おふだ
時間……現実の世界では、何処にいても何をしていても過ぎていく。今知る限りの知識で判断するなら、地球上の何処にいても時間の速さはほぼ一定だと思う。
自分は”気が長い方”なのかはイマイチわからない。けれど”待つこと”は苦手では無いかもしれない。そうでなければ、あの頃の長い時間に耐えられなかったと思う。
まぁ、時間の感覚が少し壊れたのかもしれないし、鍛えられたのかもしれない……あるいは、単に大人になっただけかもしれない。
待つこと……”望む時が来る”のを、待つことは恐らくかなり出来る。その望む時を夢見ることで待つ時間を楽しむことも出来るから。
気が長い方なのか……望む時が来ていないのなら”気長に待つこと”は出来る。が、望む時が来て、その時間に行けない場合はそうともいえない。また、時間に追われている時も然り……。しかし、現実はなかなか厳しいので時に我慢も必要。
現実の世界の時間は、何処で何をしていても、ただ過ぎていく。その中で自分の望む時間をを過せたならそれも幸せだろう!
望む時の始まりを待つのも有意義な時間でもある。待つ時間も無駄では無い!!
窓から光が差し込んでいる。その光は空の月から届いた光。
月の光が差し込むその部屋で動く影があった。その影は人の形をしていて、どうやら手に何かを持っている。その何かを持つ右手は窓枠の近くを左右に動いていた。そして、ふと何かに気付いたのか窓を開けた。すると、外から冷たい空気が入ってきた。
寒さを感じる素振りを見せた時、月が雲に隠れて少し暗くなった。
手に持っていた何かを窓枠に置き、床にある二つの物を手に持った。右手には棒のような物を、左手には四角い感じの物を。
棒のような物を上手に使って何かを集めている。月が隠れて薄暗いので実際にはちゃんと集められているのかは微妙なところだった。
棒のような物で集めた物を四角い感じの物に入れていく。
しばらくその動作を繰り返していたけれど、ふと何かに気付いた動作をしてから止まってしまった。
雲が晴れて月が顔をだし、その部屋に月の光による明るさが戻る。そして、動作を止めた理由を口にした。
「……ゴミ箱がない」
その声の主は、右手に箒を持ち、左手にちりとりを持った使い魔だった。
前回の時、魔術師が早く来て掃除をしていたので自分もやってみようと早めに来ていた。
「まぁ、いいか! ハタキでまず埃を落として、それから床を箒で掃除する。完璧な作戦!」
窓枠に置かれているハタキを見ながら得意そうに頷いた。
「床もちゃんと掃いて綺麗に……ソファーの下がまだだったね! わたしに抜かりはないのだよ!」
窓の近くにあるソファーの下の埃を箒を使って掃除をしていると、箒の先に何かが当たった。
掃除をしているので当然、それをソファーの下から出した。
「紙切れだね」
しゃがんでそれが何なのか見ると何か書いてある。
「保留……?」
とりあえずその紙切れの端を摘んで持ち上げると、糊が剥がれる感覚が手に伝わった。
床を見ると、そこには水晶の原石のような物が転がっている。それを左手で拾い上げ、右手に持っている保留と書かれた紙とを交互に見て首を傾げる。
「保留……そういえば、前回の時にもこの言葉はあったかな?」
左手の水晶の原石のような物をよく見ると、その中に文字が見える。それは連なり文章になっているようだった。しかし、よく見えない。
「なんだろ?」
窓際まで移動すると、水晶の原石のような物を月の光に透かして見る。すると、使い魔の意識にその中に込められていた文字列……文章が映された。
『珍しくやる気になったのか、立ち上がってどこからか予備のろうそくを一本持つと、玄関の扉のすぐ横に立ち、反対側の壁を見る。
使い魔も興味が沸いて魔術師の近くへ小走りで移動した。
「どんな魔術?」
「それは内緒だよ」
おもむろにしゃがむと、ろうそくで床に線を引き始めた。その線は一本で玄関の扉の横の壁から、反対側の壁に向かって伸びて行く。
しゃがんで線を引きながら移動する魔術師に使い魔は後ろに手を組んで楽しそうに着いて行く。そして、反対側の壁まで引き終えると立ち上がって、真面目な顔をして使い魔に言う。
「この線からこっちに来ちゃダメだよ」
ろうそくで引いた線をはさんでそう言った。
「どうして?」
「ふふ……」
魔術師は左目をつぶって意味ありげに笑った。そして線の中央に線を引いたろうそくを立てて火を点けた。そして、線の向こうの奥へ歩いて行く。
「??」
