第19話 心ない一言
鑑定の儀の余韻がまだ空気に残る中、大人たちは別室へと移り、扉が閉まると同時に、大広間には子供たちだけが取り残された。
広すぎる空間は静けさを強調し、足音一つすら響きそうなほどに張り詰めている。
アルフィは一瞬、どうしていいか分からないように立ち尽くしたが、すぐに小さく息を整え、ソファを指さして二人に座るよう促した。
自分がこの場の主であることを、ぎこちなくも思い出したような仕草だった。
三人で並んで腰掛ける。
距離は近いのに、妙に遠い。
リーナは背を丸め、膝の上で指を絡めながら視線を泳がせている。
その様子は、風に怯える小さな獣のようで、存在を消そうとしているのが分かるほどだった。
そこへラルディが静かに入ってきて、湯気の立つ茶器と素朴な菓子を置いていく。
熊笹を煮出したような青い香りがふわりと広がり、わずかな温もりが場に落ちた。
リーナは恐る恐る手を伸ばし、干し芋を一枚摘む。
両手で包み込むようにして齧り、小さく目を見開いたあと、ほっとしたように微笑んだ。その笑みはすぐに消えるが、確かにそこにあった。
タツィオは遠慮がない。両手に一枚ずつ持ち、躊躇なくかじる。
頬が緩み、満足げに咀嚼する様子は、この場の空気をまるで気にしていなかった。
そして、ふとした拍子に――
彼はアルフィを見た。
「なあ、お前さ」
その声は軽い。
軽すぎて、重さに気づいていない。
アルフィが顔を向ける。
「髪も目も灰色だな。変なの」
そして、追い打ちのように。
「灰色ってさ、みんなから嫌われてる色なんだぜ」
――ああ、やったな。
私は石の中で、思わず目を覆いたくなった。
悪意はない。だからこそ厄介だ。
悪意があれば怒れるのに、これはただの無自覚だ。
アルフィは、最初、理解できなかった。
言葉の意味が、少し遅れて胸に落ちる。
自分の髪が、視界の端で揺れる。
灰色。
自分の瞳も、同じ色。
――嫌われている色。
その言葉が、静かに、しかし確実に心の奥へ沈んでいく。
何も言えない。
言葉が見つからない。
胸の内側が、きゅっと縮む。
痛い、というより、冷えるような感覚だった。
リーナが、不安そうにアルフィを見る。何か言おうとして、唇がわずかに動く。
だが声にはならない。そのまま、また俯いた。
タツィオはまだ気づいていない。
自分の言葉が、何を壊したのか。
――本当に、質が悪いわね。
私は呆れながらも、どこかで苦笑していた。
私の感覚から見れば、あまりにも未熟で、あまりにも子供だ。
けれど――
だからといって、痛みが軽くなるわけではない。
沈黙が落ちる。
重く、逃げ場のない沈黙。
その時だった。
アルフィが、ふいに顔を上げた。
その表情は、泣いていない。怒ってもいない。
ただ――何かを飲み込んだ顔だった。
灰色の瞳が、ほんの一瞬だけ揺れる。
リーナと目が合う。
助けを求めたのかもしれない。
あるいは、ただ確認したかったのかもしれない。
だが、言葉は出なかった。
アルフィは、静かに立ち上がる。
椅子が、かすかに軋んだ。
誰も動かない。
止めることも、呼びかけることもできない。
アルフィはそのまま扉へ向かう。
迷いはなかった。
手をかけ、開ける。
振り返らない。
そして――出ていった。
扉が閉まる音は小さかった。
けれど、それはやけに重く、長く尾を引いた。
タツィオの手が止まる。
干し芋を持ったまま、固まる。
「……え?」
ようやく、自分の言葉の余韻に触れたような声だった。
遅い。あまりにも遅い。
リーナは立ち上がりかけて、また座る。
視線だけが扉に縫い付けられている。
追いかけるべきか。
呼ぶべきか。
その迷いが、体を縛る。
言葉が出ない。
足も動かない。
部屋は再び静まり返る。
先ほどまでとは違う沈黙。
重く、息苦しい沈黙。
タツィオは視線を落とし、何も言えない。
軽さは消え、ただ居心地の悪さだけが残った。
廊下の向こうから、大人たちの話し声がかすかに届く。
現実的で、忙しない声。
この部屋だけが、切り離されたようだった。
――そして私は思う。
あの子、ちゃんと外で泣けるかしら。
誰にも見られずに泣くことを覚えるのは、
少し早すぎる気もするけれど。
それでも――
ここで泣かなかったのは、きっと強さだ。
強さであり、同時に、少しだけ危ういものだ。
私は転がることもできないまま、ただその場に残された空気を、静かに受け止めていた。
基本的には、幸せ・ハートフル・アットホームコメディなんです!!
しばし、お付き合いを。。
本来ははじめの話のあたりでいきなりチート無双!!!www
とか、したいんです。。
でも、じっくりと描写したいので。。
読者様的にはストレスがあるかもですが。。
しばしお付き合いいただけると嬉しいのですが。。
どうなんでしょうかね。。
構成間違ったかな。。




