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林を抜ける

 生きているといつか死ぬ時が来る。死んだ後、自分がどうなるのかは死んでみないと解らない。

 夢の無い考え方をするなら、自分にとっての自分は完全に消える。

 良い夢にしろ、悪い夢にしろ、夢のある考え方をするなら、天国もあり地獄もある。

 天国がどんなところかは解らないけれど、悩みも苦しみも無いところなのかもしれない。死んだ後の世界とはいえ、それは生きているとは思えない。

 地獄は色々な苦しみを受け、辛い世界なのだろう。子供の頃、悪いことをすると地獄に落ちると聞かされたこともある。地獄に落ちたモノは亡者として苦しみ続けるのだろうか……。

 今もあの頃も思う。天国も地獄も嫌だ……人として生きていたい。そう思う。

 あの頃、頑張れた原動力の一つはこれだった。天国に行けたとしても、今の記憶を持ったまま、さっさと人間として生まれ変わってやる。地獄に落ちたとしたら、地獄の鬼達を打ち負かして今の記憶を持ったまま生まれ変わってやる。天国にも地獄にも行かず現世を漂うとするならば、実体を持って復活してみせる。その為には弱いままでは無理だと思った。

 体が無いなら精神の力がモノを云う。ならば地獄の鬼との戦いも十分勝算はある。

 弱いまま死んだら、地獄の鬼達に痛めつけられてただの亡者として苦しみ続けることになるだろう……死に逃げたところでその先も地獄なら、強くなれるだけ強くなってからにした方がいい。

 人としての幸せが欲しかったからそう思った……痛い考え方だけど。


 この世界の空には満ちていく細い月があった。その月の光は夜の闇を照らしていた。その光は現実の月よりも明るいが、太陽に比べれれば遥かに暗い。この月は世界を昼間にしようとはしない。

 月夜の下、魔術師と使い魔は出発の準備をしていた。林の向こうの屋敷へと向かうために。

「この丸テーブルとパイプ椅子2つは置いていこう。また、暖かくなったらここに来るのも悪くないし」

 使わなかったティーセットをビニール袋に詰め込みながら魔術師は言った。そしてティーセットは上手に袋に詰めるとギリギリ入った。

「暖かくなったらまたここに来るの?」

「ああ、その頃にはもう少し文章を並べる力がついているだろう。そうしたら、この場所の描写をもっとしよう」

「そいういえば、この場所の描写はほとんど無いね。あっちに林があることも前回初めて知ったし」

「その設定ができたのは前回だからね」

「そうだったね。寒いから林の向こうにあるお屋敷に向かうってことになった! 今はその準備中」

 準備中とはいっても、丸テーブルとパイプ椅子2つ以外の物を持っていく用意をしているだけだった。その準備も大体終わっていて、丸テーブルには袋に詰められたティーセットと、お湯の入ったポット、空のペットボトル2つと、使った紙コップ2つ……未使用の紙コップが重ねた形で幾つか。

