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私、 転生して路傍の石になっちゃいました。 ~石から始まる、底辺騎士爵の娘の受動的英雄譚。なぜか放っておいてもらえません~  作者: 大童好嬉


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第17話 鑑定の儀

今日は、鑑定の儀だ。

教会に属する司祭が各地を巡り、七歳になった子供たちの魔法適性を見極める。

それがこの国の決まりであり、誰一人として逃れられない通過点でもある。


季節は晩秋と初冬の狭間、空気は乾き、遠くで石雪の気配がうっすらと漂っていた。

アバルトが兵役から戻った、そのわずか後に重なる境界の司祭による鑑定の巡回。

偶然にしては出来すぎているが、この土地では「運が良い」で片付けられる類の出来事だった。

七歳まで生きる――それ自体が、すでに選ばれた側の証明だ。


特にこのベルリネッタ領では、その意味は重い。

土は痩せ、作物は細く、石雪は容赦なく降る。

病も飢えも、日常の一部としてそこにある。

だからこそ、この場に立っている三人は、それだけで十分に価値があった。

アルフィ。

リーナ。

タツィオ。

たった三人。

その事実が、この土地のすべてを物語っている。


アルフィは朝から落ち着きがなかった。

袋の中で感じる動きが、いつもよりわずかに速い。

歩幅も、呼吸も、ほんの少しだけ弾んでいる。

楽しみなのだろう。

同じ年頃の子供と会えることが。


――その無邪気さが、少しだけ眩しい。

領館の大広間は、いつもより静かだった。人はいる。視線もある。

だが、どこか抑えられている。期待と諦めが、同じ場所に同居しているような、そんな空気。

アルフィは、母に整えられた髪をそのままに、まっすぐ立っている。

灰色の髪と瞳。けれど、その顔立ちは柔らかく、どこか芯の強さを感じさせた。

女の子らしい華奢さと、妙な肝の据わり方が同居している。


リーナは隣で小さく息をしている。

白に近い金髪が揺れ、青白い頬にかすかな赤みが差すたび、体調の不安定さが透けて見えた。

それでも、その瞳――エメラルドの色だけは、妙に澄んでいる。


タツィオは落ち着きがない。視線が忙しく動き、興味と不安が入り混じっている。

子供らしいといえば、それまでだ。

やがて、扉が開いた。


老いた司祭が入ってくる。白い法衣はくたびれているが、歩みはぶれない。

付き従う助祭たちもまた、無駄のない動きで後に続く。

その手にあるのは、虹色に光る珠。

あれが、この世界の“判定”だ。


アバルトと短く言葉を交わし、儀式が始まる。

「まずは――アバルト・フォン・ベルリネッタ騎士爵様のご子女、アルフィ殿」

呼ばれた瞬間、アルフィの体がわずかに強張る。けれど、逃げない。


前に出る足取りは、意外なほどしっかりしていた。

助祭に促され、手を珠へ。

触れた瞬間、光が広がる。

虹色――だが、それだけではない。

私は、感じた。

確かに、流れている。

静かで、細くて、けれど確実な流れ。

これは――何もない、はずがない。

思わず、内側で息を呑む。


だが。

老司祭は、しばらく見つめた後、あまりにも淡々と告げた。

「アルフィ殿、魔法適性なし」

一瞬、時間が止まった気がした。


違う、と言いかけて、言葉が出ない。そもそも、私は声を持たない。そう、石だから。

袋の中で、ただ静かに揺れるしかない。

アバルトとステラの気配が、ほんのわずか沈む。

だが、それは一瞬だけだった。すぐに、納得と諦めを混ぜた表情へ戻る。


――そういうものだ、と。

この世界では、それが普通なのだ。

アルフィ自身も、少しだけ瞬きをしただけで、大きく動揺する様子はなかった。

ただ、ほんのわずかに、握る力が強くなる。

それだけで、十分に伝わる。


続いて、リーナ。

細い指が珠に触れると、光が揺れる。

今度は、はっきりと分かった。

風だ。

流れがある。軽く、鋭く、逃げるような動き。

老司祭の目が見開かれる。

「リーナ殿は、風の属性魔法を授かっております」



空気が変わる。

ざわめきが広がり、抑えられていた期待が、一気に表へ出る。

祝福。

安堵。

そして、少しの羨望。

リーナは驚いたように目を伏せ、小さく頷いた。

その肩が、ほんの少しだけ軽くなったように見えた。


最後にタツィオ。

結果は同じだった。

魔法適性なし。

それで、儀式は終わる。


淡々と。

本当に、淡々と。

誰も泣かない。誰も騒がない。ただ、それぞれが結果を持ち帰るだけ。

それが、この土地の強さであり、冷たさでもあった。

司祭は役目を終え、アバルトに一礼する。形式的な言葉が交わされ、場は静かに解かれていく。

――終わった。


そう思った、その時。

ふと。

空気が、引っかかった。

老司祭の足が止まる。


その視線が、まっすぐに――

アルフィへ向けられる。

何かを測るように。

見極めるように。


そして、ほんのわずかに、迷うように。

私は、その違和感を、はっきりと感じていた。


――終わっていない。


本当の意味での“鑑定”は、まだ。


ここからだ。

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