友だちのライン
片岡 彩理奈のスマートフォンにLINEの着信が表示された。
高校の冬休み、パソコンで映画を観ていた彩理奈は気付かなかった。
彩理奈は映画を観終え、更に夕飯と入浴を済ませた後にようやく気付く。
LINEの送り主はクラスメイトの根岸 綾音。男女問わず、クラスの人気者。
送られてきた文章に目を通す。
「昨日の夜アミュにいなかった?私ちかとゆうこといたんだけど」
彩理奈はため息を吐き、頭の中で綾音の文章を分かりやすく変換する。
「昨日の夜、アミュパークにいなかった? 私は千花と優子と一緒にいて、彩理奈を見かけたんだけど」
――こんな感じか。
彩理奈はもう一度ため息を吐いた。
彩理奈は昨夜、アミュパークと名付けられた地元の大型商業施設内の映画館へ行った。楽しみにしていたミステリー映画の公開日だったから。
彩理奈は思う。
呼びかけられなくてよかった。多分、あっちは三人でいたからだろう。
彩理奈の目には、根岸 綾音は「とにかく孤独を嫌がる人間」として映っていた。
だからいつも友だちが周りにいる。
それだけなら彩理奈にとってはどうでもいいことなのだが、彩理奈が辟易していたのは綾音が「みんな自分と同じ」と思っている節があるから。
学校でやたらと話しかけてくる。
教室の移動やトイレ、昼食も「一緒に」と誘ってくる。
まるで、救いの手を差し伸べるかのように。
休み時間、一人で本を読んだりするのが好きな彩理奈にとってなんとも理解出来ない存在だった。
彩理奈はLINEの返信をスマートフォンに打ち込む。連絡先を教えたことを悔やみながら。
「昨日は観たい映画があったので」
送信するとすぐに返信が来た。疑問が浮かぶ。
――ずっとスマートフォンを観ているのだろうか。
「ええ!映画を一人で見に行くなんて信じられない!つまんなくない?なんで誘ってくれなかったの?」
彩理奈は三回目のため息を吐く。
――なんで映画を二人で観る必要があるの? そもそも映画観るのが好きとか嫌いとかも知らないんだけど。
彩理奈が返信の内容を考えていると、更に綾音からLINEが届いた。
「じゃあ君の声が聞こえたを一緒に見に行こうよ」
彩理奈は四回目のため息を吐く。
「君の声が聞こえた」という映画は昨日、予告編が流れていたから知っている。
アイドルの男性主演のラブストーリー。
彩理奈は返信した。
「それは私が好きなジャンルの映画じゃないから」
すぐにまた返信が来る。
「なによ。ひどくない?友だちだと思ってたのに」
もはや彩理奈からは、ため息さえも出なかった。
返信する気力も湧かなかった。
それ以前に返信を考える気力も湧かなかった。
――私一人くらい友だちが減ったって、痛くも痒くもないだろう。あんなにたくさんの友だちがいるんだし。
彩理奈は音楽を聴きたくなり、パソコンから伸びたヘッドフォンを付ける。
私は痛くも痒くもないし。
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