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ちりばめる

 始まりは16歳の頃だった。自分が自分であるという確かな確信を失い、長い時間が始まったのは。今から数年前にソノ時間から抜け出した。しかし、確信が取り戻せたわけではなかった。確信を取り戻したのはそれから更に数年後……ソノ確信を取り戻した時に思った。これで、16歳からの続きが生きられると。

 だが、そんなことは許されない。

 現実での時間は止まることなく進んでいたし、自分にもその時間を現実で生きていた記憶もある。残念な気もするけれど、その時間が無ければ今の自分足り得ない。だから、これで良かったとも思える。

 無駄では無い……いや、無駄にしない! たとえ無駄な時間があったとしても、ソノ時間に価値を見出せばいい!!


 今のこの世界は夜、空には丸い月が浮かんでいる。その月の光は現実のそれよりも明るく夜の闇を照らしていた。

 舞台となる屋敷の入り口の扉は閉まっているが鍵は掛かっていない。その扉から入ってすぐの部屋は窓から入る月の光で照らされている。魔術師も使い魔もまだ居ないけれど、窓のカーテンは開けられたままだった。何故かというと前回の時、閉める描写がなかったから。ついでに、ローソクもストーブも消す描写もなかったので、ストーブの灯油は切れて火は消えているし、ろうそくもまた然り。

 月の満ち欠けの描写を入れたいので時間の経過も考慮せねば……。

 とりあえずの舞台の描写設定が終わり、ストーブと近くにあるソファーの間の空間が揺らぎ魔術師が姿を現した。その手には何かを持っている。

「そうだった……火の後始末はしっかりしないと危ないな。注意不足だった……」

 登場人物が地の文を読める設定ではあるが、この場合は独り言という風にも取れる。魔術師のこの発言は、地の文を読んでのものだけど。と、文章を並べてみたけれど、推敲すいこうという、仕上げ? の作業をする時、余計な文章は削られたりする。

「心配しなくても、そこは削られないよ。この世界の設定の説明として必要だと思うし……たぶん」

 前回の時やり残したストーブの後始末をしながら地の文に語りかける。

 次に前回のローソク……燭台しょくだいを片付けようとそちらを向くと、そこには何も無かった。そして気がついた。使い魔の気配に……。

「今回は、やけに気配を上手く消したね。正直、気付かなかったよ。…………夜の静寂 足元に影は無く 空を見上げれば月は雲の向こう 空に手を伸ばすと雲は流れ月が出る 月の光で影を見つけ振り向くと君はいた……」

 魔術師が呪文を唱え振り向くとそこには使い魔がいた。冬の季節も進み、外は真冬の寒さだが、使い魔の服装は、長袖のワンピースにカーディガンを羽織っているだけだった。そして、右手には燭台しょくだいを持っている。

「あなたを驚かせてみたくて、気配を忍ばせてみたの! ビックリした?」

「ああ、ビックリしたよ」

 魔術師の答えに満足して満面の笑みを浮かべる。しかし、次第に口元の笑みが消えていく。

 屋敷のその部屋はストーブの火が消えてかなり冷えていた。口元の笑みが消えたのは寒さに気付いたから……。

「えっと、ちょっと寒い……かなり寒い」

「そうだね。早いところ、地下室に行こう」

「……そういえば前回、そんな話しもあったね。地下室は暖かいの?」

「暖かい空気は上に行くから、ひょっとしたらここより寒いかも」

「……さむいんだね」

 寒いをひらがなでゆっくり言った。セリフをひらがなにすることで、この場合の言葉を無感情っぽい感じにしてみたかったけれど、やはり文章での描写は必要だと感じる。

 単純に”無感情に嫌そうに言った”と文章を添えれば良いのかもしれない。ああ……ここも推敲すいこうで削られるだろうか。

「削らないよ、この文章を読み返す時にきっと考える。もっと上手な描写が出来ないだろうかと。それはきっと力になる」

 魔術師は地の文を励ました!

