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大き目のダンボール

 自分が二十歳のときの成人式の日に、心残りが二つある。

 今となっては、どちらもどうしても必要と思うことでは無いけれど。一つは問い……もう一つは答え。この問いと答えはイコールでは結ばれない。別々の問いと答え。

 あの頃、自分がちゃんと存在しているのかが、どうにも信じられなくて苦しかった。だから、かつて同じ場所で学んでいたはずの誰かに”自分が本当にここにいたのか”を問いたかった。でも……問う前に答えが与えられた。それは望んでいた答えだったけれど、本当に必要だったのは答えの導き出し方の実践。答えじゃなかったんだ……気付いた時には遅すぎた。

 答えの方は、言葉や色々なモノが足りず……コトバの答えを得られなかった。こちらは、いつか……と、思っていたけれど、それに答えられる唯一の人間はもういない。

 いつか時が来たなら眠るそこに花を置こう。供えはしない……あの頃の、私の想いの一つ……”私”を殺すことが出来たかもしれない唯一の人間への敬意として。

 一度も、憎いと思ったことも恨んだことも無い。むしろ感謝している。

 再び会うことがあったなら「助けてくれなくて、ありがとう。ごめんなさい」と、ちゃんとお礼と謝りの言葉を言いたかった。”私”を殺すことを頼んでしまっていたような気もするから……限り無くゼロに近い希望を込めながら。

 安らかにお眠りください。あの頃の”私”を忘れず、今の”私”として、これからの”私”として歩みますので……。

 

 そのランタンの光は地下室の暗闇を照らしている。魔術師と使い魔は雑貨が置かれている所を見て回っている。

 前回の時から思いの外、時間が経ってしまっているので、前回の終わりから眠り続けていた……では少々都合が悪い気もする。前回の終わりを眠りについて終わりではなく、この世界から帰った。に、するべきだったのかもしれない。

 ということで、眠ったり起きたりしながら地下室の探検は進んでいたということにする! これでオーケー!!

「地の文さん……ちょっと苦しい設定かもしれないね」

「そんな感じに、よくわからない所もこの世界の設定だから大丈夫さ!」

「ふーん……そうなんだ。それなら大丈夫だね」

 雑貨の中から手に取った玩具の鉄砲……拳銃を暗闇に向けて両手で構えながら、使い魔はそれほど興味もなさそうに言った。

「銃を構える姿、カッコ良いじゃないか。持って行くかい?」

「うん! そういえば、わたしは使い魔だけど、何か戦闘スキルとかってあるの?」

「さて? どうだったかな……とりあえずそれを装備して、攻撃力が15上がったかな」

 使い魔は攻撃力が15上がった。ステータスを見ると、射撃攻撃の命中率は25パーセントだった。

「そんなに低いの? おかしいなぁ……」

「地下室で暗いからかもね」

「それじゃ、仕方ないよね。まぁ、たぶん撃つことは無いけど」

 使い魔は装備していた玩具の拳銃を近くに置いてある大き目のダンボールに入れる。そして魔術師の方を向き、目に映ったその格好に苦笑いを浮かべた。

「鍋と蓋を装備してみた」

 鍋を頭にかぶり、その蓋を盾のように持っている。両方あわせて防御力は40上がっている。

「玩具の鉄砲の弾は弾き返せるだろうね……でもそれはお料理に使った方がいいかも」

「おっしゃる通りですな。私は料理できないけど……そういえば出汁だしを取るというのは、わかりやすく言うと水……お湯に味をつけることなんだろうか」

「……」

 使い魔は聞こえなかった振りをしながら、気になった物を選びながらダンボールに入れる。魔術師から文章並べに役立ちそうな物を好きに選ぶように指示されているから……。

「この本も持っていこう」

 魔術師はかなり厚みのある本をダンボールの端に入れる。

「なんていう本なの? 暗くてタイトルが読めないけど」

「……この本は魔導書だよ。ある程度の設定が決まったらこの本で、ヨシジさんを召喚することにしよう」

「ヨシジさん? 誰?」

「彼は真面目でお堅い賢者だよ。まぁ、使い魔として呼び出すことになるけどね」

「使い魔……わたし以外にも必要なの? わたし頑張るよ?」

「ありがとよ! いつも助かってる。だけど、ヨシジさんも必要だ。彼にはこの屋敷の管理をお願いしよう」

「わたしも掃除くらいなら出来る……」

 使い魔は、自分以外の姿を持つ使い魔が描写されることに戸惑いを覚えている。

「そうか。だけど君には私の文章並べを手伝うという大切なお役目があるのだよ。だから、これからも頼むよ」

「…………仕方ないなぁ! わたしがいないと駄目だってことだね。いいよ、手伝う!!」

「うむ」

 使い魔も自分の役割を再認識して機嫌良く作業に戻った。

 しばらくすると大きめのダンボールもいっぱいになっている。

「ちょっと入れすぎちゃったかな」

「これくらいなら大丈夫だ」

 そう言って魔術師はダンボールを一人で持ち上げた。

「手伝うよ」

「一人で大丈夫だよ。ちょっと上に置いてくるから待ってて」

 軽く持っているようだけれど実はかなり重い。そんな素振りを見せずに歩き出す。

 階段の方はランタンの明かりが届かず真っ暗だったので、使い魔はランタンを手に持って魔術師の後ろから足元を照らす。

「足元、暗いと危ないよ」

「そうだね、この地下室は物が色々転がってたりするし……気が効くね!」

「どういたしまして!」

 そして、階段の下まで辿りついた。

「さすがに、階段は私が転んだら危ないから待ってて」

「……」

 魔術師が階段を登りはじめると、使い魔も足元をカンテラの明かりで照らしつつ後に続く。

「……」

 それについて魔術師は何も言わなかった。

 幅の狭い階段で大き目のダンボールを持って登る魔術師には足元はほとんど見えていない。

「……ぇ」

 役立っていると思っていた使い魔は地の文を読み、小さな声を出した。

「足元は見えないけど、役立ってるよ。君が後ろにいるなら転ぶ訳にはいかない。だから、転ぶことは無い。役立ってるさ」

「……」

「……」

 無言のまま階段を登って行き、ドアの前に来て魔術師は少し困った。

「すまないが、ドアノブを回してくれないか」

「うん」

 魔術師の右脇からダンボールの下を通り、伸ばした右手の指先がドアノブに届く。そしてドアノブは回され、ダンボールに押される形でドアは開いた。

 久しぶりに戻るそこは、地下室に降りる前のままだった。そして窓からは月の光が差し込んでいる。

「助かったよ! ドアを開けなきゃいけないことを忘れてた」

「やっぱり、私がいないと駄目だね!」

「そういえば地下室から戻る時、手を繋ぐんだった……」

「……また今度でいいよ。一緒に力を合わせて荷物を上まで運んだから、今回はこれでいい」

「そうか。でも、一つ忘れていた……ストーブの火を消してない」

 魔術師は使い魔の左手からカンテラを受け取ると地下室へ向かう。

「待って、わたしも行く」

 その声に振り向く魔術師に手を差し出す。その手を握り再び地下室へと降りていった。

 地下室に置いてあるストーブの火を消してから、それぞれ帰ったという感じにして今回を終わりにしよう。

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