移動予定
あの頃、身近に近しい人がいても寂しくて、どうしようもなかったので幽霊を探した。足元の影を失った虚像は、現実に体があってもソレは幽霊に近い。
幽霊ならひょっとしたら解り合えるかもしれない……そんなことを考えていた。しかし、今に至るまでの時間の中で、話に聞くような姿の幽霊に遭遇したことが無い。
幽霊に対して持っている解釈のひとつは、現実の人間の世界に残された魂の欠片。魂とはいえ、カラダが無い上に欠片である以上、生きている人間ほど複雑な思考も考え方も出来ない。
それにもかかわらず、複雑なことをしている場合がある。
その場合をとりあえず二つ挙げると、一つは使役している術者がいる。もう一つはソレを認識する人間の心にソノ欠片が刺さって魂を侵食されている。或いはその人間の魂の欠けてしまっている所に上手く収まってしまった場合。
二つ目の場合は、術者は自分ということになる。もっとも、使役しているというよりは、取り憑かれている。どちらにしろ上手に扱えれば役立てることが出切る。
解釈は自由であり、精神面の免疫でもある。恐怖や不安などの感情は免疫力を低下させる。強い感情は判断力を鈍らせてしまう。
優しい気持ちは心身の健康に良い。送るのも送られるのも……。
そこにはパイプ椅子2つと丸テーブルがあった。テーブルの上には……ガラス製のティーサーバー、白いカップが2つ、スプーン、紅茶の茶葉の入った缶。それらが置かれている。
景色が揺らぎ、魔術師が現れた。左手にはビニール袋を、右手にはお湯の入ったポットを持っている。
「…………夜の静寂 足元に影は無く 空を見上げれば月は雲の向こう 空に手を伸ばすと雲は流れ月が出る 月の光で影を見つけ振り向くと君はいた……」
使い魔の気配を感じ取っていた魔術師はいつもの様に呪文を唱えて振り返る。
そこには、青いカーディガンを着て両手を後ろに回している使い魔が立っていた。
「なんだか、いつもより待った気がする……」
「うん……ごめん」
「……あ! そうそう、クッキー持ってきたよ!!」
なぜか微妙に重い空気になりそうだったので、使い魔はいつもより明るい声を出した。
「ほう! もしかして手作りかい?」
つられる様に魔術師も明るく応える。
「もちろん! と言いたいけど、わたしクッキーの作り方を知らないから、買ったのを持って来た!」
後ろに隠すように持っていたクッキーの入った丸い缶を、顔の前に持ってきて、自分の顔を隠す。
「そうか! 美味しそうだ!! 今回はお湯をポットに入れて持って来た……来たけど、すまん……ちょっと設定上このお湯で紅茶を入れることが出来ない」
「ええ?? どうして? 後はお湯があればオッケーじゃなかったっけ?」
クッキーの缶で隠れていたはしゃいだ顔が少し曇る。缶で表情を隠したまま答えを待つ。
「設定上、ここは風が吹いている。つまり屋外なんだよ……そこに、道具を置きっぱなしにしてしまったんだ」
「つまり……衛生上っていやつなの?」
「うん……風で砂埃とかが付いちゃってると思う」
それに答えるように、冷たい風が強く吹いてテーブルの上の物を少し揺らす。
「……そう言われると確かにあれで入れたのは……飲みたくないかも」
残念そうに口を少し尖らせた顔が缶を下ろしたことにより見えた。
「だよな、やっぱり。お湯で濡らした綺麗な布で拭くっていうのもいいかもしれないけど、やっぱりちゃんと洗ったほうがいいよね」
「う~、うん。それは、そうだけど。でも…………仕方ないね」
紅茶とクッキーを楽しみにしていた使い魔は、歯切れ悪く答えた。
「そこで、これを買ってきた」
左手に持っていたビニール袋を差し出して、中を見るように促す。覗き込んだ使い魔の目に映ったのは、あたたかい紅茶と書かれているペットボトルが2本と、紙コップだった。
「さすが! 準備いいね!!」
「ふっ、途中で気付いたからね! まぁ、ポットを持って買い物もシュールだったよ」
「しゅーるってどういう意味だっけ?」
「……なんとなく使ってみたけど、意味はよくわからん!」
「ふーん。それじゃあ、クッキー食べようよ!!」
使い魔は立ち話をやめて、テーブルの方に行こうと促す。
「うん」
先を歩く使い魔の後姿を見て、眉間に皺を寄せて少しうなった。
「どうかしたの?」
振り返って、眉間に皺を寄せている顔に首をかしげて問いかける。
「さすがにこの時期は外だと寒いなと思ってね」
「このカーディガン暖かいよ?」
使い魔の服装はワンピースにカーディガンを羽織っているだけだった。この世界も季節は冬に変わっている。実際、使い魔は寒いと思っている。今回、魔術師が来てすぐ、微妙に空気が重くなりそうだったのは、使い魔の最初のセリフから、寒いところで長時間待っていたのを魔術師が感じ取って、つまらないことを言いそうだったからだった。
「……」
「……」
使い魔と魔術師は席に着き、テーブルの上の道具を隅にずらしてお茶会? の準備をした。彼らの思考は一致している。地の文が余計なことを並べた……と思っている。しかし、これが仕事だ!!
