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天候

 心を病み、専門の病院へ行くとそれに効く薬を処方されると聞く。その手の薬を飲んだことの無い自分にとっては想像の域を出ないけれど、治るのだろうか。

 心が”病んでいる”のと”壊れている”のでは治療法は違うのだろうか。

 その手の薬を飲んでも、治らないと聞いたりしたこともある。心の病は神経の……と聞いたこともある。薬で神経が修復されると治るのだろうか。

 仮に心の病を”思考パターン”として捉えると、それを変えることで改善されると思われる。しかし、病と化したその”思考パターン”は本人にとって恐らく悪い意味で強固な意志。その手の薬はその頑丈な”思考パターン”を緩める働きがあるのかもしれない。

 薬によりその”思考パターン”から解放され、薬が効いている間は病の症状が抑えられる。しかし、薬が切れれば元の頑丈さに戻ってしまう。故に薬を飲んでも治らないと言われたりするのかもしれない。

 頑丈な”思考パターン”が緩んでいる内に”思考パターン”を組み直す必要があると思われる。

 想像の域だけど……。


 壊れている……崩れてしまった”思考パターン”を積む日々は長い時間だった。崩れることも”思考パターン”なのかも知れない。

 千年分……千年を超えるその手のことを考える時間により、今はそれも基本的な設計に組み込まれている。この世界の孤独の海という環境? によりバラバラに崩れても哀しいという感情で繋いでおける。

 自分の特性に”直る”前に取り入れることが出来た。

 もっとも、ある種の感情なのか、最近は隙間が塞がって崩れ難いところも少なくないけど。

 やはり”直る”前の、設計に組み込み、扱いに慣れた頃の方が強かった。けれど、今の方が自分が思う人間っぽくて良いと思う。

 ここは哀しいという感情で他の感情をそれなりに従える世界。孤独の海にひたされることで大切なことに気付けるかもしれない。


 この世界は夜、空に浮かぶ月は欠け行く月だった。しかし、その光は地上に届いていない。耳を澄ませばかすかに鳴り止まぬ音が聞こえる。それは冬の冷たい雨。雨雲にさえぎられて世界は久しぶりに真っ暗だった。

 屋敷の玄関を入ってすぐのその部屋は、数時間ストーブを点けているので暖かい。今回は前回の続きからの始まり。

 月の光は無く、屋敷の中はストーブの赤い光だけが照らしていた。その光によりソファーと、そこに俯いて座る格好で眠っている使い魔の姿が見える。前回の終わりの時、隣にいた魔術師の姿はそこには無かった。眠る使い魔は、そのことに気づいていない。前回、嘘か本当なのか一人で暗い屋敷の中に入ることを怖がってしなかった。眠っているのは幸いなのかもしれない。

 屋敷の外の雨に悪戯いたずらな風が加わり、ソファーの後ろにある窓ガラスを鳴らした。その音で使い魔は穏やかに目を覚ます。

「……ふぁ~」

 寝惚けた目をしたまま辺りを見回す。ストーブの赤い光に照らされているとはいえ、暗い部屋の中に一人でいることで少しずつ不安が増してくる。魔術師を探して隣を見るがそこには誰もいない。ソファーに体温が残っていないか触ってみるが、ストーブに温められていてわからない。

 次に地の文を読むが、そこには魔術師の居場所は記されていない。仕方なく気配を探ろうと感覚を研ぎ澄ますが不安で上手くいかない。前回、暗い屋敷に一人で入ることを怖がってしなかったのは本当だった。

「夜は良いけど、真っ暗なのは苦手なの!」

 地の文に対して言うという独り言を口にしてから、魔術師に呼びかける。

「ねぇ、いるの?」

 少し震える声でストーブの向こうの闇に声を投げると、ライターで火をつける音がして燭台しょくだいのローソク3本に火がともる。

 玄関の扉から入り、正面には暖炉、右側にはストーブと使い魔が座っているソファーがある。左側の窓から暗い外を見ていた魔術師は、左手に燭台しょくだいのローソク3本の明かりを持って使い魔のいる方へと向かう。

 ローソクの火は歩くたびに少し大きく揺れる。その火によって作られた影も揺れている。大人しく待つ使い魔の側まで来ると、燭台しょくだいを床に置いた。

「よく眠っていたから、暗くしておいた」

「……わたし、寝るときは小さい明かりは点けておくほうだよ」

「そうか」

「ストーブの明かりがあってよかったよ」

 使い魔は座ったままストーブを見つめた。ローソクの光も加わり、部屋の中は物の区別がつく位の明るさになった。

 自分の隣を2回軽く叩いて座るように促す。

「この部屋にはテーブルの類がないな」

 使い魔が眠っている間に部屋を調べた結果の一つを言いながら座る。

「そうなんだ……この部屋は何の部屋なんだろうね」

「広い玄関みたいな感じかな。ちなみに、暖炉の右側の扉は地下室に続いている」

 空気の流れで僅かに揺れるローソクの明かりに照らされる扉を指差して言った。

「地下には何があるの?」

「今回は秘密だ。ちなみに、暖炉の左側の扉の向こうは廊下が続いている……こっちの方も、まだ秘密だ」

 秘密と言っているけれど、設定をまだ決めていないだけだ。地下室の方はいくつか考えがあるけれど、どれにするか迷っている。

「ということは、今回のこの部屋はある意味、密室だね! 外は雨が降っていて他の部屋に通じる扉は開けられない」

「そうなるのか」

「………………そういえば、この世界にも雨は降るんだね」

 少し長い沈黙の後に今回の雨という描写について尋ねた。

「建物の中という設定が加わったからね、とりあえず雨を降らせてみた」

「それであっちの窓から外見てたの?」

 ソファーに座って正面に見える窓の外は暗くて何も見えない。それはソファーの後ろの窓の外も同じ。

「うん。あっちの方は完全に真っ暗でほとんど何も見えなかった」

「こっちの窓から見ればいいのに」

 目が覚めたときに近くにいなかったことを遠まわしに責める。

「それはすまなかった」

「別に責めてるわけじゃないよ」

「そうか。月が隠れて雨が降り出したのは君が起きる少し前だった。それまでこの部屋を調べながら、月明かりで君の眠る姿を失礼かもしれないけど見たりしてた」

「……」

 それはそれで恥かしかったのか黙り込む。

「さて、あまり進んでいない気もするけれど今回はこの辺で中断しよう」

「終わりじゃなくて中断なんだね」

「現実の私が今回のお話を終える前に眠ってしまったし、このまま続きを並べたいみたいだから」

「それなら、時間を置いて今回の続きを並べればいいんじゃない?」

「たぶん一区切りにして流れを変えたいんだと思う」

「ふーん。そうなんだ」

「まぁ、なんとなくなんだろうね。じゃあ、中断……休憩して次回に行こう」

「うん」

 という感じで今回は……今回もよくわからない終わり方をした。

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