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風鈴

作者: 日々野 新
掲載日:2025/12/30

 ちりん……ちりん……風鈴の音さえ耳障りでうるさく感じる。 

 部屋の温度計は38度を指してる。

 窓を閉めてエアコンを入れた。


 お盆には帰ろうかな、とは思う。

 でも、今年は北海道も40度を記録した。


 3年前、じいちゃんが死んでからは戻っていない。

 親不孝だと思うが、どうしようもない。

 窓の外で微かに鳴っている風鈴の音に、責められている気がした。


 8月が始まり、ばあちゃんが入院したと連絡がきて、お盆に長い休みを取った。

 会社の上司には「正気か」と言われた。


 千歳空港には、お袋が迎えに来てくれた。

 実家までは此処から車で三時間、ただただ田舎の、のどかな風景が続いていく。


 帰る途中、ばあちゃんの見舞いに行き、思ったよりも元気な姿を見て安心した。

 実家に戻ると時間の止まったような自分の部屋で、

 何故だか持って帰ってきた風鈴を、昔と同じ場所につるした。


 ――翌日

 畑仕事を終えた両親が病院へ出かけた後、幼馴染の恵子がスイカを持ってきた。

 家族が居ないのをいいことに、久しぶりに彼女を部屋に上げた。


 中学生で付き合い、高2の時に初めて彼女を抱いてからは、毎日のように抱いてきた。

 遊ぶ場所も何もない田舎である。

 他にやることがなかった。


 エアコンのない部屋がむせ返るように熱い。

 生暖かい風が吹いて、風鈴が湿った音でなった。


「昔、おじいちゃんが縁日で買ってくれた風鈴、まだ持ってたんだ」

 そう話す彼女の、少し開いた胸元に汗のしずくが落ちる。

 どうしようもない気持ちで彼女の肩に手を伸ばした。


 自分が抱かれているのかと思った。

 声を押し殺しているが、それほど恵子は激しく求めてきた。 


「お父さんさぁ、あんたに帰ってきてほしいべさ」

 何故だか、昨日のお袋の言葉を思い出した。


 行為の後、ベッドから上目遣いに周りを見ていた恵子が言った。

「この部屋だけは何にも変わらないね」


 僕は、彼女の胸元から零れ落ちる汗が、シーツに染みてゆくのを見ていた。

 風鈴は湿った音で、ずっと鳴り続けている。


「夕立が来るかもしれないね」

 そう言いながら、彼女はシャツのボタンを留めてゆく。


「そうだね」と僕は答えた。

 なんだか今の自分も雨に打たれているような気がした。


「僕が呼んだら東京に来る」


「えっ……」

 笑って、彼女が言った。

「あんたが、こっちに返ってくるんでしょ」


 胸に詰まっていた重たいものが、すとんと落ちた気がした。


 ずっと迷っていた……

 分かれ道でどちらを選ぶかの答えは、彼女が知っていたようだった。


小説家になろうラジオ大賞、3作目の応募作品です。

R18とR15の境目が分からず、とりあえずR15にしました。

もし、よろしけば、読んでいただけけると嬉しいです。

何卒よろしくお願いします!

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