長髪のキューティクルは特に手入れに時間がかかる!
アルフォンスは目を見開いていた。
上瞼と下瞼って何だっけ?と言う位に。
この国の王女アリーシャの足元でボロ雑巾プラス恐慌状態の男。
17年前、我が娘に“祝福”を贈った、魔界の端から端を納める………かの有名な魔王様である。
「もっと魔物っぽいのをイメージしてたんだが…。まあ良い、死ね」
鳶色の瞳には相も変わらず刃物のような鈍い輝きがある。
町行く人間にどちらが魔の王かと聞けば百人中百人がアリーシャだと答えるだろう。
「な何なのだ、お前は!私は17年振りに親友の子に会いに来たというのに。……えぇい!!足を退けよ!!」
やっと地面から全身を出せた魔王はブツブツと呟きながら衣服の汚れを払う。
一通り身を繕い終えムッとしかめた顔を戻した。
次の瞬間、まだ不機嫌オーラを出しまくっていた彼の、自慢の黒髪が一房、地に落ちた。
「…………え」
「魔王とは親友の子を見る為だけにわざわざ地上に来るのか、馬鹿らしい。…まあ…親友とやらには悪いが………死ね!」
魔王の頬スレスレにあった片刃の剣が真横にずらさる。
だが決して剣が収められたのではない。
アリーシャの発した言葉の意味通り。
魔王の首を胴から地面へ転校させる為である。
魔王はなんとか剣の軌道を避けたが、なんかもう、…貴婦人が変質者に遭遇した時のような悲鳴を上げた。
思わぬ攻撃に驚いたリーシャは耳を塞ぐ。
「キャアアアア!?我が自慢のキューティクルがあああ!!」
「ッ煩い!」
「びんそぎッ!」
間一髪で刃を避けきれなかった魔王が慌てふためいた。
余りの騒がしさにアリーシャは剣の持ち手で魔王の顔を殴り黙らせたが流石に致命傷にはなるはずもなく。
仕留められなかった事に隠すことなく舌打した。
眉根を寄せ次の構えする。
めそめそめそめそめそめそめそめそめそめそ…。
赤く腫れた左頬を庇いながら先代魔王にも殴られた事ないのに…、と言う魔王のあまりにも情けない嗚咽に彼女の瞳が少し、ほんの少し揺れた。
「………あんた魔王よね」
「失礼だな、見れば分かるであろう!魔王!!仮にも王様だよ、私!!何この扱い!?平伏せ愚民共!!」
「…………そうか。ではやはり、シネ」
「ギャアアアアア!?最早語尾の“死ね”が感情すらこもってない片言に!!…ちょ、痛いッ、マジで、…助けてアルフォンスゥゥゥ!!」
アルフォンスは目を見開いていた。
上瞼と下瞼って何だっけ?と言う位に。
我が娘の王女アリーシャの足元でボロ雑巾プラス恐慌状態の男。
17年前妻の腹にいた娘に“祝福”を贈った、魔界の端から端を納める…
…忘れもしない親友の魔王である。