「あのっ、別にわたしは無感情に嫌そうに言ったんじゃなくて、寒いのをどうにかできないかなぁ? って考えながらだったから、そう聞こえちゃっただけで……」

「……地の文の暴走か!」

 使い魔のセリフがひらがなだったから、意味を付けたくてなんとなく……。姿無き地の文ではあるけれど、使い魔が怒っていないか申し訳なさそうに様子を伺う。

「え? あー……怒ってないよ。でも、よくわからない文章になってる気がする」

「確かに……では、状況を変える意味も込めて、いざ! 地下室へ!! っと、その前に……」

 魔術師は手に持っていた何か……ランタンに火を灯した。

「わぁ、なんだか綺麗」

 魔術師が手に持っているランタンを屈んで見つめると、その瞳にそれが映っていた。

「……綺麗だな」

「うん! これがあれば寒くても頑張れそう!」

「そうか、どうする? ろうそくも持っていく?」

「……」

 使い魔は無言で右手に持っていた燭台を床に置いた。

「さて、では地下室へゴーだ!」

「うん! レッツゴー!」

 地下室の扉へ向かって歩く魔術師の服の裾を軽く摘んで後に続く。

「扉の向こうはすぐに階段だから、足元に気をつけてね」

「気をつけるけど、転んだら一緒に下まで転がるかな?」

「意外と段数あるから、そうなったら痛そうだ。転んでも支えられる様に備えておこう」

 扉の前で一度振り向き、笑いかける。そして、扉を開いた。地下室へ通じる階段の先はランタンの明かりを照らしても暗くて見えない。

 その暗闇を魔術師の後ろから覗き込んで少し不安そうな顔をする。

「暗いね……」

「まぁ、足元に気をつけていこう」

 自分の服の裾を摘んでいる使い魔の指に触れ、服から離させて代わりに後ろ手に手を握り階段を降り始める。

「……」

 手を引かれるままに大人しく後に続いて階段を降る。階段の幅は狭いので並んで降りることは出来ない。

 ランタンの光で足元はそれなりに見える。しかし、使い魔は足元ではなく繋いだ手を見ていた。

「まぁ、長い階段と言っても30段くらいだ。もう、下が見える」

「うん」

 階段の終わるところを繋いだ手から視線をずらして見る。そして、繋いだ手を強く握った。

「どうした?」

「戻るときも手を握ってよね! 危ないから」

「君は本当に暗いところが苦手なんだね」

「そういう訳じゃ……それもあるけど」

 使い魔は魔術師がのセリフを鈍感から来るものなのか照れ隠しなのかを考えていた。確かに暗いところは苦手だが、真意は別にあった。それに気付いているかどうかを。

「さて、何はともあれ、地下室に辿り着いたよ!」

 魔術師はランタンを高く掲げて地下室を照らす。そこは上の屋敷の床面積よりも遥かに広い空間だった。いろいろな物が置いてある。使い魔の目に最初に付いたのは本棚だった。膨大な数の本が納められている。しかし、その大半は背表紙に何も記されていない。

「えっと、本がたくさんあるね……」

「ああ、これはこの世界が今まで得た知識が記されている本と、これから得る知識が記される本だよ」

「そうなんだ。これから記される本は白紙なの?」

「罫線とかそんな感じなのは、すでに記されてるのもあるだろうね」

「ふーん、知識が記されてる本には背表紙にタイトルとか書いてあるの?」

「そうでもないよ……タイトルがちゃんと書いてあれば、学校とかのテストも楽だったかもしれない」

「どうして書かないの?」

「これらの本の表紙にタイトルを記すには記憶力が必要なんだよ。覚えるの苦手でね……タイトルをあまり記せないんだよ。だから、すぐにどこかに行ってしまう……つまり、忘れてしまうんだ」

「忘れちゃうんだ……なんだか哀しいね」

「確かにね……でも、思い出はとか特別なコトは、本とは別の形で残るんだよ。例えば……ほら、そこの箱を開けてみるといい」

 魔術師が指差した先には宝箱という見た目の箱があった。開けてみるように勧められるが、繋いだ手を離したくない使い魔は魔術師を引っ張ってその箱のところまで移動する。

 そしてその箱を開けた。

「えっと、これは……宝石の破片? それともガラスの破片? キラキラしてるけど」

「これは思い出の欠片だよ。昔、この世界が……大変なことになった時、砕けてしまったんだ」

「元には戻らないの?」

「壊れたモノは元には戻らないよ。そもそも、思い出は時間と共に変化したりもするし」

「こんなにバラバラなので思い出せるの?」

「全部は無理でも、欠片を良く視ればそれがどんな形をしていたか解るから大丈夫」

「でも、砂みたいになっちゃってるのもあるよ?」

「砂か……それをちりばめれば、思い出も想い出も更に素敵になるさ!」

「あ! あそこの棚にあるのは、綺麗な形をしてる!」

「最近の……おもいでだね。大事にしてるからね」

「ひょっとして眠いの?」

「うん。眠い……現実の私も眠くてそろそろ限界みたいだ。次の時は向こうに行こう」

 そう言って指差す方向には、この世界で使えそうな雑貨などが遠目からも見える。

「今回は、どうするの? 帰る感じ?」

「ああ、そうしよう。ところで……ちりばめるを漢字で書くと鏤めるが正解らしい。正直、この漢字を書ける人間は多くないと思う」

「そうかもね……すごく眠そうだよ? そろそろ終わりにしよう」

「悪いな……今回も文章並べの練習に付き合ってくれてありがとう」

「どういたしまして!」

 名残惜しそうに繋いだ手を離し、使い魔は帰った。魔術師も今回の文章並べを終わりにして、ランタンを持って帰り、地の文も眠りについた。

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