ここにいる事
好きすぎて、
どうしていいかわからなくて、
あなたに会うたびに拷問にあってる気さえする・・・・・・。
――そんな気持ちを抱えたままあなたに会えというのですか?
いつからだろう……たばこに逃げることを覚えたのは。休憩室にカチンという音を響かせジッポを閉じた。
大きく毒を吸い、またため息と一緒に吐く。
ここは会社の5階にある休憩室。各階に休憩室が設けられている。
5階フロアは企画、管理、システムのフロアで、そこに配属されている人がほぼ使用するらしい。
らしいというのは、俺はまだここにきてまだ間もない。いままで、神戸の支社で働いていた。
黒いソファーに腰を下ろし、休憩室に二つある自販機に目が行く。カップと缶・ペットボトル。
また休憩室の奥にはちゃんと給湯室もあるが、珈琲をいれるのが面倒臭く俺は自販機に手を伸ばした。
ガタンと音を立てて落ちる缶コーヒーを拾い上げ、極力見ないようにしていた窓の外を眺める。
どうしてこんなところに休憩室があるのだろう――目の前には化粧品広告がどでかく上がっていた。
本社に来たのは間違いだと改めて感じる。
「おっ、志方」
声をかけられたほうを見る。給湯室から同僚の平野が出てくるところだった。
平野も一年前まで神戸の支社にいた。神戸では同じシステムを担当していたが、こちらでは管理係に配属されている。
「よう」
「システムどう?」
「場所がかわっただけで、仕事は変らないな」
「神戸でも出来るのにって感じの言い方だな」
そうヘラッと笑って、平野はソファーに座った。
「まぁな」
「東京にきても意味ないって感じか。――まぁ、東京の子もかわいいぞ」
「そっちか」
「それしかないだろう。俺ら独身だぞ。しかも25歳のピチピチと来てる」
「ピチピチってなんだよ」
死語を堂々と使いながら興奮気味にガッツポーズを決めて平野がこちらをみる。
「若さだよ。若さ!」
そして力説。若いぞ、おじさん――。
「……俺、子どもにおじさんって呼ばれてるぞ」
「それは、聞かなかったことにしろ。まぁなんだ、合コンだ! 志方君。合コンに行こうではないか!」
向こうにいたころも平野は合コンをしまくってた男だ。趣味といれば合コンと言ってもいいのではないのだろうか。
「そっちか」
「どっちだよ」
妙な間があく。
東京来て彼女もいないし、それに……嫌な事を忘れられる時間がほしい。考えなくていい時間がほしい。
あっちにいるより距離が近いと思うだけで、こうも自分が――。
「おい。志方」
「いいよ」
「えっ」
「誘っておいて、えっ、はないだろ」
「だって、志方といえば、合コン? 面倒臭い、お前らで行けばってのが定番じゃん」
「そうか?」
そういえば誘われても行った事なかったな。まぁ彼女がいたわけだから行くわけには行かないしな。
彼女とはこっちに来る前に別れた。向こうが遠距離がダメだと言った。
本当は分かっていたが、分からないフリをした。
結婚をするつもりがない――。
「あぁ。まぁOKってことで、俺セッティングするから逃げるなよ」
「わかってるよ」
「おっ、看板。俺この女優さん好きなんだよ。広瀬真帆」
「俺は、嫌いだよ」
「えっ?」
「あぁ、なんでもない」
俺はいまどんな顔をしているのだろう。
憎い……姉の看板を見て――。