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目覚めたストーブ

 空にある月は丸い姿をしていた。しかし、その姿は欠け始めている。満月を少し過ぎた黒い空……。

 月の光は、一段と冷え込んだ空気の中へ降り注いでいる。

 静かに降る月の光は、建物の窓から室内へも差し込んでいた。その差し込む光の一部は、窓辺に立つものに影を与えている。

 お座敷と呼ばれている場所の窓辺に立つ人影の主は、虚ろな瞳に月を映していた。

 お座敷の中は月の光で明るい。その中に月の光とは違う光があった。それはストーブ……熱でオレンジ色になった金属が光を出している。

 ストーブで温められた空気が漂るお座敷は暖かい。

 その温かい空気の中に。ふわりと気配が現れた。

「…………夜の静寂 足元に影は無く 空を見上げれば月は雲の向こう 空に手を伸ばすと雲は流れ月が出る 月の光で影を見つけ振り向くと君はいた……」

 窓辺に立つ人影は、呪文を唱えて振り返る。そこには、笑顔の使い魔がいた。

「こんばんは!」

「こんばんは」

 笑顔の使い魔と視線を合わせて挨拶をする。しかしすぐにまた月に視線を向けてしまう。

「どうしたの?」

「あぁ~~……」

 魔術師は変な声を出してフラフラし始めた。

「風邪? 熱? 調子悪いの??」

 笑顔だった使い魔は、真面目な顔になって心配そうに尋ねる。

「…………」

 何も言わずにゆっくり揺れている。

「とりあえず、座ろうよ?」

 そう言って魔術師の背中に右手を軽く触れさせる。すると――――。

「あ~~」

 振り返った魔術師が使い魔に襲い掛かる。

「え? えぇ~!?」

 襲い掛かられた使い魔はゆっくりと膝をついて腰を下ろし、背中を絨毯じゅうたんの上へ預けた。

「改めて、こんばんは!」

「こんばんは」

 魔術師が絨毯に両手をついているその間、そこから真正面に見える優しさの込められている瞳を見て使い魔は挨拶をかえす。

「怖がらせてしまいましたかな?」

「ドキドキしてるけど怖くはないかも。襲い掛かられたけど、暴力的な感じがしなかったし……」

 使い魔は、魔術師が向ける力の方向へ体をゆっくりと動かしただけだった。

「そういえば、今回はストーブを目覚めさせておいたよ」

「う、うん。温かいね。……これはこれで、襲われている図になるよね」

「両手が限界だ~!? と顔を降ろすとキスというコース……。反撃しようとしても簡単に馬乗りに移行も可能……ですな!」

 そう言うと、魔術師は使い魔の上から右隣に移動して使い魔の隣に同じように横になる。すると、使い魔は少し物足りなそうな表情を浮かべた。しかし、すぐに笑顔になって魔術師の左腕に抱き付く。

「ストーブで温かいけど、こうするともっと温かいよ!」

「全くですな! 君がいれば冬の寒さも大丈夫だ~!!」

「ふふっ! ……そういえば、どうしてフラフラしてたの? 体調は大丈夫?」

 いつも通りの魔術師だけれど、さっきの様子が気になって尋ねる。

「ああ、あれは……ゾンビの真似をしてたんだ。体調は問題ないよ」

「ゾンビ……言われてみれば、そんな感じだったかも……でも、なんでゾンビ?」

「うむ、なんとなく最近のゾンビはウイルス系のゾンビが多い気がして……。魔術とか、そういう系のゾンビって少ないな~と思って」

「魔術でゾンビになるの?」

「どこかの呪術師じゅじゅつしがつくれるらしい。秘薬ひやくだったかを飲ませるんだったか……。生きた人間でもつくれるし、死体からもつくれるとか……、塩分が少しでも含まれているものを口にさせてはだめだとか……。従順に仕事をして、特に人は襲わないような……。そんな感じの文章を読んだことがある」

