描写
ここに来ても指が動かないときがある。頭の中では言葉が流れているのに、それを文字に出来ない。
想いはあれど言葉にできず、文字に出来ない。そんなことも少なくない。想いはどうすれば届くのか……。
「えっと……我が下僕よ練習をするから手伝い給え」
魔術師が暗がりにそう声をかけると何モノかの気配が漂う。
「少しそれっぽい呼び出し方だね……でもわたし、下僕って言われるのヤダ」
「前回、『それっぽい呼び出し方できないの』って言ったからそれっぽくしたんだが……ダメか?」
「もっとこう……わたし用にというか、わたしを呼んでるって感じのがいい」
「名前を決めて、名前で呼べばいいって事か?」
「名前で呼ぶのも悪くないけど、わたしは使い魔って設定でしょ? なら、何か仰々しいというか、詩的というか……そういうのも付けてくれると嬉しかったり……」
「考えとくよ」
「ちょっとだけ期待しとくね!」
「……」
「少しだけ期待しとくね?」
「……」
「それなりに期待しとくね」
「……」
「?? なに?」
「別に何でもないけど」
「じゃあ、返事くらいしてよ。『まかせとけ』とか!」
「まかせとけ」
「……なんかつまらない」
「気にするなよ。期待に応えようと少し考えていただけだから」
「ふ~ん、そうだったんだ。それならいいよ。そっか……そうなんだ」
使い魔の気配が少し揺らいだ。
「ああ、そうだ。そこの本棚から本を取ってくれないか?」
「あ、はい。本棚、ほんだな、ホンダナ? そんなのあったっけ?」
「そうだよな、前回も、前々回も、この場所についての描写は無い。せいぜい暗がりがあるくらいだったか」
「じゃあ、本棚も本もないの?」
「君が私の言った通りに、当たり前のように本棚から本を持ってきたように振舞えば、本も本棚もあるという設定が出来ていたよ」
「え? わたしのせい? わたし、間違えた?」
「いや、間違えては無い。むしろ、私の場所についての描写力のなさをアピールしてくれた感じだ」
「ひょっとして、わたし悪いことした?」
「そんなことはないよ。課題の一つを提示してくれた感じだ」
「そうなんだ」
「うん。とりあえず、今のところ場所の描写をするか、君と私の姿を描写するかどちらにするか考えている」
「……わたしの呼び出し方は?」
「……」
「ひょっとして、もう忘れてたとか? そうだよね……どうせわたしなんか……」
「忘れてないよ。次までには考えておくよ……詩的か……くさいとか笑うなよ」
「笑わないように努力するよ! あ! ほらほら、1000文字超えてるよ。今回はこれで終わりにして次に行こうよ!」
「べつに1000文字で区切る必要は無いんだけど?」
「えっと、疲れたでしょ? 休もうよ!!」
「終わらせなくても、このまま休むことも出来るけど?」
「……ダメ?」
「まぁ、いいか」
使い魔に促され、魔術師は今回の文字と文章を並べるのを終わりにした。