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ミチクサ  作者: m-fujima
1/1

ここにいる事

 好きすぎて、

 どうしていいかわからなくて、

 あなたに会うたびに拷問にあってる気さえする・・・・・・。


 ――そんな気持ちを抱えたままあなたに会えというのですか?


 いつからだろう……たばこに逃げることを覚えたのは。休憩室にカチンという音を響かせジッポを閉じた。

 大きく毒を吸い、またため息と一緒に吐く。

 ここは会社の5階にある休憩室。各階に休憩室が設けられている。

 5階フロアは企画、管理、システムのフロアで、そこに配属されている人がほぼ使用するらしい。

 らしいというのは、俺はまだここにきてまだ間もない。いままで、神戸の支社で働いていた。

 黒いソファーに腰を下ろし、休憩室に二つある自販機に目が行く。カップと缶・ペットボトル。

 また休憩室の奥にはちゃんと給湯室もあるが、珈琲をいれるのが面倒臭く俺は自販機に手を伸ばした。

 ガタンと音を立てて落ちる缶コーヒーを拾い上げ、極力見ないようにしていた窓の外を眺める。

 どうしてこんなところに休憩室があるのだろう――目の前には化粧品広告がどでかく上がっていた。

 本社に来たのは間違いだと改めて感じる。

「おっ、志方」

 声をかけられたほうを見る。給湯室から同僚の平野が出てくるところだった。

 平野も一年前まで神戸の支社にいた。神戸では同じシステムを担当していたが、こちらでは管理係に配属されている。

「よう」

「システムどう?」

「場所がかわっただけで、仕事は変らないな」

「神戸でも出来るのにって感じの言い方だな」

 そうヘラッと笑って、平野はソファーに座った。

「まぁな」

「東京にきても意味ないって感じか。――まぁ、東京の子もかわいいぞ」

「そっちか」

「それしかないだろう。俺ら独身だぞ。しかも25歳のピチピチと来てる」

「ピチピチってなんだよ」

 死語を堂々と使いながら興奮気味にガッツポーズを決めて平野がこちらをみる。

「若さだよ。若さ!」

 そして力説。若いぞ、おじさん――。

「……俺、子どもにおじさんって呼ばれてるぞ」

「それは、聞かなかったことにしろ。まぁなんだ、合コンだ! 志方君。合コンに行こうではないか!」

 向こうにいたころも平野は合コンをしまくってた男だ。趣味といれば合コンと言ってもいいのではないのだろうか。

「そっちか」

「どっちだよ」

 妙な間があく。

 東京来て彼女もいないし、それに……嫌な事を忘れられる時間がほしい。考えなくていい時間がほしい。

 あっちにいるより距離が近いと思うだけで、こうも自分が――。

「おい。志方」

「いいよ」

「えっ」

「誘っておいて、えっ、はないだろ」

「だって、志方といえば、合コン? 面倒臭い、お前らで行けばってのが定番じゃん」

「そうか?」

 そういえば誘われても行った事なかったな。まぁ彼女がいたわけだから行くわけには行かないしな。

 彼女とはこっちに来る前に別れた。向こうが遠距離がダメだと言った。

 本当は分かっていたが、分からないフリをした。

 結婚をするつもりがない――。

「あぁ。まぁOKってことで、俺セッティングするから逃げるなよ」

「わかってるよ」

「おっ、看板。俺この女優さん好きなんだよ。広瀬真帆」

「俺は、嫌いだよ」

「えっ?」

「あぁ、なんでもない」

 俺はいまどんな顔をしているのだろう。

 憎い……姉の看板を見て――。


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