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月は満ちていった

 ずいぶん前に、学校で習わなかった教科を独学で勉強をしたりもした。自分が人に教えてもらわずに一人で、参考書等を使って勉強をして学んだことの一つに、読めない漢字は強い眠気を引き起こすというのがある。まぁ、単にわからなくて楽しくなかったからというのもあるけれど。

 いまだに読める気がしない漢字が多々ある。……例えば生物という教科の……教科の…………読めないから文字を並べられない!! 調べる手立てだてはあるけれど、あえてしないようにしよう。面倒だし、勉強し直したくなってしまうから。今は、まだその時じゃない。

 名称めいしょうの漢字が読めないと、それについてのことを覚えるのに苦労した……名前はやはり重要だ。読めない漢字を誰かに聞けばよかったかもしれないけれど、答えられそうな人は周りにいなかった。

 参考書の内容を最初の一文字から一字一句いちじいっく完璧に覚えようともしていたこともあった。そのため、全然先に進まなかった。今の”私”は言おう……「そんなこと出来るかぁ!!」言い回しも全部覚えようなんて……ムリ!! なんとなくでいいのさ!!


 空にある月はその形を丸に近づけている。近いうちに丸になり、そして欠けていくだろう。その繰り返しをいったいどれ位繰り返しているのか……。人がそれを正確に知ることは無いかもしれない。神様もひょっとすると数えていなくて知らないかもしれない。そもそも、知ったところで何かが変ることも恐らく無い。

 そんな月を魔術師は屋敷の窓から眺めていた。太陽の光は眩しくて、長い間直接見るのはあまりよくない。この世界の月は現実のそれより明るいけれど、太陽ほど明るくない。長時間見ていても苦痛を感じることはさほど無い。

「ん?」

 後ろに使い魔の気配を感じ取る。しかし、いつもの気配と少し雰囲気が違う。それは少し沈んだ気分の様でもあり、慎重に何かをしようとする様な感じでもある。

「……」

 気配はあっても姿を現していないので声は出せない。使い魔は魔術師が唱える呼び出す呪文を待っている。実際にはこの世界で使い魔が姿を現すのに呪文は必要ない。

「…………夜の静寂 足元に影は無く 空を見上げれば月は雲の向こう 空に手を伸ばすと雲は流れ月が出る 月の光で影を見つけ振り向くと君はいた……」

 魔術師が振り向くと使い魔は姿を現してそこにいた。目が合い笑い掛けると、使い魔も微笑んだ。それに満足した魔術師は再び空の月を眺める。

「ねぇ……」

「なんだい?」

 月を眺める魔術師の左後ろにいる使い魔に振り返らずに注意を向ける。『ねぇ……』と言ってから、静かに近づいている。

 使い魔の前回のイタズラを思い出し、腕組みをしてあえて隙を作る。

「……」

 ほとんど足音を立てずに魔術師の後ろに立つと、しばらく何もしないで沈黙した。魔術師は右肩を叩かれるか、左肩を叩かれるのか緊張して待っている。

 そして、使い魔は行動を起した。

「ぬ、ぬぁ!? な、なな!! えぇ!? あの? ええ??」

 完全に予想外だったらしく、慌てた声を出しす。

「ねぇ……」

 自分の左耳の近くから聞こえる使い魔の声色から、その行動の意味を探る。そうすることで落ち着きを取り戻す。そして”真面目にナニカを聞きたい”という感じを探り当てた。

「…………」

 聞きたいことが何なのか言葉にするのを待っている…………が、背中に当たる柔らかい何か二つにも意識が向けられている。

「……」

 地の文を読んだ使い魔は、自分が今している行動に”更に力を加えた”。

「……どうしたんだい?」

「うん……あのね…………」

 使い魔は自分が聞きたいことを、魔術師にうながして言わせて貰いたいらしい。聞いてもいいのか少し迷っているから。

「さて? なんだろう。言ってみるといい」

「うん……あなたは、明日もあなたでいられるの?」

「…………ん?」

 聞かれた内容の意図がすぐにつかめず、困惑して眉間みけんにしわが寄った。

 腕組みをしている自分の後ろから少しきつく抱き付いている相手のことを、自分の記憶からたくさん拾い集め、あれこれと想像を膨らませる。

 自分が知らない間のことや、一緒にいた時に何を考えていたのかなどを推測したり……。今、背中に感じている柔らかい何か二つが時折、意識に紛れ込んだり……。

「……この手帳のことだよ」

 手帳という言葉を聞いて、柔らかい何か二つ……以外の背中に当たるもの、カーディガンのポケットに入っているそれに気付いた。使い魔が自分のしている行動に”更に力を加えた”のは、手帳に気付かせる為だったようだ。

