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【二部開始】魔王と勇者のカスガイくん~腐男子が転生して推しカプの子どもになりました~  作者: 森原ヘキイ
第二部 第四章 カスガイくんは、旅行の準備を一緒にしたい

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4-4 イエッサー、ノーコメント把握であります!

 ユラの言葉で辺りを見回せば、ぐるりと遠巻きに囲んでいた人たちの視線が自分たちに集中していることに気づいた。ファミリーで仲良くジェラートを堪能していたときと同じ、すでに見慣れてしまった光景ではあるが、ひとつだけ大きく違うことがある。それは――。


「あれ、マチネとソワレじゃない?」

「え、モデルの?」

「リンガーじゃなかったっけ?」

「うっわ、足ながっ! 髪もながっ!」


 なんと、マオとユラのときにはただ立ち尽くしていた人々が、マチネとソワレを前にすると遠慮なく盛り上がり、好き放題に感想を言い合っているではないか。これこそまさしく『芸能人を見かけたときの一般的な反応』というやつである。

 え、二人ってモデルなの? リンガーって何? アンバーサスじゃなくて? 詳しいことは分からないが、少なくともマオとユラよりも双子の知名度が高いことだけは間違いない。


「やっほー! こんにちはー! マチネくんですよー!」

「もっちろん、ソワレくんもいますよー!」


 双子はそれぞれ自己紹介しながら、その場でくるっとターンし、全方向に向けて手を振った。それに応えるように、「きゃー!」や「わー!」といった歓声が次々と上がる。

 えっ、いいな! そういうの、マオとユラにもやってほしい! でもいちいち大騒ぎになっていたら大変だから、やっぱりいらないかも! 湧き上がる嫉妬心や対抗心を無理やりポジティブな思考へと切り替えながら、イリスは周囲の反応をじっと観察する。

 そもそも双子がマオとユラ以上に注目を集めているかといえば、そんなこともないようだった。おそらく最強のアンバーサスが放つ近寄りがたいオーラを、双子のアンバーサスの陽気さや快活さが中和したことで、四人を取り巻く空気が一気に親しみやすくなったのだろう。


 その証拠に、「ねえ、あの黒髪の御方、すごい……すごいしか言えない……」「金髪の彼、顔ちっちゃ!」といった、今まで聞きたくても聞けなかったマオユラについての感想がぽつぽつと聞こえてくる。

 なるほど、異彩を放つ者同士が組み合わさると、こうした不思議な化学反応が生まれるらしい。この有用すぎる発見には、思わずイリスもにっこりである。


「ほらほら、もうめんどくさいから二手にわかれよう。じゃあ、またね」


 痺れを切らしたユラの言葉で、はっと我に返る。どうやら、ここで双子とはお別れのようだ。仕事仲間から見たユラやマオについて知りたいことはたくさんあったが、きっとまたどこかで会えるだろう。次の機会に期待することにして、イリスも双子へお別れを告げるべく顔を上げた。


「そうだね、二手に分かれよう! ユラくんとイリスくんは、ぼくと一緒ねー!」

「えっ?」


 マチネの言葉をきっかけとして、まるで事前に示し合わせていたかのような素早い動きで双子が離れる。そのままマチネがユラの、ソワレがマオの隣にちょこんと収まった。


(あれ? 二手ってそういう? 勇者組と魔王組ってこと?)


 混乱したイリスの視界に、ソワレがマオへこっそり耳打ちしている光景が飛び込んでくる。続いて、それに頷くマオの姿も。


「じゃあ、ボクとマオくんは別行動ってことで!」

「えっ!?」


(別行動ってなに!? これから一緒に買い物をするところだったのに!?)


 訳が分からないまま、思わず「パパ……!」と、マオに駆け寄ってしまったイリスの前に、「パパ?」と、ソワレが膝を抱えながらスライディングしてきた。その勢いに思わずびくっと震えながらも、イリスは「パパ――にそれとなく似ているマオさん……!」と、必死にごまかしにかかる。



「え、イリスくんのパパってマオくんにそれとなく似てるの? とてつもないね!」

「そ、そうなんです! とてつもないんですっ!」


 あわあわしながらマオを見上げれば、彼は少し困ったように眉を下げた。そのままユラへ向けた視線を、再びイリスへと戻して一言。「またあとで」

 そう言われてしまっては、もうどうしようもない。「わかりました……」と、小さな声で返すイリスのツインテールが、顔の両側で力なく垂れ下がった。





 メトロ・ガレリアは複数階にわたる吹き抜け構造が特徴のショッピングモールなので、手すりに面したカフェのテラスエリアからは、その開放感をたっぷりと楽しむことができる。ソワレのお気に入りの場所のひとつだ。


「ごめんね、マオくん。楽しい楽しいお買い物の邪魔しちゃって」

「構わない。第三総括の依頼なら、おれにも関係がある」

「ありがと、そう言ってもらえると助かるよ。マオくんが一緒にいてくれれば確実だからさ。――あ、そうだ。その第三総括から伝言をあずかってきたんだった」


 ホットコーヒーを飲んでいたマオの視線の先が、下階のにぎやかな光景から正面のソワレへと切り替わる。


「イルメリウム国内の魔物の動きに特段の変化はみられず。安心されたし、だってさ」

「そうか、ありがとう」

「どういたしまして。ついでにちょっと聞いてもいい? それってマオくんが気にしないといけないことなの?」

「責任はある、と思っている」

「ふーん」


 また色々と重そうなものを抱えているなぁ、このひとってば。そんなことを思いながら、モコモコのシェイクをストローでジュルジュルと吸い込む。それをちらりと見て、マオが「イリスが好きそうだ」と、独り言のように呟いた。


「わっ、やったね! ボクってば、イリスくんと気が合うかも!」ソワレはカップを自分の目線の高さに掲げると、ばちんと音が鳴るようなウィンクを決めた。すかさず、営業モード発動!