「あなたはゾンビってつくれそう?」

「う~ん……。……ゾンビにな~れ~」

 魔術師は使い魔の顔の前で右手を適当に振る。

「あ~~……」

 使い魔は、魔術師の肩に服の上から嚙みついた。

「おお! 出来た!!」

「……勢いで嚙んじゃったけど痛くなかった?」

「魔術が解けてしまったか! ……大丈夫、痛くないよ」

 魔術師はゾンビから元に戻った使い魔に応える。……この魔術は、使い魔のノリの良さで成功した。

「あ! 地の文さんがネタバレしちゃった!」

「まぁ、そこに魔力はあったのだから大丈夫! ノリのいい君も、ゾンビのふりでしっかり噛みついたりはしないだろうし!」

「それは、そうだね……」

 そう言うと、使い魔は魔術師の左腕を抱き締める力を強めた。内心、魔術師は本当は痛かったんじゃないかと心配している。

「そういえば、ストーブで温かいけど、毛布を掛けた方が温かそうだね」

 そう言いながら使い魔の頭を優しくなでる。

「……ふぅ。……あ、うん。そうだね、毛布を掛けたらもっと温かそう!」

 魔術師の左腕を開放して、横になったまま少し転がって毛布をもって使い魔は戻ってくる。

「起き上がらないで動くというのもなかなか……良い動きだ!」

「じゃあ、毛布掛けちゃうね!」

 二人は一枚の毛布を一緒に掛ける。そして、使い魔は再び魔術師の左腕を抱き締める。

「毛布の温かさの中に、君の温かさを感じて、胸の柔らかさも感じる!!」

「体の構造上、当たっちゃうのはしょうがないの!」

 確かに、使い魔の言う通りだ……と、思いつつ、なぜ胸が当たる格好に最近なるのだろう? と、魔術師は思った。

「う~む、何か意味が……。なんだろう?」

「なんだろうね?」

 聞きながらも、魔術師の左腕をしっかり抱き締めなおす。その動きは、魔術師にその感覚をより一層感じさせる。

「しっかりと当たってますぜ! ぐへへ。……お胸が少し大きくなったとか?」

「……う~ん、それもちょっと当たってるかもね!」

「ほうほう、少しサイズアップと……メモメモ。しかし、なんだろう……当たってはいるけれど、違う気がする……」

 魔術師は、探究心が刺激されているらしい。

「こうして、ギュッとされるの好き?」

「うん。好き」

 素直に答える魔術師に使い魔は言う……。

「それが、答えじゃないかな」

 と。

「……そうだったか。……ありがとう!」

「うん」

 意味が伝わったと感じた使い魔は目を閉じて小さく頷く。

「……私は君が好きだ」

「きゅ、急に何を言い出すの!?」

 不意打ちで照れてしまった表情を隠しながら使い魔は言う。

「……うむ、今に始まったことではないけれど、君が他の人と仲良くしていると……なんというかモヤモヤした感じがわく。これは嫉妬なんだろうか」

「嫉妬しちゃうの?」

「それは……まぁ。君を独占したい気持ちも持っているのでね! いや、好きだからなんだろうか」

「あんまり言われると照れちゃうよ」

 魔術師の左腕を抱き締める力を微妙に変えて何かを伝えようとする。

「左腕に感じるこの感覚は……なんだか優しさを感じる」

 力の入れ具合で魔術師にメッセージを送っていると、甘えたい気持ちが強くなってくる使い魔……。

「目を閉じていたら、ちょっと眠くなっちゃった……」

「温まっているからね! では、そろそろ今回を終わりにしよう。今回も文章並べを手伝ってくれてありがとう!」

「どういたしまして!! ……帰るのはもうちょっと後だよね?」

「もちろん! ……私も少し眠くなって来たし、一緒にひと眠りしよう! ……ストーブを眠りにつかせて、もう一枚毛布を追加しよう。……念ためさらに薄手の毛布を追加しよう」

「うん。温かくして一緒に眠ろう」

 一緒に眠る準備を進めようとする使い魔を制し、魔術師は一人動き出す。それは準備に時間がかからないのですぐに終わった。

「さて、眠るにあたり……今度は私が君をギュッとさせてもらおう」

 横になったまま、魔術師は使い魔を軽く抱きしめる。

「おやすみなさい……」

「うん、おやすみ」

 二人はしばらく一緒に眠ってから帰っていった。

 と、いう感じに今回を終わりにしよう。

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