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闇が深まる

 季節は秋、空には下弦かげんの月がある。時折、空にある雲が月を隠し、その光をおぼろげにする。新月へ向かう月は、その明るさを少しずつ、少しずつ弱めていた。

 秋のこの夜の空気はヒンヤリとしていて、風に運ばれて触れると肌寒い。

 弱く吹く風は、空いた窓から室内に入り込み、そこにいる人影と触れ合っていた。

「これはやはり……寒いのかな」

 窓の近くにあるテーブルに腰かけている人影はそうつぶやいた。

「今回はただテーブルに腰かけているわけじゃないのだよ!」

 どこか得意げに独り言を言っている。

「……コホン。たいしたことではない、ただテーブルに座布団を乗せてそこに座っているだけです」

 地の文を意識しつつ、テーブルに乗せた座布団に腰かけた姿勢を崩さずに言う。

「正座するというのもいいけど、足が痺れた状態でテーブルの上は危険そうだし」

 そう言いながら左に置いてある空席の座布団を見る。

「この空気……気温……いや、室温? 的に何か掛けるものもあった方が良さそうだ」

 人影は立ち上がると、大き目のダンボールへと向かった。向かう先への距離は10歩以内に辿り着く。

 辿り着いた人影は大き目のダンボールから、薄手の毛布を取り出すと装備した。

「ついマント風に装備してみたくなるし……装備可能だし……温かいし」

 装備した薄手の毛布を確認しつつひるがえした時、ふわりと気配が現れた。

「おお、来たか!! …………夜の静寂 足元に影は無く 空を見上げれば月は雲の向こう 空に手を伸ばすと雲は流れ月が出る 月の光で影を見つけ振り向くと君はいた……」

 嬉しそうに呪文を唱えて振り返ると、そこには使い魔がいた。

「こんばんは! 何か良いことあったの?」

「こんばんは! うん、君に会えた!!」

 薄手の毛布をマント風にまとったまま、微笑んで答える。

「そうなんだ。……わたしも嬉しいよ」

 使い魔は落ち着いた口調で答える。口調は落ち着ているけれど、口元は微妙にほころびそうになっていた。

「この装備は、微妙におかしかったか!?」

「え? ……う~ん、いいと思うよ?」

「まぁ、この装備でお出かけは……。いけるかな」

「その装備で出かける時は、わたし、少し離れて歩くね」

「……」

「……はぐれない様にちゃんと付いて行くから大丈夫!」

「いやいや、私は心配性なので、こうして薄手の毛布マントに君を捕らえて歩こう!」

 魔術師は左手で毛布を広げると、使い魔の肩に薄手の毛布を掛ける。

「室内で人目がなければ付き合うね!」

「うむ! ……ではでは、あちらのお席へどうぞ」

 使い魔は、テーブルの上に置いた座布団の席へとエスコートされた。

「寒いとテーブルも冷たくなっちゃうよね」

「季節ですな! まぁ、テーブルに座るのがよくないと言えばそれまでだけど。……座り心地はどうですかな?」

「いい感じだよ」

「それはよかった! ……窓は閉めよう」

 装備していた薄手の毛布を外し、使い魔の方に掛けると、窓を閉める。

「今のところは月の光でいけるね」

「そうだね」

 窓を背にした魔術師を見上げながら応える。

「こ、これは……上目遣いというやつか!」

「ふふっ!」

 魔術師が喜んでいるので、使い魔はもっと上目遣いをしようとしたが、やり過ぎてにらんでいる感じになってしまっていた。

「心意気は可愛いけど、ちょっと怖いかも」

「睨んでるわけじゃないよ」

「私も上から目線だけど、そういうつもりじゃないよ……。では、お邪魔します」

 使い魔が掛けている薄手の毛布へ魔術師は入り込み、一緒に掛ける。

「温かいね」

「うむ。君のぬくもりをより感じられて良い!」

 触れ合う肩の感触を意識しながら使い魔は、魔術師が嬉しそうに呪文を唱えた事などをこの状況と関連付ける。

「一人で寒かったの?」

「いや、それほど寒くは……。……とはいえ、肌寒い……君と暖め合いながら過ごすの良いなと思う」

