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肩揉み

 自分が生きる意味について、深刻に真剣に考えたこともあった。

 もし、その問いを誰かに投げてみたら、どんな答えが返ってくるのだろう。人によってその問いの意味の大きさは違うはず。

 水面に落ちた石がつくる波紋は大きいのか小さいのか……。心の広さや狭さというよりも、問いの意味の大きさによって違う様にも視える。

 自分が生きている意味……答えは、あって無いような、無くてあるようなモノだと思う。”その意味を探す”という答えでもいいと思う。

 とりあえず今の自分にとっての答えは”日々、生きていると望むモノが色々あるから生きている”にしておこう。

 崇高すうこうな使命を神様や運命が与えてくれる……それもきっと素晴らしいことだろう。でも、選ぶ自由も欲しい所だ。人間は……少なくても自分は欲深いから……。

 神か悪魔か……あの頃の終わりに、理解し認識した優しいモノは自由を教えてくれた。だから自分にとっての自由を理解できる。コトバに出来るかは微妙だけど……。

 現実の自由の一つも欲しい……場所に縛られない自由。文章を並べる能力を高めれば、いつかその自由も得ることが出来るはず! 文章並べを仕事にしてこの自由も欲しい!! この夢は叶うだろうか……いや、叶えよう。

 今の仕事から文章並べ……物書きへ転職。安定しない職業とも聞くけど……確かな望みの一つ。一日でも早く実行に移せるように考えを少し変えよう。

 今の自分が想像するよりもずっと甘くないことは確かだ。……ああ、今、心にあるこれは不安だ。頭のあちこちで警告されている。”無理無理、絶対出来ないから””そんな器じゃないだろ””今までに何を叶えることが出来た?””努力だけじゃ叶わないから””人に認められるのって難しいこと知ってるよね?”

 ──────まぁ、やれることをやって行こう。根を詰めずに気楽に本気に、自分のやり方で!! 不安に潰される? それはない。一番得意なのは”1対0”の戦いだ。不安相手に負けはしない。必ずしも勝つ必要もないけど。

 なにはともあれ、望む夢はこれ一つじゃない。欲深な自分が本当に欲しいのは……。


 空の月は少しずつ満ちていく。しかし、その変化を目で観測し続けるにはとても根気がいるだろう。現実の世界において、それが出来る人間はいるだろうか……。

 窓から空を見る人影がある。その人影は月の満ち欠けを観測している……訳ではなく、ただ見ているだけだった。見ている事に特別な理由には無く、窓際を歩いた際になんとなく外を見ると月が見えたから。

 月明かりに照らされた表情は”もの寂しげ”にも見える。

 窓枠には皿に立てられた蝋燭ろうそくがある。その人影がおもむろに右手を上げる。右手にはライターを持っていた。そして、蝋燭ろうそくに火が灯った。

 蝋燭ろうそくの明かりに照らされた顔は、使い魔だった。

「ふーーーーー」

 深く息を吐いた。それは、火を消す為ではない。”もの寂しげ”にも見える表情がその理由だった。

 窓に背を向け、少しの距離を歩く。その先にはソファーがあった。そこにも人影が一つ。

 使い魔で出来た陰で見えないけれど、その人影の表情を満足そうだった。

「ご苦労さん。しっかり役目を果たしたね」

 その声色こわいろは偉そうに聞こえた。

「くっ」

 くやしそうな声を出した使い魔は右手を差し出しライターをその人影に返した。

「さあ、座るといい」

 手の平を上に向け座るように促すが、使い魔は座らずに差し出している右手を、そのまま握り人影の顔の前に伸ばした。

「もう一回!」

「勝ち負けは時の運だ! 次ぎ負けたら何をする?」

「これはリベンジだから、あなたが決めて」

「そうだな……肩でも揉んでもらおうか」

 不敵な笑みを浮かべている相手に使い魔は、同じように笑った。

「逆にあなたに肩を揉ませてあげるから!」

「まぁ、私はここ数年の間は肩こりを感じたことはないけどね」

「じゃあ、何で肩揉み?」

 その問いには、少し困ったように下唇を上げて、顔も右斜め上に向けた。

「特に意味は無いかな。思いついたことを言っただけだし」

「そうなんだ。だからと言っても、わたしは負けないから!」

 背中に右手を隠し、勝負の準備をする。対するソファーに座っている相手は、右手の人差し指で自分の額を軽く叩いてどう出るか考えているようだ。

 そして、

「じゃあ、始めようか!!」

「うん!」

 若干、長い前置きを終えて勝負の時が来た! さて、勝敗の行方は!! ここで地の文が長々と文章を並べて、勝負の行方を先送りにする技法を使うのも手かもしれない。でも、無駄に間延びするかもしれないので、やらない!!

