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明かり

 昔、駅の周辺を彷徨い歩いていると何度か声をかけられた。同じ考え方を共有する集団に入りませんか? という感じの誘いをする人に。

 人生に迷っているように見えたのかもしれない……でも、迷っていたんじゃなくて失くした自分を探していたんだ。

 その集団に属しても、探しモノを見つけることが出来るとは限らない。

 熱心にお話してくださるので、ちゃんと聞いていた。話してくださる考え方は素晴らしいと思った……しかし、その集団に加わる気は無かった。時間を無駄にさせてしまったかもしれないと思うと、悪いことをしたかな? とも思う。

 複数の考え方を持ち、自分にとっての真実を導き出すのが……私? の理想。与えられた考え方を素直に受け入れられないだけかもしれないけれど……。


 空には満月に近い月があった。現実よりも強く光る月は、この世界を明るく照らす。しかし、その屋敷はよく見えない。描写される設定がまだ決まっていないという理由でよく見えないのだ。

 屋敷の玄関の鍵は開いている。この世界……この土地には誰も住んでいない。鍵を掛ける必要は無いが、鍵がかかっていない理由は掛け忘れたから。

 今回この世界に訪れてどれくらいの時間なのか、使い魔は屋敷の玄関の扉の前に座り込んでいた。鍵が開いていることは知っているけれど、屋敷に入ろうとしない。

 冬の夜空の下、気温は低い。

「鍵が開いてるのにどうして中に入らないかというとね、屋敷の中が暗いから」

 地の文に答えるように独り言を言う。

「あと、屋敷の中の構造がわからなくて一人だとちょっと怖いからだよ。地の文さん」

 このお話では登場人物も地の文が読める設定で、登場する前の文章も読むことも出来る。

 屋敷の玄関の数メートル先の景色が揺らぎ人影が現れる。それに気付いた使い魔は、気配を残して姿を消した。

 使い魔が姿を隠してすぐ、人影は魔術師の姿に変わった。

「……」

 姿を隠したまま魔術師の背後に回りこむ。その気配に気付いているが、あえて振り向かずに玄関へ向かって歩く。使い魔は姿を隠しているので足音は一つだった。

 数メートルの距離を歩いて、玄関のドアを開ける。月の光が差し込み、正面の暖炉と右側にソファーとストーブが見える。

 玄関の戸を閉めると何も見えなくなった。しかし、微かに月の光が滲んでいる。

「…………夜の静寂 足元に影は無く 空を見上げれば月は雲の向こう 空に手を伸ばすと雲は流れ月が出る 月の光で影を見つけ振り向くと君はいた……」

 魔術師が振り向くと暗くてよく見えないけれど、そこには使い魔がいた。

「真っ暗だね」

「そうだね……明かりが必要だ。とりあえずカーテンを開けよう!」

「カーテンが閉まってたんだ……そっか! 窓はあるよね普通」

「そうそう、窓はあっていいはず」

 暗がりの中、窓に向かって歩く魔術師の服の裾を右手の人差し指と親指で摘んでその後に続く。

 唯一この屋敷の勝手を知っている? 魔術師が右側にあるソファーの後ろのカーテンを開けると月の光が差し込んだ。

「あ! ここって靴は脱いだほうがいいのかな?」

 月の光で照らし出された自分の足元を見て聞いた。

「この部屋は大丈夫! ということにしよう。なんとなく」

「なんとなくなんだ……」

「それより、寒いな。暖炉に火を入れよう……火を入れるって表現であってるのかな?」

「さぁ?」

「まぁ、いいか」

 差し込む月の光で出来た二つの影は繋がっている。暖炉の前に行くと、そこには薪がくべられていた。

「火を入れれそう?」

「ライターを持ってきた。あと、都合よく新聞紙も置いてあるから大丈夫だと思う」

 暖炉にくべられていた薪の中から細めのものを寄せ集めて、そこに火のついた新聞紙を置いた。そしてしばらくすると結果が出た。

「…………新聞紙、燃え尽きたね」

「うん……そして、薪には火が移らなかった」

 細めの薪と言ってもそれなりの太さがあり、他の薪とそれほど大差はなかった。

「どうしよう?」

「……ソファーの近くのストーブを点けることにしよう」

 暖炉に火を入れることを諦めて素直にストーブを使うことにした。相変わらず移動するときは魔術師の服の裾を摘んでいる。

「暗いから仕方ないの!」

 地の文に対して言っているけれど地の文に姿は無いので、それは独り言か魔術師に対してということになるのかもしれない。

 月の光が差し込む窓辺は明るかった。この屋敷は前回まで封印されていて時間が止まっていた。そのため、ソファーにホコリは溜まっていない。それを確認してから、使い魔に座るように促す。

「ここは明るいから大丈夫だろう。火を点けるから座って待ってて」

 素直に座り、ストーブを調べる為にしゃがんでいる魔術師の背中を見ていた。

「よし、灯油は入っている。それにしても古いタイプのストーブだな……あれ? 点かないな……電池切れかな? 時間が止まってたのに。まぁいいか、芯に直接火を点けよう」

 わざわざ喋って説明した。地の文で並べるべきだったかなと思いつつ喋った。わたくし、地の文も侮られたものだ。

「危なくない?」

「大丈夫」

 地の文に反応することも無く、魔術師は持ってきていたライターを使ってストーブを点けた。

「この部屋は結構広いから温まるのに時間がかかりそうだね」

「確かに……あ! このストーブに入っている灯油を新聞紙に染込ませれば、暖炉に火をつけられるかも!」

「それは危なそうだからやめない?」

「…………私は魔術師だよ?」

「えっと、その方法で暖炉に火を入れるのって……魔術なの?」

 使い魔は魔術師の表情を伺いながら遠慮がちに聞いた。

「魔術ではなさそうだね……やめとうこう!」

「うん」

 魔術師もソファーに座り、二人でストーブの火を見ている。広い部屋といっても、火の側は暖かい。

「とりあえず、これで落ち着けるな」

「うん」

 火の側で体が暖まりだした使い魔はウトウトしていた。外は冷たい風が吹いていて、時折ソファーの後ろの窓ガラスを鳴らす。

「……」

「……」

 俯いて座った格好のまま使い魔は眠り始めた。使い魔は、地の文の文章が並ぶより前からこの屋敷の玄関の前にいた。どれくらい前からいたのかは、使い魔自身しか知らない。

 魔術師は眠る使い魔との距離を縮め、同じように俯く。眠るためではなく、この屋敷の構造を構築……思い出すために。

 使い魔は眠り、魔術師は屋敷の構造を思い出すために今回の文章並べを終わりにする。地の文もそれに付き合い文章並べを終わりにする。

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