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その光の正体は

 心というモノについて考えることはよくある。長い時間考えているとその解釈も少しずつ変っていくらしい。もっとも”心に関して”に限ったことでは無いけれど……。それは変ったというより成長したと思いたい所ではある。

 自分が別人になったわけじゃないし……以前の自分を否定したくもないし。

 以前、仕事先の人が言っていた。「人を変えることは出来ないけれど、自分は変えられる」と。考え方は人それぞれ……。

 人を変えようなんて、おこがましいことかもしれない。そもそも、変えようとしなくても人は変っていく……いや、成長していく。

 成長の方向は自分自身を含めた関わるモノによって影響を受ける。

 人を変えようとしなくても関われば自然と影響してしまう。それは自分自身も同じ。影響の度合いは本人次第だろう……。

 人に良い影響を与えたり、望まれる人間になりたいものだ……。


 空の月は欠け始めてしばらく経つ。しかし、今それを確認することは出来ない。雨は降っていないけれど雲が空を覆っているから。空に月が見えないこの世界は暗い。

 この世界の舞台になっている屋敷の床に足音が聞こえた。それは1つ2つと2回聞こえただけで、その後が続いていない。足音のぬしはその場で立ち止まっている。どうやら、目が慣れるのを待っているようだ。しかし、慣れても……見えるか怪しい暗さ……闇が広がっている。

「闇ねぇ……仕方ない。これを使おう……」

 男の声がして、服のこすれる音が微かに聞こえる。どうやら右手を上に上げたようだ、そして指をゆっくりと動かした。すると天井に向かって光が放たれた! 何も見えなかった世界の……部屋の輪郭がおぼろげに見える。

「この力を使えば、どんなに暗くても大丈夫だ! 下に向ければ足元も安心だぜ!」

 右手を足元に向けると床が照らし出される。

「この力を使えば窓の位置だって確認できる!」

 窓の位置を確認して、そちらの方に歩く男の姿が窓ガラスに映る……その姿は…………。

 …………と、言う感じにもったいつけてみたけれど、窓ガラスに映るその姿の主はいつもの魔術師だった。

「しかし、この右手から放たれている光の正体は……分からないはず!」

 右手を縦横たてよこと動かしたり回してみたりしながら、デタラメなステップを踏んで動き回る。まっすぐ伸びる光は右手の動きに合わせて屋敷の中を照らしている。

「ぬぅ!? 使い魔が来る!!」

 魔術師は、指を今度はすばやく動かす。すると、右手から放たれていた光が消えて闇が戻る。それとほぼ同時に、使い魔の気配が現れた。しかし、姿は無い。暗くて姿が見えないわけでは無く、魔術師が、使い魔を呼び出す呪文を唱えるのを待っているからだ。

 姿を現していない使い魔だけれど、自分がいる所が真っ暗なのはわかるので、気配に不安の色がうかがえる。しかし、地の文を読んで、魔術師が何らかの方法で明かりを確保していることを知ると少し安心したようだ。

