検する感じなの?」
「……廃墟か! それもいいかもしれない。とりあえず考えていたのは学校の部活動的な感じで、オカルト部の活動みたいなのをやりたいなぁ~って感じなんだ」
「ふーん、じゃあ、わたし達は部員?」
「そんな感じかな。学年は入部したてという感じで行きたいから一年生かな。……いや、ぬぅぅ……むしろ顧問の先生という方が……うーむ」
「大丈夫だよ! その世界も現実じゃないんだから!」
「う、うむ。そうだね」
「そうそう!」
「よし、それで行こう! おっと、コップが空だ。もう一杯、頂こう!」
「あ! わたしが入れるよ」
伸ばしかけた魔術師の手が届くより先に使い魔の手が水筒に届いた。
「そうか、お願いしよう」
「任せて!」
特に難しい作業ではないけれど、零さないように気を付けながらコーヒーをコップに注ぐ。
「おや? 君のコップも残りが少ないようだよ?」
「うん」
自分のコップにも零れないようにコーヒーを注いだ。水筒の中にはまだ三分の一くらい残っている。
「では、改めて乾杯!」
「乾杯!」
今度はコップから零れる心配がないので手に持って乾杯した。
「オカルト部の部員は何人くらいが妥当かな……」
「あなたとわたしと……部長と副部長は必要だよね」
「とりあえず四人……七不思議……もう三人追加で7人かな」
「どうして七不思議が出てくるの?」
「学校とホラーを組み合わせると七不思議……だめかな?」
「いいと思うよ」
「七人か……それぞれの個性を出せるかな」
魔術師は気合を入れるつもりなのかコーヒーを一気飲みした。ちなみにストローは使わなかった。
「その内の二人は難しくないよね?」
「かもしれないね。あれ? コップがいつの間にか空になている……」
「……」
使い魔は何も言わずに水筒からコーヒーを空のコップに注ぐ。しかし、その注いだコーヒーを魔術師はすぐにまた一気飲みしてしまう。
「良い飲みっぷりだと思わんかね?」
「そうだね。……もう一杯?」
「お願いしよう」
魔術師のコップにコーヒーを注ぐと、水筒の中は空になった。
「コーヒー飲みすぎじゃない?」
「……ちょっと気持ち悪くなって来たかも」
「無理して飲まないようにね」
使い魔は魔術師が手に持っているコーヒーを見ながら言う。
「君のコーヒーも狙っているかもしれないよ?」
「そんなにコーヒーが好きなの?」
「さてね」
魔術師は、使い魔のコップのストローを一瞬見た。
「……ふぅ」
地の文から何かを察した使い魔は、わざと少しあきれて困ったような苦笑いを作った。それに対して魔術師は残念そうな笑みを浮かべる。
「まぁ、3割くらい冗談だよ」
「じゃあ、7割本気かな?」
「はっはっは!」
笑いながら胸の辺りをさすっている。どうやら本当にコーヒーを飲みすぎて気持ち悪くなっているようだ。
「大丈夫?」
「……とりあえず今回はこれで終わりにしよう。5000文字を越えてるし」
「わたしは役に立てたかな?」
「もちろん! ありがとよ!」
「良かった!」
魔術師の視線が使い魔からその近くにあるコップに移る。それに気付いた使い魔は、残っているコーヒーを一気に飲み干す。
「おぉぉぅ、残念!」
「……ふふ! 逆にわたしがあなたのコーヒーを飲んじゃうから!」
使い魔は魔術師のコップを手にするとコップにささっているストローでコーヒーを飲んでしまった。
「まさかの展開だ……やられた。というか、キャラ変わった?」
「わたしはわたしだよ。……ちょっとだけ、はしゃいじゃったかもしれないけど。変だった?」
「いや、そんなことはないけど。……正直に言えば、今はコーヒーを飲むのきついかな、とも思っていたんだ。助かったよ」
「うぅ、……わたしもちょっと気持ち悪くなっちゃたかも。でも、美味しいコーヒーだったよ」
「そうか、良かった。次に持ってくる機会があったら、もう一回り小さい水筒にしよう。さて、では今回はこの辺で終わりにしよう」
「次に会うのはこの世界かなそれとも……違う世界の役でかな?」
「たぶん……この世界……だと思うよ」
「ふふっ!!」
という感じに今回を終わりにしよう。