「ふむ、では頂きます」
「頂きます」
行儀よく両手を合わせてからクッキーに手が伸びる。二人はそれぞれ右手に温かい紅茶の入った紙コップを持ち、左手にクッキーを一枚を持った。
「えっと、乾杯?」
「乾杯?」
紙コップ同士を軽く当てて乾杯をした。こういう時の作法を地の文を含め、今はこの世界の誰も知らない。それが合っているのか間違っているのか……。この世界にはまだまだ知識が不足している。
「美味ですなぁ~!」
「そうだね! いつかクッキー作ってみたいな~!」
残念ながら、この世界にクッキーの製造法は記されていない。
「いつか、作り方を探し出そう」
「いつかね! 温かい飲み物は温まる」
「やっぱり、建物が必要だよな。7歳頃に夢で城を見たことがある」
「どんなお城?」
「……たぶん、その頃やっていたゲームの城がデフォルメされた感じかな。その夢の城を、何年か前にまた夢で見たんだよ」
「何か意味がありそうだね」
「そうかな……でも恐らく、この世界のどこかにあると思う」
「そ、そうなの!? ひょっとしてそのお城を探すの?」
「そうしたいけど……いつかね。とりあえず、次の時は屋敷に向かおう」
「お屋敷もあるんだ!」
この世界のどこかに、城と屋敷がある設定が出来た。
「寒いのに未だに屋敷に向かわない……という設定が出来てしまっている。おかしくないようにするには、ここから少し遠いところにあるということにしないと。ちょっと苦しいかな……」
「遠いんだ……やっぱり歩き?」
「すまないが、そうなる……この世界は基本的に月明かりの夜。月の光があるとは言え、足元は暗くて危ない……という設定をつければ、歩く距離を少し短く出来る」
「……わたしに危ない所を歩かせたくないから?」
「そういうことさ!」
「……」
使い魔は俯き加減で紙コップに口をつけて顔を微妙に隠した。
「さすがに寒いからね、ちゃんとエスコートするから大丈夫!」
歯が浮くようなセリフを口にして、かなりの照れがあったがなんとか言い切った。
「……」
顔を上げない使い魔を尻目に、一方向に目を向ける。視線の先は暗くてよく見えない。
「あの林の向こうに屋敷はあるんだよ」
夜という設定は役立っている。暗いから、今までその方角に林があることに気付かなかったのだ。
魔術師の視線の先にある林の向こうに、彼らが次回目指す屋敷がある。
「あっちには林があったんだね。暗くて気付かなかったよ」
紅茶を飲み終え紙コップをテーブルにおいて魔術師と同じ方角を見る。
「おや? もう3000文字を超えている。そろそろ今回を終わりにしよう」
「うん……でも、クッキー残ってるよ? 紅茶もペットボトルにまだあるし……」
「それもそうだね。次回は今回の続きからということにしよう! どちらにしろ開始位置は前回と同じ場所という設定があった……ことにしよう。屋敷に辿り着いてそこで終わらせると、屋敷からって感じでいいかな」
「なんだか、今回はやけに設定が増えたね?」
「これも練習さ! 設定は縛りにもなるし」
「ふーん」
「では、今回はここで中断という感じで、次回は食べ終わって休憩中から始めよう。今回のビニール袋にティーセットはギリギリ入るだろう……」
「……ごめんね、わたしも何か持つからね」
「いいさ! 私もクッキーを食べたいし。さて、そういうことで今回はこれにて……」
中断セーブという感じに今回は終了した。




