呪文
さて、文章を並べる練習をしよう。使い魔を召喚しなくては……。
「おーい!! 手伝っておくれ!」
暗がりに声をかけると何モノかの気配が漂う。
「……ねぇ、あなた魔術師なんでしょ? もうちょっとそれっぽい呼び出し方できないの?」
姿は見えないが、少し不満そうな声が響く。
「あー、えっと、一応私が使う魔術は独学だよ。それっぽいというと……う~ん、タッダメアハウョキとか?」
「あっ! それっぽい気がする!! 何か意味があるの?」
「もちろんあるさ。カタカナ効果だな……それっぽい」
「カタカナ効果? たっだめあはうょき?? なんか言い難い」
「漢字とひらがなだと、たっだ雨は日今……になる」
「なんか……騙された。右から読むと、今日は雨だった……確かに意味はあったけど」
「ふはは! 君は私の魔術にかかったのだよ!」
「……」
「あの、ただの冗談ですよ?」
「……」
「えっと、なんというか、ごめんなさい」
「別に怒ってない! つまり、あなたは呪文を使わないってことなの?」
「私は基本的に日本語しか使えないだけだよ」
「日本語は使えるんだね」
「正しく使えるかは別だけど……まぁ、あえて間違えることもあるんだけどね。完璧な人間はいないさ」
「ねぇ、わたしを呼び出すそれっぽいの無い?」
「その内、考えとくよ。そもそも本当は、君をちゃんと召喚できていない」
「そうなの?」
「うん。実は君を召喚する呪文の詠唱中だったりする」
「……??」
「会話文を使って今のところ君の性格設定を呪文として詠唱している」
「……」
「会話文を読み進めるうちに、読んだ人はなんとなく君の性格をイメージできるようになってくる。それは、この文章の並びの中で君の存在を認識したことになる」
「そう……なの?」
「読んだ人にその読み物の中で存在を認めてもらうというカタチの召喚術だよ」
「なんだか微妙だね」
「私の扱える魔術はそんなものさ……読んだ人の意識の中……世界に召喚する。まぁ、印象に残らなければすぐに消えてしまうけどね」
「なんて言うか……あなた自身の性格も呪文として詠唱してない?」
「……仕方あるまい。それにお話の中のことだし……れ、練習なんだよこれは!」
「ところで、文章の進み遅くなってきたよ? 無理して上手に説明しようとしてない?」
「少し自分の持ってる考え方を文章にして並べてみたくて……まだまだ力不足過ぎる」
「もっと上手に出来るようになってからの方が良さそうだよ?」
「そだね」
「ええっと、う~んと……ねぇ、マスター」
「なんだい? マスターにお願い事かな」
「近い内にわたしの姿形も詠唱してよね」
「うん、まかせとけ!」
「……今回は練習になった?」
「もちろんなったよ! いい練習が出来たと思う。でも、少し疲れた。1000文字も超えている。終わりにしよう」
「えっと、解散?」
「うん。お疲れ様」
「……おつかれさま」
その言葉を言い終わると使い魔の気配は消えた。
「前回よりなんだか疲れたな」
魔術師は今回の文章並べを終了した。