思い浮かぶ
空には姿を新月に近づけつつある月がある。
冷たい空気の中に、月の光が降り注いでいる。下弦の月を過ぎて数日が経ち、有明月の姿。その明るさは、現実の世界の満月の夜くらいの明るさにも感じられる。
月の光とは違う明かりが見える。その明かりは窓辺に置かれている大き目のコップに入った蝋燭のもの。それが置かれている窓は少し開いていて、そこから室内へ冷たい空気が少しずつ入り込んでいた。
「なんとなく空気の入れ替えを……少しこの世界に来るのに、間を置いた気がするので」
そう台詞を並べる人影は窓辺に立ち、入り込んできた冷たい空気が自分の体を冷やすのを感じていた。
「とはいっても、あまりここを冷やし過ぎるのもよくないか……」
空気の入れ替えをそれなりに出来たと判断して窓を閉める。
「思ったより室温が下がってしまった気もする。怒られてしまうかな……。ここはストーブを目覚めさせるのがベスト」
お座敷と呼ばれているこの場所、その隅に目立たずに置かれているストーブへ視線を向ける。そして、テーブルの上に置かれているライターへ手を伸ばしかけた時、ふわりと気配が現れた。
伸ばしかけた手を下し、再び窓の方へ体を向ける。
「…………夜の静寂 足元に影は無く 空を見上げれば月は雲の向こう 空に手を伸ばすと雲は流れ月が出る 月の光で影を見つけ振り向くと君はいた……」
ふわりと現れたモノを呼び出す呪文を唱えた魔術師は振り向く。
「こんばんは!」
振り向いた魔術師と目が合った使い魔は笑顔で挨拶をする。
「こんばんは! えっと、空気の入れ替えをしてたら思ったより室温がさがってしまったよ」
「…………ちょっと寒いね。でも、別にわたしは怒ったりしないよ?」
チラッと自分が来る前の文章を読んで使い魔は言う。
「ひと安心! ……ん? どうしたの??」
使い魔は両脇をしめたまま、両手を開いた状態で上げていた。
「……うん」
「ぬ~。両手をグーにしていたらジャブが来そうな感じが……。ここは防御の構えをするべきかな」
魔術師は肩の高さまで両手を広げて上げ、両肘を曲げて手を上に向ける。それは防御の構えなのか微妙に見える。
そんな魔術師を見ながら使い魔は行動に移った。
「ギュッと抱き締めてみました」
以前にも使い魔は魔術師を抱き締めたことはあったけれど、今回は何か心意気? のようなものが違ったのでタイミングを窺って、妙な構えをしていた。
「おぉ……そう来ましたか! ではこの構えからの防御をしよう」
そう言うと魔術師は両手を使い魔の背中に回して抱き締める。
「わたしが、あなたを抱き締めようとしてたの……わかってたの?」
魔術師が取った構えがこうするためだったのだろうか? と、思って使い魔は聞いてみる。
「う~ん、君の構えから何かを捕まえようとしている感じはしていたし……。わかっていた……といえるのかな?」
「そうなんだ。こうしてギュッとされるの……どう?」
「嬉しいよ。離したくなくなってしまう……。なんだろう……すごく嬉しいし、心地良いし……好きだな!」
「わたしもギュッとされるの好き」
「それに、君の体が温かくて冷えた体に染みこむ!! ……君を冷やしてしまわないか心配だけど」
「大丈夫だよ!」
使い魔は目を閉じながら応える。
「君の体の感じ……お風呂上がりで温まっているね……。でも、湯冷めが心配なので擦って摩擦熱を発生させよう」
そう言うと使い魔の体を擦る。
「良い雰囲気なのに変態さんなんだから!」
耳元で聞こえる使い魔の声に、怒りは感じ取れない。
「おっと!? 右手が君のお尻を触っていたか!」
そう言って魔術師は一歩後ろに下がり、抱き締め合っている状態は解除された。
少し距離が開いたことで二人は視線の交し合う。
見つめ合っていると、使い魔が笑顔になった。
「毛布を二枚重ねで、くっ付いて温まろう! お尻触ったのは、湯冷めしないように温まろうって合図だよね!」
「ぬぬ!? なかなかやるではないか。でも、君のお尻を触りたかったのも確かだけどね!」
「ふふっ!」
使い魔は明るい笑い声を出すと素早く動き出した。二つ並んだ大き目のクッションに、毛布を二枚重ねて魔術師と一緒に温まる準備を完了させる。
「動きが早い!? ……あとはストーブを――――」
魔術師がテーブル上のライターへ手を伸ばしたのを見て使い魔は台詞を言う。
「ストーブはまた今度にしない? しっかり毛布を掛けて一緒にくっ付いていれば大丈夫そうだし……」
「……ダメそうだったらストーブを目覚めさせるとしよう」
「うん! ……ほらほら、入って!」
一足早く毛布に潜り込んだ使い魔は魔術師を呼ぶ。
「では、温まらせてもらおう」
魔術師は毛布に入り込む。左隣では使い魔が笑顔を向けている。