「それじゃあ、もう少し近づいた方がいいのかな?」

「並べて置いた座布団の隙間にご注意です」

 そう言いながら魔術師は使い魔の腰へ左手を伸ばして抱き寄せる。

「毛布で見えないけど、変なところ触っちゃだめだからね」

「変なところとは、どんなのころなのだろうか?」

「もう!」

 怒ったふりをする使い魔は、体を揺すって魔術師を攻撃する。しかし、攻撃を受けた魔術師はダメージを受けるどころか回復していた。

「君のその攻撃相性は吸収する特性なんですよ~!」

「ふふっ! そうなんだ」

 使い魔は、魔術師が重いと感じない程度を意識しながら、重心を倒して魔術師に身を任せる。

「うむ、これも良い!!」

「重くない?」

「大丈夫! 大丈夫だけど……君に押し倒されてしまう感じを装って、イチャイチャな感じもいいかも」

 そう言われて、目を閉じて行きながら魔術師の方へ重心をより預けようとする間際、使い魔は月の形が変わっていることに気付き、閉じかけていた目を開けて、両方の瞳に月を映した。

「月がちょっと細くなってる!」

「ぬぅ! 惜しい!? ……月が新月へ少し近づいて闇が深まった……か」

「ちょっと暗くなったね」

 月以外の明かりも必要だろうか? と、使い魔が考えていると、魔術師がしゃべりだす。

「……心を病むのと心が壊れるのは違うコトなのだろうか」

「どうなんだろうね……」

 使い魔は瞳に映る月を魔術師の横顔にかえて応える。

「聞くようになってからだいぶ経つけれど、心を病んだり壊れてしまった方に”頑張れ”と言うのは好ましくないのだろうか……。あの頃の私には、欲しい言葉の一つだったように思えるけど。まぁ、言われても届きはしなかったけど」

「……」

 何も言わず魔術師が向けている視線と同じ方へ視線を向けると、その瞳に再び月が映った。

「思い返すと、努力はしたけど頑張っていたのか……微妙に思えたりする。頑張るというより、やるしかなかった」

「それは頑張ったのとは違うの?」

「う~ん、日々自分が失われていく感覚……自分の記憶や思い出が自分のもので本当にあったことなのか、確信が持てない……当たり前だったことのはずなのに。元に戻りたい……だから努力した。何もせず自分が失われていくのに耐えられなかったのだと思う。これは頑張っていたと言えるのか……。ただ、やるしかなかっただけにも思える」

「……頑張っていたと言っても良いと思うよ。努力した……ということは頑張っていたと、わたしは思うし」

「そう言われると、そんな気もする。……出来るはずのことが出来なくて、失敗して怒られて泣いてしまったり、自分の不甲斐ふがいなさ無力感に一人泣いたり……。それでも、自分を諦めなかった……やっぱり、頑張っていたのかな?」

「頑張ってたよきっと!」

「君にそう言われると、嬉しく感じるよ」

 魔術師は優しく微笑みながら使い魔の横顔に言う。

「思ったことを言っただけだよ。ただそれだけだし……それだけだからね!」

 使い魔の並べたセリフには照れがにじみだしていた。

「とはいえあの頃、走っていて疲れや痛みで歩きたくなった時に、自分に言い聞かせていた言葉は『ここが戦場なら動けなくなった時点で死ぬ。動かないと死ぬ状況で、疲れや痛みで動かずに死を受け入れるのか? 動かずに激痛の果てに死んでもいいのか? この程度で諦めるのか!』と、いう感じのもあった。他にも『この心の苦痛に比べたら、この程度の体の痛みなど取るに足らない……この程度、笑わせてくれる!」とかも」

 月から窓枠に視線を向けて思い出しながら台詞を並べる。

「でも、痛いのをあんまり無理しちゃ危ないよ」

「命より自分であることの方が重要なことだった……自分を殺すつもりの努力。まぁ、死ぬつもりもない。死んだとしたらそれはただの結果。……殺すつもりでやっても死んでしまってはやはり困る。この辺りは拷問に近い気もする」

「危ないというか、ちょっと怖い」

「自分相手だから出来たことでもある……。それに、運動を続けて体力を使い果たして衰弱して死ぬというのは結構難しい。自分で試して思ったのは、人間はしぶといものだな……だった!」