 暗い所が苦手な使い魔は姿を現さぬまま、魔術師の気配を頼りに闇の中を移動して側に寄る。

「…………夜の静寂 足元に影は無く 空を見上げれば月は雲の向こう 空に手を伸ばすと雲は流れ月が出る 月の光で影を見つけ振り向くと君はいた……」

 魔術師が呪文を唱え振り向くと使い魔は姿を現した。暗くて見えないけれど……。

「今回の右手から光を出すのは……魔術なの?」

「さぁ? どう思う?」

「……あなたが右手から出す光の正体は、なんとなく予測はついているけど……当ててもいい?」

「いや、まぁ……あの、もうちょっと待って……ください」

 なんとなく敬語っぽくなんている。

「でも、わたし暗いのはちょっと苦手だし……。それに予測が外れているかもしれないよ?」

 使い魔は光の正体を言い当てて、暗いという状況を変えたいらしい。

「そうか……ならば、予測をいくつか立ててくれないか?」

「いくつか……えっと…………ま、魔法かな?」

 本命の予測とは違う候補をげる。

「魔法か……指を動かしているからね。それもありえるかもしれない……。指の一振りで光を出せたら魔法みたいだね」

「他には……他には……」

 使い魔は他の候補を挙げようとするけれど、本命の予測が邪魔をして他の候補が浮かばない。自分の中でほぼ確定している為に。

「本命の予測に自信があるようだね」

「そんなことは……あるかもだけど、外れていたら恥かしいし」

 使い魔は自信があると思われて少し弱気になった。しかし、使い魔の本命の予測は当たっている。

「地の文め、余計なことを……」

「あは! 言わずに当てちゃった!!」

 予測が当たっていたことが解り素直に喜ぶ。

「まぁ、いいか。ややこしい答えでもないし……。さぁ、答えを言いたまえ!」

「うん、解った! 懐中電灯だよね!」

 魔術師は懐中電灯を自分の顔の下から上に向けて指を動かしてスイッチを入れる。

「ふっふっふ……良くぞ見破った!! さすが我が使い魔だ」

「たまたまだよ! なんとなくそんな気がしただけだし。大げさだよ!!」

 褒められて嬉しそうな顔をしているのを隠すために俯いている。

「あの、この光の当て方に何か突っ込みを入れてくれないか?」

 チラリと口元を右手で隠しながら魔術師を見て答える。

「う~ん、怖い話をするの?」

「お望みなら?」

「今回はそれは望んでないかな」

「ふむ、ちょっと残念だ」

「ひょっとして、そういうお話の流れにする予定だったの?」

「いや、言ってみただけだ」

 懐中電灯の光でいつものソファーを探しそちらに向かって歩き出す。

「そういえば、今回は蝋燭ろうそくとか、ランタンとか、カンテラは使わないの?」

「まぁ、懐中電灯を持って来たから今回はこれだけで行こうかなって感じだけど。ダメかな?」

「別にいいけど」

「そうか、それならこれで行こう」

 ソファーに辿り着き、使い魔に座るように促す。そして大人しく座った使い魔を残して窓の方まで歩く。

「どこに行くの?」

 明かりが遠ざかることになのか、魔術師が離れていくことになのか、不安を抱く。

「いや、窓枠に懐中電灯を置いてソファーの方を照らすようにしようかなって」

「……」

 懐中電灯の光の方向を調整してソファーの方へ戻る。

「君は意外と不安が多いのかな?」

「別にそういう訳じゃないけど……。あなたが時々、意地悪なことをするから」

「……別に悪意があるわけじゃないぞ? というか、そんなことしたっけ? ……と、とぼけてみたいけど。まぁ、心当たりはあるな。すまなかった」

「いいよ、別に。……優しいだけだと退屈するかもしれないし」

「……そうか」

 使い魔の隣に座り、窓の方へ目を向けると懐中電灯以外の光を見つける。

「空は晴れて来たみたいだね。月が見える」

 使い魔も月の光を見つけた。

「そうらしい、今回も少し時間をかけ過ぎたのかもしれない」

「前回と同じ感なんだ」

「その通り! と言いたいけどね……。今回は上手く文章を並べられなかっただけなんだ」

「……疲れてるの?」

「最近は暑くなって来たからね。まぁ、その他にも姿勢が悪くて疲れやすくなってるのかもしれない」

「そうなんだ、じゃあ、今回はこの辺で終わりにして休む?」

「そうしよう、次はもっとペースを上げれるようにしたいな……」

「頑張って!」

「うむ、頑張ってみよう!! では、今回はこれで終わりにしよう。懐中電灯はそのうち活用するとして……」

 立ち上がって懐中電灯のスイッチを切りに行く。その後を使い魔もついて歩く。

「なんだか、これからって感じだったのにね」

「次までに……怖い話でも考えておくか」

「本気?」

「少しね……。怖い話を語ったことは考えてみれば記憶に無い。結構そういう本を読んでいるのに……自分でも少し以外だ」

「ふーん、そうなんだ」

 魔術師が懐中電灯のスイッチを切ると、部屋の中を照らすのは月の光だけになった。

「さて、この懐中電灯は、あの大き目のダンボールにでも入れておこう」

 月明かりの中を二人は歩く。使い魔は歩きながら自分達の影でなにやら遊んでいる。しかし、さほどの距離も無い所に大き目のダンボールがあるのですぐに着いてしまう。

 魔術師はダンボールの端の方に懐中電灯をしまい、振り向いて使い魔を見る。

「ん?」

「……今回もありがとう」

「どういたしまして!」

「では、また次回に」

「うん!」

 という感じに今回を終わりにしよう。

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