第25話 アルフィが見つかる
夜明けの灰色はまだ森の奥に残り、冷えきった空気の中で、運ばれる木製の台車の軋みだけが規則的に響いていた。
石雪に覆われた地面は滑りやすく、踏みしめるたびに乾いた粉が舞い上がる。
その中を、アバルトとパナールは息を合わせて進み、エルガミオが前を切り開くように歩く。
ステラはそのすぐ横に寄り添い、台車に乗せられた小さな体から一瞬たりとも目を離さなかった。
アルフィの体は毛布に包まれているが、その輪郭はどこか歪だった。
柔らかさを失い始めた手足は布越しにも分かるほど固く、揺れのたびにわずかに不自然な重みを感じさせる。
呼吸はある。だが、それがあまりにもか細く、風に紛れて消えてしまいそうで、ステラは何度も身を乗り出しては、その胸のわずかな上下を確かめた。
誰も無駄な言葉を口にしない。口を開けば、何かが壊れてしまう気がした。
ただ足音と、台車の軋みと、時折風に舞う石雪の音だけが、世界をつないでいる。
やがて村の門が見えた。灰色に染まった木の柵と、閉ざされた家々。人々はすでに異変を察していたのだろう、戸口の隙間や窓の奥から、こちらを窺う気配がある。
だが誰も外へは出てこない。ただ、沈黙の中で、その帰還を見守っていた。
領館へ戻ると、すぐに前室で徹底的に石雪を払う。
いつもならば形式に過ぎぬその手順も、今は命を繋ぐ儀式のように重く、誰もが無言でそれをこなした。
やがて内扉が開かれ、暖炉の熱が流れ込む。
「こちらへ――急いで」
カルロがすでに準備を整えていた。寝台、湯、布、薬草。できうる限りのものが揃えられている。
ステラは言葉もなく頷き、アルフィのそばを離れない。
慎重に、慎重に――台車から持ち上げる。
硬くなりかけた体は、扱いを誤れば砕けてしまいそうで、アバルトの腕にも、これまで感じたことのない恐れが宿っていた。
それでも、父としての手は止まらない。ゆっくりと寝台へと移される。
毛布が外される。
その瞬間、部屋の空気が凍りついた。
灰色だった。
指先から膝にかけて、完全に石と化している。肌の色ではない。
光を鈍く反射する、明確な「鉱物の色」だった。腕も、肘の手前まで侵食が進んでいる。
頬にも、うっすらと灰色が差し込んでいた。
ステラの息が止まる。
「……アルフィ」
触れようとして、躊躇う。壊してしまいそうで、怖かった。
それでも、そっと頬に手を添える。そこだけは、まだ人の温もりが残っていた。
「大丈夫よ……ここにいるから……」
声は震えていたが、それでも必死に押しとどめる。
泣き崩れれば、この子は戻ってこられない――そんな根拠のない確信があった。
アバルトは、ゆっくりと息を吐く。
「……医師を呼んでくれんか」
短い命令。だがカルロは、静かに首を横に振った。
「すでに手配しております。ですが……」
言葉が続かない。
石雪による石化は、ただの病ではない。進行すれば、戻らない。
それはこの領に住む者なら、誰でも知っている事実だった。
ただの気休めにしかならないのは一番アバルトが知っていることだ。
だが、藁にもすがる思いで思わず口から出てしまったのだ。
沈黙が落ちる。
その時だった。
ステラの手の中で――
かすかに、揺れ動いた。
「……え?」
彼女が顔を上げる。握っていた石――守り石のストンだった。
それは、ほんのわずかに、しかし確かに震えていた。
アバルトの視線が鋭く向く。
石は、まるで意志を持つかのように、ゆっくりと向きを変える。
そして――
アルフィの方を、指し示した感じがした。
部屋の空気が、変わる。
ただの偶然ではない。
誰もが、それを理解した。
「……まさか」
アバルトの低い声。
ステラは石を胸に抱き、そしてもう一度、娘を見る。
灰色に侵されながらも、かすかに息をしているその小さな体。
終わっていない。
まだ――間に合うかもしれない。
その確信が、静かに、しかし確実に場に満ちていった。
基本的には幸せ、ハートフルコメディにしたいんです!
本当なんです!!!