 使い魔は魔術師の話を聞いていて、また同じことをするつもりではないだろうか? と、心配になっていた。

「あなたが死んじゃったらヤダよ」

「悔しいけれど、今の私にあの頃のような努力は出来ない」

「そうなの?」

「うん……」

「……あれ? 暗くなった??」

「かなり新月に近づいたようだ……さらに闇が深まったという感じだね」

 そう言うと魔術師は立ち上がった。その動きを使い魔は目で追うけれど、暗くてよく見えない。

「どこいくの?」

 使い魔も立ち上がってそばへ寄ろうと腰を上げかけた時、右手を軽く握られた。その手が魔術師の左手だとすぐに解り、握り返す。

「寒さも増してきたし、横になって毛布を掛けた方が温かいと思ってね……。ご一緒してくれますかな?」

「うん。実はわたしも、足が寒かったの」

 魔術師の手に引かれて使い魔は進む。数歩の距離だけれど、その先にいい感じの大きさのクッションが二つ並べて置いてあることを知っていた。

「つま先に、いい感じの大きさのクッションを見つけましたかな?」

「見つけたよ」

「では、暗くて見えないのでまずは慎重に両膝を着こう」

 二人は手をつないだまま、同じ動作をする。

「このままうつ伏せになるの?」

「まずはそうだね。暗いから、改めて慎重にね」

「罠とか仕掛けてないよね?」

「大丈夫、大丈夫!」

 暗い中、魔術師が体を倒す動作を感じ取り、使い魔もうつ伏せで横になった。二人とも顔をいい感じの大きさのクッションにうずめる。

「柔らかくて寝心地いいね!」

「そうですな~! あとは毛布……薄手の毛布はテーブルの上……普通の毛布を使おう」

 そう言うと、魔術師は繋いでいた手を放した。

「……あ、エッチ!」

「こう暗い感じのシチュエーションだと、事故でお尻を触ってしまうこともある……よね?」

「事故……なの? ……わたしのお尻大きいからかな」

 使い魔の問いを背中で聞きながら、大き目のダンボールから、毛布を出す。

「正直に言えば事故ではなく意図的。君のお尻を触りたくなってしまったのだよ! ごめん」

「変態さんだね。謝らなくても大丈夫だよ。……でも、他の人のは触っちゃだめだよ? それは大丈夫?」

「大丈夫! 君のお尻だから触りたくなってしまったわけで……誰のでもいいわけじゃないので大丈夫!」

 魔術師はうつ伏せで大人しくしている使い魔の背中に毛布を掛ける。

「足も温かい! ……毛布は一枚だよね?」

「一枚ですとも! 一緒に包まると君の体温もじかに感じられるし!」

「ふふっ! 温かそう!!」

 軽く足をパタパタ動かしながら楽しそうに言う。

「ではでは、ゴソゴソ……と」

 と、言いながら魔術師は使い魔の掛けている毛布に入る。

「そういえば、いつもと逆の位置だね」

「そうだね。いつもはこっちのクッションに横になるのは君……クッションから君の匂いを」

「恥ずかしいからダメ!」

 ダメと言いながら、使い魔も同じことをしていた。

「ん? 待てよ……すぐ隣に君がいるじゃないか!」

 仰向けから使い魔の方へ体を向けて、髪の匂いを感じ取る。

「やだ~」

 甘い響きのする声を出しながら使い魔は魔術師に背中を向けた。

「この態勢……ありがたく君の髪の匂いを堪能させてもらおう!」

 魔術師は左手を、使い魔のお腹の辺りに回す。

「……」

 後ろから抱き締められる感じを意識して、使い魔は微笑む。

「そういえば、今回でこの”ぷらくてぃす”のお話は100回目だね。最初の頃よりは、文章並べが上手になったと良いのだけれど……」

「上手くなったと思うよ!」

「ありがとう! ……さて、そろそろ今回を終わりにしよう。今回も文章並べを手伝ってくれてありがとう!」

「どういたしまして! あなたの役に立てて、わたしも嬉しい!」

 使い魔は、お腹に当てられている魔術師の左手に自分の左手を重ねて明るい声でいう。

「このままもう少し、君の体温で温まってもいいかな?」

「いいよ! わたしもあなたの体温で温まるから!」

 二人はもうしばらく、温まり合ってから帰っていった。

 と、いう感じに今回を終わりにしよう。

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