予定変更
今までに何度も聞いたことがある。”嫌なことは全部忘れて……”という言葉を。この言葉の意味を自分がどう解釈しているのかを考えてみよう。
とりあえず、嫌なことであるほど忘れるわけにはいかない。再び似たことが起こりそうな時、回避できずに繰り返してしまう。まぁ、気付いた時には遅いことも多いけど。それでも、手を打つ余裕が少しは出来る。忘れてしまったら、ただ繰り返すだけかもしれない。
と、その一文を言葉通りに見るとそう考えてしまう。そもそも、嫌なことほど忘れ難いと思う。
嫌なことほど忘れ難く、そればかり考えてしまう。そういう時もある。この状態を、言葉を少し変えて表現すると”嫌なことを背負い込んでいる”と、いうようにも視える。
”嫌なこと全部忘れて……”は、背負っている嫌なことを降ろして……という感じなのだろうか。降ろして……嫌なことは置いといて……。という感じ?
解釈としてはなんだか微妙だ。
それに……最初に並べようとした文章の、これは前置きだったのに……本題に入れない! 頭良くなりたいなぁ……。
考えてみれば、これもある意味似たようなことかもしれないな。背負ってはいないけれど、手にしてみたが上手く扱えない。持って散歩しながら練習するのもいいかもしれない。
よし! 少し本題にかすらせる事が出来た!! が、もう少し扱い慣れるのを待とう……駄文が更なる駄文にならないように……。
空には雨雲が広がっていた。小雨が時折、降りてきて地面を濡らしている。
雨雲の向こうに欠け始めた月の光が見える。その光は世界を照らすけれど、その明るさは現実の世界の満月の夜と同じ位。
ぼんやり窓から外を見ている魔術師は、丸椅子に座っている。持ち運びに便利な椅子を、大き目のダンボールから出して持って来たようだ。
「昨日、もう少し頑張れば雨は降っていなかったか……。まぁ、これはこれで文章並べの練習にはなるから悪くは無い……か」
今回は葉桜を見に行く予定がある。しかし外は雨が降り、地面が濡れている。今のところ雨は降っていないけれど、降りそうな空模様だった。
実際には、雨を降らせるのも、降らせないのも、地の文であるわたくしに委ねられている。”雨が降り出した”と地の文が描写すれば、この世界に雨は降る。地の文は神の視点ともいわれる。
「確かに、地の文の力は絶大でもある。でも、登場人物が雨を降らせることも出来る。”雨が降り出した”……と、いうようなことを言えばそれも可能だ」
魔術師は地の文に話しかける。
「その場合、地の文はそれを描写する必要が出てくる。まぁ、それが描写できるかは作者の力量次第ではあるけれど」
登場人物による地の文の使役。
「とは言っても”濡れた地面を乾かせ”と地の文に命じた所で乾きはしない。私は魔術師で魔法使いでは無いから」
魔術師は自分が魔法使いでは無いと言うが、今回より前のお話の中に魔法のようことをした描写もある。
「まぁ、そんなこともあるさ。でも、あくまで私は魔術師だよ。……おや? 少し強い風が出てきたな」
強い風が吹き、窓ガラスを揺らし始めた。この風がしばらく吹き続ければ、濡れた地面も乾いていくだろう。シートを敷いて葉桜を見たいと思う魔術師は、地の文を使役して少し強い風を吹かせた。
「うぅむ、すぐには乾きそうにないな……」
椅子から立ち上がり窓の側まで少し歩いて、外を見てつぶやいた。
どうしたものかと考えていると、使い魔の気配が漂い出した。それは魔術師の後ろへ回り込む。なので、魔術師は呪文を唱える。
「…………夜の静寂 足元に影は無く 空を見上げれば月は雲の向こう 空に手を伸ばすと雲は流れ月が出る 月の光で影を見つけ振り向くと君はいた……」
呪文を唱え終わり振り向くと使い魔がいる。嬉しそうな顔をしながら、自分が登場する前の文章に目を通す。
