鍋島真奈美の失恋と新しい恋? その4
あの出来事以降、私と梶山は週に何日か間宮館で落ち合っては話をするようになっていた。
なんせ、趣味が合うのだ。
もちろん、模型とかではない。
小説の方のだが……。
彼は実に多くの小説を読んでいた。
ライトノベルもかなり色々読んでいるが、それ以外もすごかった。
名作と呼ばれる純文学なんかも読んでいるが、その中でも推理小説、歴史小説に関しては特に詳しい。
実際、今まであまり読みもしなかったジャンルではあったが、お薦めの推理小説とか歴史小説を貸してもらって読み始める。
実に面白い。
こう何と言ったらいいのか、ぱーっと視野が広がった気がした。
そして、何回もあっているうちに、彼が実に多才だという事に気が付いた。
模型で結構すごいのは知っていたが、小説だけでなく、映画にも詳しいし、他にも絵を描けたりする。
それも、風景画とかだけでなく、イラストとかも描ける。
実際、昔、色々やってたらしく今でもたまに描くという事で、ねだって見せてもらったが実にかっこいい。
確か、お兄ちゃんもイラスト得意だったけど、あれは仕事柄POP描きをしていたためだろうか。
どちらかというとバランスの取れたまとまったイラストだった。
しかし、彼の場合は、ライトノベルの表紙のような印象に残るかっこいい感じだ。
「うん。あなたのイラストなら表紙買いするかも」って言うと、彼はなんかすごく照れていた。
どうやら昔、本当に絵で食っていけたらと思ったことがあったらしい。
で、私も小説書きになりたかったと伝えたら、今度書いたやつ見せてと言われてしまった。
しまった。あれは黒歴史なのに……。
だが、ねだって彼が隠そうとしていたイラスト描きという黒歴史を見せてもらったのだ。
ここは腹を割って見せるべきかなととも思う。
だから、笑わないでねと前置きして、以前書いた短編を見せた。
失恋した少女が、新しい恋に生きていこうと決心する話だ。
かなり以前、好きだった小説に納得いかないシーンがあって、それを意識して書いたものだ。
勿論、名前も設定も違う。
ただ、自分が好きだったキャラが振られて落ち込み、ズルズルと堕ちていく様に納得できずに書いたのだ。
彼にその小説を見せる。
タブレットにデータを入れていたので、タブレットを手渡すと、熱心に彼は読んでいた。
そして何度も、ページを行ったり来たりをしている。
要は確認しているのだろう。
なんかすごく緊張してしまう。
だってさ、今まで誰にも見せたことのない物を始めて見せるのだ。
とんでもなく、落ち着かない。
そして読み終えると、彼はタブレットを返してくれた。
そして、口を開く。
「すごくよかった。この主人公の心の迷いとか不安とかすごく表現されている。これはいろんな人に読んでもらうべきだよ」
彼はまじめな顔でそう言ってきた。
「え?!」
予想外の絶賛の言葉に、わたしは混乱した。
だってさ、貶しはされないだろうなとは思ったけど、ここまで言われるとは思わなかったからだ。
彼はどちらかと言うと不器用で、空気も読まずに駄目だと思ったらそう言ってしまうのは、短い付き合いながらもなんとなくわかっていた。
そんな彼から、そんな言葉をもらったのだ。
すごく興奮して、嬉しかった。
なんか自分を認めてもらったという感覚だ。
確かに、認めてもらうという行為は、仕事とかではあるし、それ以外にもある。
だが、趣味を、それも自分の隠していたものを認めてもらうというのがこんなにうれしいとは思わなかった。
思わず涙が出そうになったが、グッと我慢する。
「あ、ありがとう。で、どんなところがよかったの?」
そう聞き返すと、彼は熱心に語りだした。
それと同時に、気になったところを指摘する。
それは実に的確だった。
私は思わず聞き逃すまいとメモを取る。
その様子に、彼はすごくうれしそうだった。
そして、話が終わると彼は最後にとんでもない事を言った。
「やっぱり、誰も読まれないのは勿体ないよ。どうせなら、インターネットで公開しない?」
「へ?!」
いくら褒めてくれたとはいえ、私の黒歴史である。
それをいろんな人に見せるの?!
さすがにそれは……。
そう思って口を開きかける。
だが、彼の熱心な表情を見て、私は違う事を言っていた。
「なら、その表紙は梶山さんが描いてよ」
彼がお薦めしているネット小説サイトでは、表紙が付けられるのだ。
だから、思わずといった感じで言ってしまっていた。
まぁ、私も黒歴史を公開するんだ。貴方も道連れだよという気持ちもあったが、それ以上に、私の小説に彼はどんな表紙を付けてくれるんだろうかという興味の方が強かった。
その私の言葉に、彼は一瞬躊躇した。
彼とて、絵を描くことは公言していない。
だから迷いがあった。
だが、ぼそりと言う。
「ペンネームでなら……」
恥ずかしそう言う彼の姿はすごくかわいかった。
いい年した男に言う事ではないかもしれないが、そう思ってしまったのだ。
「じゃあ、あたしもペンネームでいいわよね?」
「ああ、勿論だ」
そう言った後、二人は互いの顔を見て笑いあった。
実に楽しかった。
今まで誰かと趣味の件で共に作り上げていくなんてことはしたことなかったから、余計にそう感じたのかもしれない。
ともかく、こうして私と梶山はネット小説サイトに投稿する為に動き出す事になったのであった。