「……なるほど、それか。灯台下暗しという感じか。私としたことが……不覚だ」

 腕組みをやめて振り向こうとしたけれど、使い魔はきつく抱き付いたまま離れないので振り向けなかった。

「どうなの? この世界でなら、わたしは役に立てるよね? あなたがあなたでいられるように」

 胸の下辺りに回されている二本の手を見ると、自分の服がしっかり握られている。

「君から見たらどう見える? 前回の私と今回の私は同じかな?」

 服をしっかり握っている使い魔の手から少し力が抜ける。

「同じ……だと思う」

「そうか、それなら私はそれでいい」

 軽く服を掴んでいる使い魔の手……その両手の手首を軽く掴む。すると使い魔は魔術師の服から手を離した。

「……それでいいの?」

「君と接している私も確かに自分だからね。私を私だと思ってくれるなら、同じ私でいられる」

「よくわからないけど、役には立ててるってこと?」

「まぁ、そうだね。もっとも、その役は君でなくても可能だけど」

「……そう」

「でも、その役は選びたい。自分が望む私でいさせてくれる相手にね! だから君にありがとうを言おう……。ありがとう」

「うん。えっと……わたしは役立ってるんだよね?」

「とても役立っているさ! ここでの文章並べも……照れ臭かったり、恥かしかったりするけど、楽しいし、今の私も、自分が望む姿であることは間違いない。だから、役立ってるよ」

「それなら良かった!」

「……ところで、この状態も悪くないけれど、そろそろ座らないか?」

「そういえば、なんだか背中にばかり気を取られてたみたいだけど?」

「そりゃ……まぁ。控えめとはいえ主張はあるわけで、気になるし。それに他のことも考えていたさ! バックドロップを食らわされるかも……とか」

「わたし、そんなことしないよ?」

 しないと言いながら、ひそかに両手の指を組んで試そうとする。が、実際にやるつもりは全く無い。むしろ逆に、魔術師が前に腰を曲げたので、自分の足が浮いてしまった。

「軽いねぇ~!」

 使い魔を背中に乗せたまま歩き出す。

「ちょっと怖いよ!」

「大丈夫、絶対落とさないから」

「……うん。ところで……この手帳は、やっぱりわたしが持ってるの?」

 その問いに対して魔術師は足を止めて答える。

「ああ、頼むよ。その手帳の彼は、自分である為に大切なモノを無くしてしまっている。そして、ソレを一人で探している。それを見守ってあげて欲しい」

「でも、この手帳の世界でわたしは何も出来ない。それが辛くて……」

「……彼も妙に勘がいいところがある。なんとなく君の存在には気付いているかもしれない。だから、頼むよ」

「……気付いてるの?」

「反応は無くても感じてはいるかもね」

「……わかった。わたしが持ってる」

「ありがとよ!」

 お礼を言ってからその場で使い魔を背中に乗せたまま回りだす。

「な、何で回るの!? 落ちちゃう!」

 使い魔は落ちないために両腕に力を込める。すると魔術師の背中に強く当たるものがある。……魔術師はそれを狙った……わけでは無いけれど。

「なるほど……何かの法則を発見した気がした」

「それも魔術な……。……ちょっと目が回って来たかも」

 魔術師は少し回りすぎて、目が回っていた。それでも、背中の使い魔が落ちないように気を付けてソファーまで歩く。

「さぁ、着いたよ」

「久しぶりに目が回っちゃった。目が回る魔術なの?」

 ソファーに座り、そのまま上半身を横にして尋ねる。

「魔術なのかな? 単に回って、目が回っただけだと思うけど」

 もう平気だ! という振りをしながら使い魔の少し弱った感じの姿を見て答えた。

「とりあえず結構効いたよ。あなたも無理しないで座った方がいいんじゃない?」

「地の文でばれたか……そうしよう。結構目が回った」

 上半身を横にした使い魔の頭の横へ素直に腰を下ろした。

「あれ? 今回の月ってあんなに丸かったの?」

 使い魔は今回初めて見た月と、地の文で読んだ月の様子の違いを指摘してきした。

「ああ、それは……今回ここまで文章を並べるのに数日かかっているからだよ」

「そうなんだ! いつもは大抵一晩なのに……今回はどうしたの?」

「数日かけて少しずつ進めたらどんな感じになるかなって思って……。思いの外、いつもと変らない気がするけど」

「……確かにわたしはあまり違和感を抱かなかったかも」

「まぁ、この世界の時間は途切れていないからね。全て今回に納められているから。前の日に考えていた展開とその日に並べた文章の展開は結構違ってるんだけどね」

「ふーん」

「回る予定も本当は無かったんだけど、なんとなくそんな展開に……」

 回った魔術師は、使い魔が怒っていないか少し心配になっている。

「怒ってないよ。ちょっと楽しかったし!」

「そうか、よかった」

 魔術師は、ほっとして胸を撫で下ろした。

「わたしはあまり怒らないよ?」

「それは知ってる。胸を撫で下ろす……下ろすだから胸の辺りから下に……そのときの手の形はどんな感じでやるんだ??」

 地の文に従ってそれらしい動作をするが、手の形で迷っている。

「撫で下ろすだから、撫でる感じ……。手は軽く開いた感じじゃないかな? ほら、頭を撫でる時みたいに」

「そ、そうか……こうだな!」

 早速それらしい動作をした。

「出来たね!」

「うむ出来た! ……頭を撫でるか」

 ソファに座って上半身は横になっている使い魔の頭を撫でる。

「ふぅぅん!」

 使い魔は嬉しそうに変な声を出した。それはわざとではなく、自然と出た声だった。

「さて、そろそろ今回を終わりにしよう。4000文字を超えている」

「また数日かけてみる?」

「さて、どうだろうね。では、終わりにしよう。現実の私が眠り、再び今回の文章を一読して推敲すいこうして……」

「誤字、脱字には気を付けないとね!」

「推敲しても……あったりするけど。推敲が甘いのか……。まぁ、気をつけよう!!」

 という感じに今回の区切りをつけて眠ることにしよう。

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