ろうそくの火に照らされて、うっすら蝋の線が見える。左右に顔を動かして線を見てから魔術師の後姿に目を向ける。
本当は近くで何をするのか見ていたいけれど、『この線からこっちに来ちゃダメだよ』と言われたので、線の手前で大人しくしている。
「これは上手くできた!」
「ねえ! 何が上手くできたの?」
背中を向けて何かをやっているようだけれど、使い魔には何も見えない。仕方なく、線の近くを行ったり来たりしながら何をしているのか見ようとする。
「これは難しい……」
「難しい? 難しいって何が? 地の文さん、何をしているのか文章を並べてよ!」
使い魔は魔術師がどんな魔術を使うのか気になってしょうがないらしい。しかし、今それを文章に明確に説明することを禁止されているので、わたくしは文章を並べることは出来ない。
使い魔は地の文を読み”禁止されている”という一文を見て、線を越えて見にいきたい衝動を覚えた。しかし、大人しく待つことにした。
「上手くいってる……でもコレはキツイなこれは……」
「……」
だんだん悲しそうな表情になりはじめている。そして俯いてしゃがんでしまった。
さすがに魔術師も心が痛くなって使い魔の側に行く。そして地の文を読むのもやめてしまっている使い魔の頭を軽くポンポンと優しく叩いた。
「ごめん、悪かったよ」
「魔術は出来たの?」
「君のお蔭で成功したよ」
「わたしの? どんな魔術?」
「……この線を使った結界。この線を引いて呪文を唱えたんだよ。『この線からこっちに来ちゃダメだよ』って、だから君は線を越えなかった」
「? 魔術って……これ魔術なの?」
「私の扱う魔術の一つだよ」
「でも……ほら? 線の向こうに……普通に行けるよ?」
恐る恐る線の向こう側に、座ったまま右足を伸ばした。
「まぁ、ろうそくで引いた線だからね。物理的には特に障害にはならない。せいぜい滑って転ぶかもってくらいかな。でも、精神的には効果があった。君にとってこの線は私の唱えた呪文によって結界になっていたんだよ」
「なんとなく……意味はわかるけど」
「まぁ、私の魔術は通じない相手には通じないけどね。魔力の問題もあるし……」
「魔力? どうしちゃったの? 今回はやけに魔術師っぽいけど??」
「なんとなくそん気分だったからかな」
「そうなんだ。それで魔力って?」
「ふむ……でも、その前にソファーに座るとしよう」
しゃがんで見上げている使い魔の右手を取って立ち上がらせて、ソファーまでエスコートした。
使い魔をソファーに座らせて自分はその前にしゃがんで顔を見上げる格好になった。
「どうしたの?」
「隣に座ってもいい?」
「いいよ。……さっきのは別に気にしてないから……そういえば、あの時何が上手くいってたの?」
使い魔の隣に静かに座ってから答えた。
「こうやって両手の指をくっつけて……まぁ、指回しだね。薬指は難しい……」
先ほど線の向こうでやっていたこと……指回しを再現する。薬指の指回しは確かに上手くできていない。使い魔もまねてやってみるが、こちらも上手くできていない。
「た、確かにこれは難しい……あ、そういえば魔力って?」
「うん。魔力はいろいろなモノで変換できる。とりあえず私の基本的の魔力は自信……自分を信じることで魔力を得ている。過剰にならないように注意が必要だけど……それこそ、いつかの天秤が必要だ」
「さっきのもその魔力を使ったの?」
「……別の魔力だよ使ったはね。君との間にある信頼が魔力になった。その魔力があったから、私の言葉は呪文になり効果を君に対して発揮した……」』
使い魔は起きているのに夢を見たような感覚を体感した。
「なに今の?? わたしがいて……でも、わたしは……あれ? でも、わたしじゃない?」
窓枠に水晶のような物と保留と書かれた紙切れを置いて。落ち着いて考えてみる。
「……前回の時、保留にしたストーリー展開が……という感じのことを言ってたっけ。この『』で囲われている文章がそれなのかも」
見てはいけないモノを視てしまったと思った時、背後の景色が揺らぐ感覚を覚えた。そして、魔術師が現れた。
魔術師に背を向けたまま、今回は気配も姿も消さずにジッとしている。
「どうかしたの? 今回は、まだ君を呼ぶ呪文を唱えてないけど?」
「あの……ごめんなさい。ワザとじゃないけど、これ……」
水晶の原石のような物と、保留と書かれた紙切れを手に持って振り返った。登場人物が地の文を読める設定のこの世界では、並んでいる文章は隠すことが出来ない。
