第4話 新たな出会い
その後も、いろいろなことがあった。
盗賊に捕らわれ、奴隷として使役されていた子どもとの出会い。
その子――イシッコとの出会いは、私にとって決して忘れられない出来事となった。
やがて、その盗賊団は辺境軍の討伐隊によって討伐される。
そして盗賊たちが溜め込んでいた物資や金品は、戦利品として回収され、討伐に参加した辺境軍の兵士たちへ、正当な褒賞として分け与えられることになった。その戦利品になぜか私(石)も混じっていた。
イシッコがなぜそこにいたのか。
盗賊団がどんな連中だったのか。
そして、私がその場にどう関わったのか――。
そのあたりの経緯は、いずれ改めて語ることになるだろう。
今はただ、討伐を終えた辺境軍の兵士たちが集まり、褒賞が下される、その場に立ち会っている。
それが、現在の状況だった。
そして、箱の中の私(石)。
――うん。
どう考えても、私(石)が相変わらず一番、粗末だ。
そもそも私(石)は宝石なのか?
周囲には、金貨がぎらぎらと積まれ、銀貨がじゃらりと音を立てる。
箱の中には赤い宝石、青い宝石、透明な宝石、緑、紫、そしてよく分からないが高そうな宝石が、所狭しと転がっている。
その中央あたりに、ぽつんと私(石)。
灰色。
グレー。
光らない。
映えない。
……せめて、もうちょっと透明感とかあればよかったのに。
現実の私は、箱の中で最も地味な存在だった。
やがて声が響く。
「盗賊の戦利品は、討伐に参加した者に分配する」
ああ、なるほど。
私なんて、まず選ばれないだろうな。
誰が好き好んで、光らない石を選ぶというのか。
まず、今回の討伐隊の隊長が箱に手を突っ込み、ごそっと、大きな赤い宝石や青、緑、透明な宝石と金貨を掴み取る。
さすが隊長。遠慮がない。
次に名前が呼ばれる。
「宝石大二個、金貨十枚」
いかにも強そうな男が、青と緑の宝石と金貨を受け取って去っていく。
名前。
配分。
歓声とため息。
それが何度か繰り返された後、隊長が箱を指さして言った。
「残りはお前たちだ。順番に来い」
「この箱から、好きな宝石一つと、銀貨五枚を持っていけ」
兵士たちが、ぞろぞろと列を作る。
箱の中を覗き込み、目を光らせる。
もう大きな宝石は残っていない。
だが、中くらいのものや、小ぶりで輝きの良いものは、まだいくつもある。
ちなみに、体積だけなら、私(石)が一番大きい。
……全然うれしくないけど。
やがて、列の中ほどの一人が、箱を覗き込んだ。
目が釣り上がり、いかにも欲深そうな顔をした男だ。
――ああ、嫌な予感がする。
男は一瞬、きらきらした宝石に手を伸ばしかけ、なぜか、私(石)をむんずと掴んだ。
……え?
正直、驚いた。
まさか、私を選ぶ人間が現れるとは思っていなかった。
ほんの一瞬だけ、少し嬉しいとすら思ってしまう。
だが次の瞬間。
「……やっぱやめた」
男は私をぽいっと箱に戻し、別の青い宝石を掴んで、さっさと去っていった。
……うん。
知ってた。
私は内心で、そっと息を吐く。
まあ、あんな目の人に選ばれても、なんとなく落ち着かなかっただろうし。
――なんて、ちょっと負け惜しみだけど。
次の兵士が、箱に顔を突っ込む。
今度は、これといった特徴のない、驚くほど地味で、茶色の髪、茶色の目。
どこにでもいそうで、大人しそうな男だった。
華もない。
迫力もない。
野心も見えない。
その男は、しばらく箱の中を眺めたあと、なぜか私(石)を手に取った。
――はいはい。
どうせ、また戻されるんだろう。
そう思っていると、男は私を、
すり……
すり……
と、指で撫で始めた。
「……とても、すべすべだな」
……!
そこか。
そこを評価するのか。
私の、唯一と言っていい長所。
光らない代わりに、やたら手触りがいいという点。
……なんだろう。
少しだけ、くすぐったいような、落ち着かないような。
でも、嫌じゃない。
男はしみじみと頷き、隊長に言った。
「わたしは、これにします」
隊長は怪訝そうな顔をした。
「そんな、何の変哲もない石でいいのか?」
男は即答した。
「はい。これがいいです」
そう言って、銀貨五枚を受け取り、私をポケットに入れて、自分の隊列へ戻っていった。
こうして私は、金でも宝石でもないのに、何の特徴もない男のポケットに収まった。
布越しに伝わる体温。
規則正しい鼓動。
……ああ。
なんだか、安心する。
この時点で、誰も気づいていなかった。
これが、私とこの男、そしてその家族、そして――この世界が、少しずつ狂い始める第一歩だということに。
神ですら、まだ、それに気づいていなかったのだから。




