地下室
永遠……今の自分が持ちうる知識で判断するなら、人間の世界に永遠は無い。
しかし、それでも人間は、永遠を感じることが出来るし視ることも出来る。そう認識できるなら、永遠は無くても存在はする。人間には無いモノを存在させる力がある。ひょっとしたら、その力が人間を人間たらしめているのかもしれない。
あの頃は、永遠の時間に囚われていた。真面目という罪なのか、他の罪なのか……終わりの視えない償いの日々。千年分以上の時間を考えて、愚かな自分がようやく解ったことの一つは、たとえその時間が永遠でも抜け出せるということだった。
誰かの声が聞こえても届かない永遠の時間に囚われ、思考も考えも償いに消費されてしまう。自由が無いから抜け出す為の飛躍も出来ない。
この世界で泣いてくれていたモノ……ソレの涙で出来た孤独の海は自由を教えてくれた。飛躍したからではなく水没したから抜け出せた。千年以上をかけたけど……。
今は、永遠は抜け出せるということを知っている。
望む永遠ならば、創りだしたい。しかし、望む永遠が儚いことを知っている。だからこそ大切にしたい。その時間が永遠であってほしいから。
前回から短くない時間が流れた。この世界の時間の概念は、現実の時間の影響も受ける。魔術師と使い魔はそれぞれの帰る場所に帰らなかった設定で今回を迎えている。その為、前回の終わりからの続きであっても、状況設定に変化が多々ある。
ストーブは火を灯してこの部屋を暖め続けている。床に置かれた燭台のろうそくも何度か交換され、今は長いろうそくに炎が灯っている。
ストーブの側のソファーには横になって眠っている使い魔がいる。その体には毛布が掛けられていた。ろうそくとストーブと、外から差し込む月の光に照らされたその顔は穏やかな寝顔。前回の時に降っていた雨はすでに止んでいて、満ちていく細い月が空にはある。
本棚の少し高いところから本を取るための台を椅子代わりにして座り、使い魔の眠るソファーに寄りかかるようにしながら、魔術師はろうそくの光で本を読んでいた。
自分の姿が描写されたことを確認して魔術師は喋りだす。
「現実の世界では年が明けている。この世界もそれに伴い年が明けた。前回から10日以上の時間が過ぎている。その間、ストーブはついていた。灯油は入れないとすでに無いはずだけど、今もついてる。これを説明しないと……」
変に真面目なところがある魔術師は、その説明を地の文のわたくしに委ねた。
前回と今回の間の時間に、魔術師は地下室に足を踏み入れていた。そこは物置になっていて、灯油やら本やら、毛布やら……ある意味では何でもあった。という設定。
「ざっくりとした説明をありがとう……まだまだ全然力不足だ……むしろ弱まったかも」
地下室について”あえて”詳しく文章を並べなかったというのも実はある。
「あえて……か」
とりあえず今回の状況の簡単な描写を終えると、魔術師は再び本に目を移した。そして、読みかけだったページの文字を読み終えると栞をはさんで本を閉じた。
本を小脇に抱えて立ち上がるとソファーの後ろの窓から外を見る。空にある細い月はその頼りない見た目に反して強い光を降り注がせていた。現実の世界の満月と同じ位の明るさで世界を照らしている。
空気の入れ替えに窓を少し開ける。部屋の暖かい空気が外に逃げ、変わりに冷たい空気が入ってきた。それに反応したのか使い魔は目を覚ました。
使い魔は目を覚ましても、すぐには起き上がらずに毛布の肌触りを楽しんでいた。地下室に置いてあったとはいえ、その毛布は新しくてふかふかだった。この屋敷が封印され、時間が止まる前に持ち込まれたものだろう。
窓を少し開けたまま、ソファの背もたれ越しに横になっている使い魔に声をかける。
「おはよう……いや、この世界は夜だから、こんばんは」
「こんばんは。なんだかひさしぶり? な感じだね」
目覚めの挨拶をしてから、ソファーに膝立ちをする格好で背もたれ越しの魔術師に向き合う。
「時間が経つと前回の内容をやはり微妙に忘れてしまう。それを思い出しながらだと、歯がゆい感じに文章並べをてこずる」
「ふーん、そうなんだ。あっ、外の冷たい空気がちょっと心地良いね」
暖まった部屋に長時間居るので、外の冷たい空気を新鮮に感じた使い魔は脱いでいた靴を履いて魔術師の隣に行くと、窓から入ってくる空気を大きく吸った。
「もう年が明けてしまったよ。クリスマスネタも少しやりたかったけど、タイミングを逃してしまった」
「クリスマスネタ……暖炉に火が点かなかったのも伏線だったり?」
「……伏線に出来たらよかった。でも、実は暖炉を描写していた頃はまだ、全然クリスマスのことが頭に無かった」
「火が点かなかったのは伏線じゃなかったんだ……」
「うん……そこまで計算できてたら自分を褒めてあげたい」
「気づくのが遅くても、気づくことが出来たなら、きっといつか役に立つよ!」
「ありがとよ!」
屋敷の外の温度は中に比べるとかなり寒く、少し開けている窓から入ってくる空気に触れていると体温が奪われていく。
「外は寒いんだね」
「そうだね。空気の入れ替えはこれくらいで良いだろう」
窓を閉めて、二人はソファーに座った。
月の光の明かりも欲しいので、カーテンは閉めない。今のこの部屋には、電気の明かりは点いていない。
「地下室って物置みたいな感じなんだね。確か前回、地下室がどんな感じなのかを、いくつか考えてたみたいだけど……他にはどんな感じのがあったの?」
「拷問部屋とか……」
「えっと……ちょっと悪趣味? だね。もし、その設定だったら、わたしが拷問されるの?」
「そんなことはしないよ」
「……本当?」
「…………うん」
「微妙に長い間がなんだかちょっと怖い気がする。でも、どうして拷問部屋なの?」
「以前、人間のことを知るためにたくさんの本に目を通していたことがある。その中に処刑と拷問について書かれているのがあってね……なんとなく」
「なんとなくなんだ……」
「私は、人間……人の良いところを見たり見つけたりするのが好きだ。でも、人間はひどく残酷なところもある」
「そういう本を読んで、人間不信にならない?」
「私は大丈夫だけど? 人一人を視ると良いところは見つかるし。まぁ、人間は人それぞれだからね」
「あなたは残酷なことをする人間?」
「さぁ? どうだろう。少なくても『あの罪人に石を投げろ』と言われても投げないだろうけどね」
「わたしも投げたくない」
「それでいいんじゃないかな」
「……なんだか、お話の展開が暗くなっちゃったね」
使い魔は地下室への扉を見ながら話を切り上げた。魔術師も流れを変える感じに台詞の文字を並べる
「やっぱり地下室を物置にしてよかった!」
「地下室を探検したいな!」
「そうだね、次の時は地下室に行こう。地下室には色々あるからね!」
「なにがあるんだろう? 楽しみ!」
「とりあえず、今回はこれくらいで終わりにしよう」
「今回は帰る感じの終わり方だね」
「続きの感じだと時間が経ちすぎると難しくなることを学んだ。ついでに、地の文の並べ方を微妙に忘れているみたいだ」
「そういえば後半はほとんどないね」
使い魔は並んだ文章を見て率直に言った。
「次は頑張ろう……それじゃあ、またね。文章並べの練習に付き合ってくれてありがとう」
「最初わたし寝てたけど……どういたしまして!」
「では、次回に」
「うん」
魔術師は文字を並べるのを終わりにして、使い魔の姿と気配も消えた。地の文も力不足を気にしつつ文章並べを終わりにする。