「よし、私はこれで行こう!」

 差し出された握り拳を見て使い魔は作戦を決めた。

「地の文さんも準備はいいよね! いざ、勝負!」

 勝負の火蓋は気って落とされる。

「そんな、大げさな……えっと、じゃんけん……ぽい」

 差し出されている握り拳、グーに対して、使い魔の手の形は、人差し指と中指で綺麗なピースサインを出している。つまりチョキ。

「……素直にパーを出せばよかった! ぐぅ~~また負けちゃった」

 悔しそうにソファーの後ろ側に移動する。使い魔の影がなくなり、月と蝋燭ろうそくの光に照らされたのは魔術師だった。

「と、まあ、今回はこんな始まり方にしてみたけれど……少しは先が気になる感じになっただろうか」

 使い魔の表情でいつもと少し違う感じを演出できたと思いたい。あくまでも”もの寂しげ”にも見えるだけであって、実際には、もの寂しかった訳ではない。

「今のわたしは、どんな表情をしてるのかな?」

 ソファーに座る魔術師の後ろに立った使い魔は、肩を揉むために優しくゆっくりと両手をそれぞれの肩に置いた。

「なんだかくすぐったいぞ」

 使い魔の今の表情は、敗者の表情では無い。

「な、なに?」

「ジッとしててよ……あなたは勝ったんだから」

「今、どんな表情してるんだ?」

「……」

 その問いには答えず、肩揉みが開始された。

「い、痛た! ちょっと力を入れすぎじゃないか?」

「ふぅ~ん、何のこと? わたし一生懸命やってるよ?」

「そうなのか」

「ごめん、ちょっと冗談。力を入れて揉んでた」

 謝った後は、優しく肩を揉み始めた。

「今度は少しくすぐったい」

「もう! 注文が多いな~」

 使い魔は不満げに言ったけれど、魔術師の後ろに移動する時から、その表情は楽しそうだった。

「肩はこってないけど、これはこれで気持ち良いな」

「わたし、肩揉み上手?」

「そう思うぞ」

 そう言われて嬉しそうに肩を揉み続けるが、さすがに少し疲れてきたらしい。

「平気だよ」

「そうか、ありがとよ! だけど、そろそろ君も座るといい」

「うん」

 肩揉みをやめた使い魔は自分の手を揉みながら歩き、そしてソファーに座った。

「ちょっと両手を出して」

「? こう?」

 差し出された両手の、人差し指と親指の繋がる付け根を魔術師は優しくマッサージする。

「痛くない?」

「……」

 答えない使い魔に構わず、手の平もマッサージする。

「さて、これくらいでいいかな」

「うん。ありがと」

 スキンシップとマッサージに満足したらしくうつむいて隠した顔は笑っていた。

「さて、文章並べの技術を磨きたい所ではあるけれど、今回はこの辺で終わりにしよう」

「終わっちゃうの?」

「3000文字くらいは今回も並んでいるからね。どうやら、400字詰め原稿用紙、約8枚分らしい」

「それなりの枚数分なんだね!」

「まぁ、駄文だけどね……もう少し文章並べの練習ペースを上げよう。今回もありがとう!」

「どういたしまして!! あ! 蝋燭ろうそくの火はわたしが消すね」

 窓に置いてある蝋燭ろうそくの所まで行くと、振り返って一応許可を待つ。ところで、蝋燭ろうそくのふりがなは、全部につける必要は無いのではないだろうか。

「ふりがな……必要ないかも。まぁ、いいさ、よし、火を消してくれ」

「了解です!!」

 蝋燭の火が消えると、月の光だけになる。魔術師も立ち上がり、窓の所へ行くと月を見た。

「あの月が欠け始める前に、次のこの文章並べをしたいものだ」

「頑張って!」

「頑張ろう……」

 という今回の終わり方でした。今回は少し先が気になる感じに最初の方の文章並べを工夫してみたけれど……まだまだ力不足だ。

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