「お風呂上がりのわたしは温かいよ!」
そう言って使い魔は魔術師の左腕を抱き締める。
「確かに温かい! それにお胸が当たっております!」
「体の構造上そうなるね」
特に気にする様子もなく使い魔は応える。
「そういえば、現実の世界でクリスマスというのが過ぎてしまったようだ」
「過ぎちゃってるね。……今年のクリスマスは何かあったかな?」
「特に何もないですな。……しいて言えば、ケーキの生クリーム美味しかった! かな」
「そうなんだ! ……過ぎちゃってたけど、ケーキ持ってきて一緒に食べたかったな」
「また今度だね」
「うん!」
使い魔の声を左の耳元で聞いて魔術師は、胸の鼓動が早まっているのを感じた。
「君と一緒に潜り込む毛布は心地良いですな!」
「ふふ! そうだね!! ……こうしてあなたの左腕をぎゅと抱き締めてると……なんだか――――」
「なんだか?」
「…………」
言い終わる前に使い魔は眠っていた。
「あ、あれ!? ……寝不足? ……疲れていたのかな? ……うむ、寝顔も可愛いじゃないか」
魔術師は眠る使い魔の横顔を見て、その左頬を右手の人差し指で軽くつついてみる。
「…………」
「おお! ここも柔らかい!! ……と、小声て言ってみる」
少し、いたずらをして満足したの今の態勢で楽に視線が向かう先、天井を見る。
「…………」
「…………」
天井を見ながら静かに考え事をする。その思考には、常に使い魔のことが含まれていた。
「…………」
「普段も結構、君のことが思い浮かぶし、一緒にいればそれは尚更のことで……。ああ一応言えば、別に君にエッチなことをしようと考えているわけじゃなくて。……考えないわけじゃないけど。まぁ、意図的に考えることも……。エッチな妄想は置いておいて……。考え事をする時、自然に君のことが思い浮かんでしまう感じなんだよ……」
眠る使い魔に、小声で話しかける。
「うぅん……」
眠ってしまった使い魔は短時間で目を覚ました。
「ごめん。起こしてしまったか」
「……ちょっと夢を見てただけだよ」
何度か瞬きをしてから、応える。そして、自分が少し眠っていた間の文章を読み、魔術師の左腕を抱き締める力を強くする。
「夢……怖い夢でも見ましたかな?」
「……」
何も言わずに小さく頭を振る使い魔の瞳に、なんとなく優しさを感じ、自分に向けられている愛情もなんとなく感じ取る。
「なんだろう。君に囚われる感覚が!? ……その感覚が何というか心地良い」
「わたしが一緒にいるから、任せてね!」
「おお! なんだろう、心強いであります! ……あれ? 今回の文章並べを始めてから数日経ってしまったのに、月の明るさが同じくらいだ」
「……確か新月に近づいている辺りに並べ始めたから……えっと、新月を過ぎちゃったんだね!」
「うむ、新月を過ぎて更に数日……。年も明けて新年を迎えたようだ!?」
「う~ん。……あ! あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします!!」
使い魔は今と現実の時間を把握して新年の挨拶をした。
「あけましておめでとう! 今年もよろしくお願いします!! もっと交流を深めましょうぞ!」
「うん!」
使い魔は力強く頷いた。
「そういえば、先ほどの君の夢は初夢かな?」
「……うぅん。初夢じゃないよ」
「そか。初夢じゃないとして、どんな夢だったのかな?」
その問いに使い魔はジッと魔術師を見つめる。
「ちょっと照れる。……! 夢に私が出て来たのかな?」
「正解! あなたとお話しする夢だったよ」
「どんなお話をしたのだろう……夢の私は変なこと言ってなかっただろうか」
「大丈夫だよ。でも、内容は秘密!」
「ひ、秘密でございますか!? 気になる」
「気にしない、気にしない」
「ふむ、君がそう言うならば……。……さて、年も明けてしまったので、今回をこの辺で終わりにしよう。並べようとしていた文章があったけど、それはまた今度にしよう。今回も文章並べを手伝ってくれてありがとう!」
「どういたしまして! ……帰るのは一緒にもう少し温まってからにしない?」
「そうしよう! ……そうするにあたり、もっと密着度を上げようではありませんか!」
魔術師は使い魔に封じられていた左腕をやや強引に動かして、下から使い魔の腰に左手を回して自分の方へ抱き寄せる。
「強引なんだから!」
「もっと君の体温を直接感じたいのだよ!」
やや魔術師の体に重なるように使い魔は抱き締められている。
「重くない?」
「むしろもっとギュッと強く抱きしめたいくらいだよ!」
という感じにイチャイチャしながら温まり、大き目のコップに入った蝋燭などの処理をしっかりして帰っていった。
という感じに今回を終わりにしよう。




