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X短編  作者: 大塚斎
12/64

ep.12 1/366

子供の頃にあれだけ楽しみだった自分の誕生日も、大人になればなんてことないただの1日になる。他の365日と変わらない。


今日は社会人になってから何回目かの俺の誕生日だ。学生の頃は日付が変わると同時に、その時つるんでた奴らからメッセージが届いたりしたもんだが、この歳になるとそんなこともなくなる。

平日なら仕事をするだけだが、あいにく今日は休日。少し感じた虚しさを無視して、今日も近所の雀荘で時間をつぶす。


古いビルの3階の扉を開けて入った途端、煙い空気が鼻につく。

「っしゃいませー。ってなんだまっちゃんかよ。」

「なんだってなんだよ。帰るぞ。」

「うそうそ、待ってた。ちょうど新しい半荘が始まるとこ。北家スタートな。」

いつものように、店長と適当な会話をして席につく。上家は最近アルバイトとして入ったメンバーの高橋くん、対面はプロ雀士の長谷川さん、下家はこの前定年退職した渡辺さん。これまたいつものメンツ。


「長谷川さん、今日リーグ戦じゃないの?」

「去年降格したから、今日じゃねえんだわ。」

「降格した麻雀プロに負けるわけにはいかねえな。」

「プロでもない奴らに俺が負けるわけないだろ。」

「あ、ロン。64,000、10枚。」

「はああぁぁぁあ?地獄単騎じゃないですか!」

「渡辺さん、意地が悪い待ちしてますねえ。」

「策略家と言ってよ。」

「もう!長谷川さんが話しかけるから、渡辺さんの四暗刻単騎に振り込んじゃったじゃないですか!」

「知らねえよ。そんな甘い牌を捨てるお前が悪い。」

「2枚切れの西で甘いって言われるんか……。」

「とりあえず、高橋くんが飛んじゃったから精算だね。」


いつものように、適度な軽口と打牌批判を言ったり言われたりしながら、マナーも気にせず打つ。生産性はないが、心地良い時間。

学生時代の友人たちの中には、結婚して子供を育ててる奴らも何人かいる。そいつらと比べて、俺は何やってるんだろうという思いを、この心地良い時間で麻痺らせているのかもしれない。


「ああ。もうこんな時間だね。高橋くん、その半荘終わったら帰っていいよ。」

「はーい。」

「鴨が帰るのか。じゃあ俺もラス半にしようかな。」

「私も。」

「俺も。」

「ちょっとー、誰が鴨なんすか。」

1半荘、早く打っても30分。満足いくまで打ってたらあっという間に日は暮れる。


結局ラス半は3着目で終わり、今日の収支はややマイナスといったところ。誕生日なのに世知辛い。

長谷川さんと渡辺さんは帰り支度をしている。俺も洗牌に手こずっている高橋くんをからかいながら帰る準備を始めた。

「ああ、そうだ。まっちゃんちょっと待って。」

そう言って、店長は店の奥のスタッフルームへと入っていった。


「これみんなから。今日誕生日なんだろ?」

渡されたのは俺が吸ってる煙草1カートン。

「常連さんだからね。特別だよ。」

店長が似合わないウィンクをする。

「誕生日おめでとう。」

「まっさん、おめでとうございます。」

「おめでとう。」

高橋くん、長谷川さん、渡辺さんも残ってお祝いの言葉を言ってくれた。

「店長、その歳でウィンクはキモいっすよ。」

嬉しさと照れを誤魔化すように言う。

「違いねえ。」

「ひでえ。」


雀荘を後にして腹を満たしにいつものラーメン屋に行く。今日は渡辺さんの奢りだ。

「この歳で誕生日を祝ってもらえるとは思ってなかったっす。」

「いくつになっても、祝われると嬉しいもんだろ?」

「まあ、たしかに。」

「誕生日なんて滅多にないんだから。」

「1年に1回しかないですからね。役満あがるよりレアっすよ。」

「そういえば四暗刻単騎の出現確率って0.05%らしいっすよ。俺の今日の放銃の方が珍しい。」

「俺らは毎週打ってるから、2,3ヶ月に1回は誰かしらあがってるだろ。」

「それはそう。」


いつもとは少し違うこんな誕生日も悪くないなと思った。

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