賢者ョシジ
小学生の頃……年齢が一桁の頃、近所の同じ小学校に通う人達とよく遊んでいた。その遊びの中に川をジャンプして向こう側に行くというのがあった。一メートル半くらいの狭い川……ドブ川かもしれない。9歳頃の自分の身体能力では助走なしで飛び越えるのは危うく、落ちたこともある。10歳を過ぎた頃には”そういう遊び”をあまりしなくなった……。
高校生になって再びその川を飛び越えた。片方の足を伸ばし、もう片方の足の跳躍で簡単に飛び越えることが出来た。
特に深い意味は無いけれど、今に至る運命の大きな分岐点が恐らく10歳の頃にあった。それが何だったのかは解らないけれど。”そういう遊び”を続けていた場合の、今に至る運命を視てみたいとも思う。
そのどちらかを今になって選べるとしたら、どちらを選ぶだろうか……知り得ぬ運命は視えない。だから描くしかない。いつか描いてみたい……そして、これでよかったと笑ってみたい。答えは最初から決まっているのだから。
この世界は夜で今宵の空には円に近い月が浮かんでいる。その月は現実のそれよりも明るい。しかし、その光も地下室までは届かない。
その地下室は薄暗い。月の光が無くても、光るナニカが所々にあって真の闇にはなっていない。
薄暗い闇の中に靴音が小さく鳴る。その音は歩くというより降り立ったという感じの音だった。その音を出したのは、このお話で、今のところ使い魔と呼ばれているキャラクター。
地下室に降り立った使い魔は、ばらく動かずに目が慣れるのを待っていた。暗いところが苦手ではあっても怯えて動けなくなることは無い。
少し心細く感じつつも、目が慣れると足元のカンテラを見つけ明かりを灯した。電池式のそれはスイッチ操作で簡単に点く。
地の文のわたくしは、少し不安になった。カンテラ……ランタンと文字を並べたりしていなかったかを……。まぁ、大丈夫だろう! でも一応、使い魔が点けたカンテラは魔術師の持って来た物とは別。地下室にあった物にしておく。
「地の文さん……相変わらずだね! わたしライター持ってないから電池式で助かったよ」
くっ、心配になって読み直してみたら前回……混同していた。まぁ、似たような物だから……。
「……じゃあ、わたしのがカンテラで、あな……た……いないと、なんだか言い難い。わたしの立場上、魔術師って呼び捨てで良いのかな? う~ん……とりあえずそっちはランタンってことでいいんじゃないかな?」
それで行こう! なんとなく使い魔と意気投合した気がする。魔術師は人間……いない時は、あの人でもいいかもしれない。
「別に、わたしと地の文さんは仲悪くないと思ってたけど……」
このお話では登場人物が地の文を読める設定。地の文との会話も許されている……。確かに、わたくしと使い魔は仲悪くは無いだろう。
さて、地の文であるわたくしは役割に戻ろう。
カンテラの明かりに照らされた使い魔の手にはバスケットがあった。そしてその足元には、カンテラに明かりを点ける時に置いた水筒があった。
バスケットも水筒の側に置くと、雑貨が色々ある方に向かう。目的は机を取りに行く為。実は前回の時、目をつけていたのだ。その机はキャスターが着いていて簡単に移動することが出来る。
その机に雑貨の中から見つけたカップを二つと、カンテラを乗せてストーブが置いてある所まで運んで行く。ストーブは電池切れなのか、火が無いと点けことが出来ない。
ストーブと机の位置を決めると、机のキャスターが動かないように固定する。机の高さは低く、床に座るとちょうど良い。四角い机の真ん中にカンテラを置き、バスケットとカップと水筒を端に置いた。
「これでよし!!」
準備を完了して魔術師が来るのを待つ。しかし、寒いので毛布に包まって姿を隠す。カンテラは点けたままなので、魔術師が来ればすぐに見つかってしまう。姿や気配を消すと、物に触ることが出来ないのに寒い……ので、毛布をかぶって隠れる。
しばらく待っていると、カンテラに照らされた地下室の景色が揺らぎ、魔術師が現れた。