「ふ~ん、地面が濡れていて雨も降りそうなんだね」
「そんな感じだよ。風が吹いているけど、乾くにはまだ時間がかかる……とりあえず、椅子……ソファーに座ろう」
先ほどまで自分が座っていた椅子ではなく、いつもの窓際にあるソファーに座るように促した。
使い魔は手に持っていたバスケットを、先ほどまで魔術師が座っていた椅子に置くと、素直にソファーに座る。そして、その隣に魔術師も座った。
「乾くまで何して過すの?」
「……………………」
使い魔の問いに魔術師は目を閉じて少し長く沈黙した。
風の音に混じって雨音も聞こえる。地面を風で乾かすつもりが、雨も降り出して外は嵐のようになっている。
現実の世界の魔術師が眠ってしまい、この世界は時間だけが過ぎた。現実では二日ほどの時間が過ぎたようだ。
魔術師はソファーに座りながら眠っている。その隣には、両手を膝の上に上品に置いた使い魔が座っていた。その目は窓の外に向けられている。
「嵐ということは、外に行けない。お菓子を外で食べれない」
首を横に向け、自分が持って来たお菓子の入ったバスケットを見る。そして、溜息をついた。
「仕方ないよね……でも、どうして外が嵐になってるの!?」
口を尖らせて不満を漏らす。
どうして外が嵐かといえば、現実の世界での二日程前、魔術師はこの世界に風を吹かせた。そして、現実の世界の今が雨だから。
「現実でもこんな嵐なの?」
嵐では無いし、雨もそれ程強く降っていない。
「……大げさにしすぎじゃない?」
雨が降っていて、風が強い設定では嵐になってしまう。
「まぁ……いいけど」
隣で眠っている魔術師を見て、使い魔はなぜか許してくれた。
しばらくすると少し寒さを感じて、毛布を取りに何回か前に地下室から持って来た大き目のダンボールの所まで歩いて行った。
月の光は雲に遮られ弱く、足元はよく見えない。けれど、この部屋の構造を知っているので、その足取りは軽い。
大き目のダンボールの中を覗き込み、毛布を見つけると一枚手に取った。その拍子に何かが足元に落ちた。毛布に挟まっていたようだ。
「なんだろ?」
床に落ちているのは手帳だった。その手帳の表紙には、青く透き通った丸い小さな石が幾つも埋め込まれている。
首を傾げながら拾い上げ、いけないと思いながらもページを開いてしまった。
「えぇ? わたし、そんなことしないよ?」
つい、好奇心に負けてしまったという設定なのだよ。
「……えっと……そう! だめだ~、暗くて見えないよ~(棒読み)」
そう来たか……まぁ、いい。使い魔はページを開いてしまったけれど、暗くて読むことが出来なかった。しかし、明るかったとしても読むことは出来ない。なぜなら、その手帳に文字は記されていないから。
「そうなんだ」
このお話は”登場人物が地の文を読める”設定。とりあえずこの一文を並べておこう。相変わらず良くわからない文章なので補足が必要に思う。
使い魔は毛布と手帳を持って戻り、そして気がついた。毛布を自分の分、一枚しか持って来ていないことに。
「……なんだか地の文さんが意地悪だ!」
不満を言いつつも、座って眠っている魔術師に毛布を掛け、自分もその隣に座り毛布に包まる。
「……」
無言で僅かに口元を緩めた。
外は風が止んで雨音だけが聞こえている。
「この手帳の表紙のこの石は何だろう? 宝石?」
右手に持った手帳の表紙を、左肩に掛かった毛布がずれないように注意しながら左手でなでる。そして、埋め込まれている石の一つを人差し指で触ると、急激な眠気に襲われた。
「あ……れ?」
眠りに落ちた使い魔は右手から手帳を床に落とし、右隣で眠っている魔術師の肩に顔を預けた。
二人とも眠ってしまったので、地の文も今回の文章並べを終わりにした。予定通りには行かないものだ……。




