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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

半矢

作者: ねっしー

 ある日、ある田舎町の草原では不思議な光景があった。猟銃を持った猟師が、ぽつんと棒立ちに、今しがた発砲してしまった標的を見ていた。

 それは白かった。手足があって、黒い髪の毛の生えた、胴体のある、言ってしまえば、人のような物であった。猟師が、口から心臓が出そうなほど焦ったのはこのためである。ようするに標的と間違えて人を撃ったと青ざめていたのだが、どういうわけか、その人間の背中からは、真っ白い、鳩のような羽根が生えているようである。不気味に思った猟師が、刃渡り一尺の剣鉈でもってその背中をつつくと、驚くことにそれはまだ生きていた。

 うう、とも、おおともつかないぶつぶつとした口調でそれは身動すると、たちまち、ずるりと背中の羽根が抜けていった。どうやら、弾は羽根に当たったらしい。

 あまりにもその姿があわれに思った猟師は、「うちにこい。薬があるから」と獲物に声をかけて獣道をくだっていく。その傷ついた獲物は、まるで、ナメクジのように体を丸めて、ズリズリと畦道を降りてくるばかりだ。

 やがて一週間もすると、その獲物は飯を食うようになった。体は段々と回復していき、ついには口が聞けるようになった。

「銃で撃って悪かったな」

 はて、とその客人は頭を傾けた。クチナシの花のような、なんとも甘ったるい香りがしそうな顔立ちで、そのようなことをするものだから猟師は顔を背けた。猟師は長い間独り身だった。珍しいことではない、その身の上は、相手の心を感じることができない、言わばカタワの状態に生まれついものだから、命というものに疎かった。ひどく、人と話すのは久しぶりで、そもそも相手はそれではないのだが、久しぶりの会話とあって面白くもあった。

「ごはん」

「君は全くそればかりだな」

 ふと、子供じみたいた、イタズラ心で、猟師は薫製のキジバトをとって渡した。

 客人は骨までバリバリと音を立てて飯を食う。

 なぜ、これが人のように箸を持って飯を食べないかと言われればそれは分からない。おそく、その見た目もあって親に捨てられたか、放置されたかしたのだろう。特に内臓に対する執着は異常なものがあって、一度口で噛んだものを口から出して広げてみたり、内臓を選り分けて隠すような仕草が見られた。特に興味引いたのは、肝臓や心臓であり、モズの早ニエのような不気味さであった。

 やがて、抜け落ちた羽根も生え揃い、客は外に出たがるようになった。力も強く、玄関扉をこじ開けようとするので外に出すと、それはそれで怖いらしく、すぐに部屋に戻って来る様子があった。ああ、今思えば、この頃から感情の入りというのがあったのだろう。でなければあのような間違いに至るはずはなかった。


 ある夜更けのこと、強い風が吹いていた。猟師が、雨戸を閉めようと窓を開けたところ、客人は一瞬の隙をついて外へと踊り出した。突風は瞬く間に羽根をとらえて天高く巻き上げてしまった。

 猟師は悔しく思った。あのさよならも言わずに出ていった、白い毛皮を手に入れたいと思ったのだ。

 猟師は獲物の首をかききって地面を赤く染めるような行為を行うようになったので、回りの人間からは気が触れたのだろう、と言う噂があがっていた。とくに内臓を木に吊るしたりするので、親切な村長が町から医者を呼びつけるほどだった。その実は、自分達がその獲物にならないようにしたかったからに違いない。

 それらは一羽の獲物をとらえるために過ぎなかった。

 運命とは非常なもので、その瞬間は訪れる。肉の塊の植えに降り立った大きな白い翼は、方翼が中ほどでちぎれて不格好だった。しめた。猟師は銃を桜の木に担えて、その瞬間を待った。獲物が一番油断する瞬間。それは肉を食べているその時であった。


 乾いた銃声が響いた。よろよろと立ち上がった獣は、猟師の家の方に向かって数歩歩いてどさりと崩れ落ちた。

 その懐には、いくつもの肉やら魚やらの干物をぶら下げて、もしかしたら、と思うものがあった。


 猟師に獲物を届けようとしたのか、この獣が猟師のように活き餌でつろうとしたかは定かではない。猟師はその獲物を剥製にするでも、売るでもなく、自分の家の床下に埋めたのには思うところがあったのだろう。猟師はその日を境にぱったりと猟をやめたという。


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