「ん? …………ああ、そうだったか、どうやら落として帰ってしまったようだ。落とした描写も前回の時、入れておけたらいい感じだったな」
地の文を読み、現状を把握して苦笑いを浮かべながら、ため息混じりに言った。
「あの、これはどうしたら?」
「とりあえず、預かっておこう」
使い魔からその二つを受け取りポケットにしまった。
「怒ってない?」
「怒る要素は何処にもないよ? むしろ、掃除してくれてありがとう!」
不安そうな顔をしている使い魔の頭を微笑みながら軽くポンポンと叩く。
「……」
「さて、窓を閉めておくれ! 私はソファーの下の掃除を終わりにしよう!」
窓を閉め、ソファーの下の掃除が終わり、掃除用具を片付けてから、ソファーに並んで座る。ちりとりのゴミの行方は不明……。
「保留の文章……ごめんなさい」
「問題は無いよ。そもそも、本当にダメならもっと厳重な札を貼って封印していたさ」
「封印……あれは魔術のお話だったね」
「そうだったね。そのお話の部分は、コピーして貼り付けで保存した、そのままの文章……痛い文章だ」
「…………」
使い魔は魔術の描写部分以外のところを読んでいる。
「……」
「さっきの紙……お札も魔術なの?」
「ある種の呪符だね」
「どんな効果があったの?」
「一応は封印かな。書かれているのが”保留”だけだから、簡単にすぐ剥がれちゃったけどね」
「剥がれやすい糊で貼ってあるからじゃなかったんだ!」
「糊の種類はあまり関係はないよ。魔術……呪符も書かれている文字や記号や文章が重要なんだ」
「そうなの?」
「少なくとも、私の場合はね。……紙に書かれているのが”保留”ではなく、”絶対触るな”だったら、君は恐らく札に触らなかった」
「でも、絶対触るなって言われると……ちょっと触りたくなるかも」
「まぁ、禁止されると……そうかもしれない。でも、剥がすのを躊躇はするよね?」
「……うん」
「その躊躇させることが、封印になるんだよ。少なくとも破られるまでの時間を稼げる」
「……なんとなくわかる気がする」
「簡単な呪符でも、魔力の量と種類によっては絶大な効力を発揮する」
「そういえば、あの封印されてた水晶の原石のような物に込められていた文章に、そんな感じの説明もあったね」
「……同じことを言ったとしても、言ったのが誰なのかによって効果は違う。それは、言ったモノと聞いたモノとの間にある魔力の量と種類の違い。知名度も魔力になる。有名な人が言ったことは案外、信憑性が高く感じるのはそのためさ」
「ちょっとだけ、わかりやすかったかも!」
「そうか、良かった」
「ふふ!」
「でも、魔力は危険でもある。魔力が強ければ、使い方を間違えると相手をひどく傷つけてしまう」
「同じ言葉でも、信じている人に言われたら耐えられないことも……あるかもね」
「そんな感じだね。でも、だからこそ癒えることも多い」
地の文が少ない……ソファーに座ったままだと描写が難しいかもしれない。座ったまま話す場合は、周りの状況や、表情、喋り方身振り手振りを描写や心理描写……しかし、地の文は登場人物が読めるし、地の文としてのキャラクターもいる……心理描写か……練習せねば。
「地の文さんに気を使わせちゃったみたいだね」
「そうみたいだ」
地の文への気遣いをそれぞれしつつ、魔術師はポケットから水晶の原石のような物を取り出した。
「そういえばどうして、水晶の原石のような物に込められてるの?」
「考え方を文章にしてみても、上手くまとまっていなければ、こんな感じさ!」
魔術師が左の手の平に乗せているそれを、使い魔は覗き込むように見る。最初に見たときより表面が滑らかになっているように映る。
「少し上手に説明できたから?」
「まぁ、そんなところだろう。でも、もうコレに込められた文章は並んでいる」
手の平に乗せたそれを使い魔の顔から遠ざけると、右手の人差し指で3回軽く叩くとソレは水になり零れた。
「今のは……魔術? それとも魔法?」
「さぁ? なんだろうね。私にもわからない」
そう言ってて笑った。
「本当にぃ?」
「ははは……さて、そろそろ今回を終わりにしよう。少し上手に説明できた気がして良かった。気のせいかもだけど」
「良かったね!」
「おう! ありがとよ!!」
そして、今回の彼らの文章並べが終わる。
今回は、月の光の中でのお話で、カンテラ等の明かりはなかった……掃除用具は部屋の隅に置いたまま忘れて帰った……という必要無さそうな補足を並べつつ、地の文も今回の文章並べを終わりにする。




