ep.14 とある独白
私は昔からついてなかった。
幼稚園児だった時、あいちゃんとぬいぐるみの取り合いになって、テディベアの手が千切れてしまったことがあった。あいちゃんは泣き出してしまって、それがさらに癪に障ってテディベアをあいちゃんに向かって投げたら、私だけが物を大切にしなさいと先生に怒られた。
怒られないようにこっそりあいちゃんに石を投げることにした。石は大切な物じゃないから。あいちゃんは私におもちゃの順番を譲ってくれるようになった。
小学校に入学してから、仲良くなったちよちゃんとはブランコでよく遊んでいた。いつもわたしがちよちゃんの背中を押してあげていた。
転校が決まってちよちゃんと最後に会う日、最後くらいブランコを譲ってほしくて鎖部分を掴んで無理やりブランコを停止させた。ちよちゃんは勢いよくブランコから落ちてブランコの前にある鉄の柵に頭をぶつけて動かなくなった。
あれからちよちゃんとは会ってない。
転校先ではガキ大将の馬場くんに何故か目をつけられて、ばい菌扱いされていた。わたしが給食当番の時も菌がつくと言って受け取ってくれなかった。
汚い物は食べたくない。馬場くんが言うことももっともだ。彼のカレーのルーに消毒液をこそっと入れて配膳した。汚い物と勘違いされたらいけない。先生に宥められつつ馬場くんは給食を食べていた。
給食の後、馬場くんは倒れて病院に運ばれてしまった。それから馬場くんが登校することはなかった。
中学生になった頃にはなんとなく人間関係には序列があることを悟った。上位層が下位層に命令する。下位層は上位層の顔色をうかがう。それが当り前だった。クラスの最底辺は土井さんだったが、土井さんは序列を理解してなかった。序列を気にせず生きている彼女に苛ついた。わたしは土井さんに序列をわかってもらうため、説明した。時には暴力も使った。
ある日、土井さんが自殺してしまった。遺書にはわたしの名前が原因として書かれていたらしい。
進学した高校でのクラスの最底辺はわたしだった。高校生になると、上位層からの命令は激しくなってくる。親からお金を盗むのもバイト代を盗まれるのもお店の物を万引きするのも嫌だったけど、序列には従った。
その日も駅のホームで江口さんに命令されていた。わたしは江口さんを突き飛ばした。江口さんの悲鳴と電車のブレーキ音、周囲の人が何か言っているが聞こえた気がしたけど、わたしは逃げた。限界だった。
大学は地元から離れたところを選んだ。大学生の1人暮らしは大変だ。仕送りと奨学金だけでは足りないから、夜遅くまでとにかく働いた。
女の子の1人歩きはよくないと言われるけど、まさか自分の身に起きるとは思わない。バイト帰りの夜道、後ろから変質者に襲われた。無我夢中で抵抗してたらその変質者は動かなくなった。警察に通報した後のことは覚えていない。正当防衛が認められたことだけはわかった。
今年わたしは社会人になった。売り手市場とはいうけど、要領の悪いわたしはいわゆるブラック企業に入社してしまったようだ。上司の藤本さんはパワハラ、セクハラのオンパレードで1人日本シリーズと呼ばれていた。笑えない。退職も頭によぎったけど、もう一度就活をするのは嫌だ。さてどうしたものか。
幼稚園児の頃のように物理的な石を投げるのは論外だし、小学生の頃のようにブランコや給食みたいな機会はない。土井さんみたいに遺書を残されたら困るし、最寄り駅にはホームドアがあるから江口さんみたいに事故死に見せかけることもできない。やはり、変質者のように正当防衛を狙うのがよさそうだ。
これまでの人生、ついてなかった。でもその度に自分でなんとかしてきた。今回もなんとかしてみせるわ。