魔術師の目は、最初にカンテラの方へと向けられる。そしてすぐに毛布に包まっている塊に向けられた。
「…………夜の静寂 足元に影は無く 空を見上げれば月は雲の向こう 空に手を伸ばすと雲は流れ月が出る 月の光で影を見つけ振り向くと君はいた……」
毛布から顔を出して笑いかける。
「えへへ、どう? お茶会みたいで良いでしょ!!」
用意したものの方へ、右の手のひらを上にして差し向け、見るように促す。
「良い感じだね。お茶会だ!」
そう答えてから、ストーブに火を点ける。
「バスケットの中は何だと思う?」
「さて、なんだろう? 水筒とカップがあるから食べ物かな」
顔を机の上に乗っている物に向けながらどこからかビニールシートを取り出した。それを机の近くに敷く。そして、使い魔に座るように促した。
「ほら……最近、チョコレートの日があったでしょ、だから、わたしもそれっぽいのを作ってみたの!」
「ほう! それはすごいな!! 楽しみだ!」
「チョコレートを溶かして、普通のクッキーに乗せただけだけどね」
ビニールシートに膝をついて、バスケットの蓋を開けて作品を見せる。
「上手だね、手作り感も出てる」
バスケットの中のそれは、クッキーに乗せてあるチョコレートの量がそれぞれ違う。
「同じ量をのせようとしたけど、上手くいかなくて……」
「そうなのか? 美味しそうだけど」
「ふふっ! それじゃ、食べてみて!!」
「頂くとしよう」
魔術師は使い魔の左隣に座りバスケットに右手を伸ばした。
やや長方形の机……並んで座る左前方にストーブがある。机とストーブの位置的に左側と向こう側には座れない。ストーブが近すぎて熱いから……そして右側にはまだ使っていないカップが二つと水筒がある。
右手に持ったそれをひとしきり眺めてから口に入れる。
「どう?」
「…………」
「味……変?」
不安そうに表情が曇る。
「美味しいよ。よく味わってしまった!」
「よかった!」
曇った表情が笑顔に変る。そして、機嫌よく水筒の中身をカップに注ぐ。
「この匂いは紅茶?」
「うん、温かいよ! どうぞ」
「頂きます」
魔術師がカップに口をつけるのを見てから、自分もバスケットの中に左手を伸ばした。
カンテラの明かりとストーブの火の明かりで照らされる地下室で、お菓子と紅茶でリラックスしながら過している。
「ねぇ、そういえば……えっと、ヨシジさんはまだ登場してないけど、どうして名前があるの?」
使い魔は未だに自分の名前が決まっていないのに、新しく呼び出される予定の使い魔には名前があることが気になるらしい。
「ああ、ヨシジさんか……彼は依り代がはっきりしているからね」
「依り代? ……えっと、前回の厚みのある本のことだね」
「名前もその依り代を元にしてるからね」
「ヨシジさん……」
「彼は賢者だから色々なことの意味を知っている。その力の使役難易度はそれほど高くない……私は基本的に日本語オンリーだけどね」
「あれは辞書だったんだ」
「……まぁ、ヨシジさんだよ」
「ヨシジさんだね!」
「そう、ヨシジさん……彼はお堅い賢者さんだ!」
「ヨシジさんは賢者なんだね。ところで、わたしは?」
「職業というやつか……使い魔?」
「そのままじゃん! それなら、あなたは魔術師?」
「まぁ、そんなところだね。近いうちに、魔術師と使い魔と賢者でダンジョンに挑もうか!」
「ダンジョンあるの?」
「……描写できればね! さて、今回はこれくらいで終わりにしよう」
魔術師はカップに残っていた紅茶を飲み干して言った。
「そうだね、3000文字も超えたし……」
「お菓子も紅茶も美味しかったよ。ありがとう」
「どういたしまして! また、他にも作ってみるね!」
「それは楽しみだ! さて、カップは私が洗ってこよう」
魔術師は立ち上がりストーブの火をを消して、机のカップを2つてに持つ。
「カンテラの明かりも消すね! 忘れ物は……なしっと!」
「では、今回はこれにて!」
使い魔がカンテラの明かりを消し、地下室は元の薄暗さに戻った。そして、今回の文章並べを終わりにする。




