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X短編  作者: 大塚斎
55/62

ep.55 脈なし

彼女は何も答えない。

どんな言葉をかけても、視線を向けても、彼女は俺を無視する。

以前は肌で感じていた彼女の陽だまりのような温度はなくなり、ドライアイスのような冷たさだけが底にあった。


俺が知ってる彼女はもういない。


「脈、ないのか…」


そう呟くと、隣にいた男が無言で頷いた。


これまでの彼女との思い出が走馬灯のようによみがえる。

春に出会い、夏は花火を見て、秋は彼女の好きな本について語り合った。次の春に桜を見に行こうと約束したじゃないか。


病室の外がやけに騒がしい。俺は彼女の隣から動けなかった。

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