「えっと、わたしは何を持てばいいかな?」

「頑張れば、私一人でもポケットとかを使えば十分だよ」

「それじゃダメだよ。わたしにも何か持たせて!」

 そう言ってお湯の入ったポットに手を伸ばす。しかし、それを魔術師は止めた。

「ティーセットとポットは私が持つから、ペットボトルと紙コップを持ってくれ」

「大丈夫だよ! ポットくらい持てるよ!!」

「いや、ポットは私が持つよ。その代わり、中のお湯は君が持ってくれ。その空のペットボトルに入れるからさ」

「……大丈夫なのに」

 小声で少し不満を漏らす。

 魔術師は、ポットのお湯を二つのペットボトルに移す。するとポットのお湯はちょうど無くなった。

「よし、ポットも軽くなったから、ティーセットと一緒に持てる。それじゃあ、ペットボトルと紙コップは任せたよ」

 そういいながら、使い魔の羽織っているカーディガンの左右のポケットにお湯の入ったペットボトルを入れる。

「……」

「さぁ、出発だ!」

 森に向かって歩き出す魔術師を、使い魔は丸テーブルに残されている紙コップを持って追いかけた。

「……ペットボトル一つ持つ?」

「両手が塞がってるから、君が持ってくれ」

「それじゃあ、腕組んであげようか?」

「残念だが、両手が塞がっているから、また今度の楽しみにとっておくよ。それより、ペットボトルを落とさないように体にくっつけといてね」

「……うん」

 使い魔は言われた通りに、両腕の内側でペットボトルの入ったポケットを自分のお腹にくっつけるようにして押さえた。

 お湯の入ったペットボトルは使い魔のお腹を温めていた。そのまましばらく歩くと、林の入り口に到着する。

「さて、ここからは少し足元が危ないかもしれない。紙コップは使ってないのと一緒にしちゃっていいよ」

 振り返って両手に紙コップ使用済みと未使用をそれぞれ持っている使い魔を見て言う。

「え? そうなの?」

「両手が塞がってたら転んだ時に危ないからね」

「それは、あなたも同じでしょ?」

「まぁ、そうだけど。私は大丈夫! さぁ、林に侵入だ!」

 そう宣言してから、林に足を踏み入れた。紙コップをまとめて使い魔もその後に続く。

 ギリギリ道らしくなっているところを進む二人。林の中は意外と月明かりで明るかった。

「そういえばさ、どうして林なの? 森の方が雰囲気出るんじゃない?」

「森より林の方が安全そうだったからかな」

「確かに、そんなイメージはあるね。ところで、森と林の違いってなんだろう?」

 使い魔は魔術師の側により、邪魔にならないように暖かい空気を作っている気持になる。

「私もよく解らない。なんとなく色的に森は濃い緑で、林は黄緑って感じがする」

「そう言われるとそんな気もするね! まぁ、感じ方は人それぞれだけど……」

「まぁ、なんとなくね」

 会話をしながら林を進んでいく。黙々と進むより、会話をしながらの方が早く着く感じもする。なんとなくそう思いながら会話を続ける。

「月の光って明るいんだね。これなら足元も安心だよ」

「そうだね、こんなことならもっと早く向かえばよかった。ごめんな」

「……でも、遠くまでは木がいっぱいだし暗くて全然見えない。ちょっと怖いかも」

 強い冷たい風が吹き、周囲の木々を揺らした。

「そういえば、数年前に山道を歩いている時にイノシシにエンカウントしたっけ」

「大丈夫だったの?」

「イノシシの方がビックリしてたのか、逃げて行ったよ」

「イノシシも人間が怖かったのかな」

「そうかもね。そういえば、エンカウントってさ……小学生の頃に勘違いしてたよ」

「勘違い?」

「うん。ゲームをやっててさ、設定だったかそういう所を見ていたらエンカウントっていう項目があってその横に数字が並んでた……それをてっきり円カウントだと思ってた」

「エンカウント……円カウント。お金を数えた?」

「そんな感じの意味だと思ってた。すっかりやられてたよ!! 全然数字があってないからバグってると思った。でもそれは、敵に遭遇した数のことだったんだ」

「英語なのかな?」

「どうなんだろう?」

 その後も何気なく取り留めの無い会話を続けた。


 しばらく会話をしながら歩いていると、木々の向こうに屋敷が見えてきた。

「ねぇ、もうすぐ林を抜けれそうだよ!」

「そうみたいだ。思ったより短い距離だったかな」

「どうだろうね。ペットボトルのお湯は結構冷めちゃってる」

「そうか、それじゃあ少し急ごうか?」

「うん!」

 足元に気を付けつつ早足で林を抜けた。そこには林を背にした屋敷があり更にその向こうには海が広がっていた。

「あの屋敷は二階建。まぁ、いいか。とりあえず早く入ろう!」

「うん! ところで、あそこには誰も住んでないの?」

「誰もいないよ。私の屋敷だし」

「それじゃあ、まずは掃除からだね」

「……大丈夫、あの屋敷は封印されていて時間が止まっているから……という設定をつけよう」

「なんだか都合がよすぎない?」

「たまにはいいさ! それにもう3000文字を超えてる」

 文字数のことを言い終わるその時にはもう屋敷の玄関まで辿り着いていた。

「あれ? このお屋敷……月の光の影が無い??」

「封印されているからね」

 魔術師は玄関のドアの鍵穴に軽く右手の人差し指を当てる。すると、使い魔は一瞬めまいを覚えて両目をギュッとつぶった。そしてすぐに目を開けると、屋敷は月の光の影を持っていた。

「さて、入ろうか!」

 玄関を開けたそこは広間になっていた。正面には暖炉があり、右側にはソファーが置いてある。ソファーの近くにはストーブがあった。

「なんだかお屋敷というか館って感じもする」

「そうかもね……さて、屋敷に辿り着いたし、今回はこれくらいで終わりにしよう!」

「……うん」

「3000文字を超えてたくさん練習が出来たよ。ありがとう! ストーブも暖炉も好きに使っていいからね」

「暖炉の使い方はわからないけど……ストーブは大丈夫! 次はこの場所からスタートだね!」

「そうなるね。この屋敷の構造を考えておかないと……さて、それじゃあ、また次の時にね」

「うん」

 使い魔の返事を聞くと、魔術師は文字を並べるのを終わりにした。使い魔も気配を消し、地の文も……。


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