「この『ユニコーンの虹色フワフワ・スパークルミルキーシェイク・ウィズ・マジカルスターダストトッピング』は、バニラアイスクリームをベースにしたミルキーシェイクで、レインボーシロップを数層に分けて注いだ、世にも鮮やかなドリンクなんだよ! 層ごとに異なるフレーバーが楽しめるし、カラフルなホイップクリームは山盛りだし、小さなユニコーンのクッキーがめちゃくちゃかわいいしでホントにサイコーなの! ドリンクに溶けるとシュワシュワはじけるポッピングキャンディが入っているから、飲んだ瞬間のサプライズ感もものすごいんだ! ちなみにボクのオススメトッピングは、フルーツピューレだよ! あっ、期間限定販売だから飲むならお早めによっろしくぅっ!」


 メニューのポップを頭から読み上げたかのようなソワレの口上を、マオは最後まで黙って聞いたあとで、「わかった、ありがとう」と、素直に頷いた。ぱちぱちと不思議そうに目を瞬いているところを見ると、どれだけ正確に理解できたかは疑わしい。まあ、楽しい雰囲気さえ伝わってくれればそれでいいのだ。


「それにしてもマオくんって、『ユラくんのおばあちゃんのカフェの人間の常連客の親戚の近所の子どもちゃん』の好みまでばっちり把握してるんだね。つまりはそれくらい仲良しさんってことだよね」


 好奇心に背中を押されるがまま、ほんの少しだけイリスの素性について探りを入れてみるが、マオの無表情は崩れない。


「……成り行きで、縁を持つことになった。それを大事にさせてもらっている」

「にゃるほど? ということは、そのご縁のおかげかな? マオくんってば、ちょっと見ないうちに雰囲気が変わったね」

「そうか?」

「うんうん。不思議だよね、あの子。イリスくん。人間じゃないのに家族がいるの?」


 イリスは人間ではない。ソワレと、おそらくマチネもそう確信しているし、マオとユラだって双子に気づかれることは想定内だろう。案の定、マオの動きが止まったのは一瞬だけだ。すぐさま「続きをどうぞ」とでもいうように、視線だけでソワレを促してくる。


「人間じゃないけど、魔物でもないよね? かといって精霊でも、もちろん幻獣でもないし……ってことは、まあ、だいたい想像がつくけど。でも、もし『そう』だとしたら、それはもうマオくんお得意の領域だから、ボクが口を出せる話じゃなくなっちゃうんだよねぇ」


 おそらく、遺跡関係。つまり、秘宝。その辺りの話になってくると、大っぴらにできない話題はいくらでもあった。それはソワレも理解している。けれど、やっぱり隠し事をされるのはちょっとだけ寂しかったりするのだ。暗にそんな恨み言を込めた台詞を口にすれば、マオがカップの中身を冷ますように細くて長い息を吐いた。


「……今はまだ、はっきりと話せることがない」

「イエッサー、ノーコメント把握であります! マオくんってば、慎重だもんね。慎重になるのは、いつだってほかの誰かを守るためだもんね」

「なぜ、そう思う」

「そりゃ、ボクだもん。相手を写し取るのは大得意なんだよー!」


 などと自信たっぷりに言ってはみたが、相手がマオともなると流石に勝手が違ってくる。その表情も、その心も、とてつもなく深い霧に覆われているかのように読みにくいのだ。


「ああ、でも。それだと、ここにきて活動をオープンにするって、どういう心境の変化なの? だって今まで拒否してきたのって、ユラくんを守るためなんでしょ?」

「……」

「あれれ、違った?」

「…………」


 たっぷりと時間を使ったマオの沈黙。やがて、コーヒーを飲み干したせいか、珍しく苦い顔をしたまま宣言した。


「黙秘権を行使する」

「イエッサー、ノーコメント把握であります! ふふ、ここまで好き放題に言っておいてなんだけどさ。ボクたちはうれしいんだよね、マオくんとユラくんが行動範囲を広げてくれて。だってこれから一緒に色んなお仕事ができるってことだもん、そんなのワクワクしかないよ!」

「そうか、なるほど。そのワクワクが高じて、今回のイベント参加枠の譲渡に至ったのか」

「えっへっへー! 二人で仲良く楽しんできてね! ついでにほら、マオくんの里帰りも兼ねてさ! あ、そうだよ。そしたらお土産とか持っていったほうがいいんじゃないの? ほらほら、誰か地元で待っている人とかいないのー?」


 マオの浮いた話など、今まで一度も聞いたことがないうえに、ぶっちゃけ想像もつかない。なのでソワレは、百パーセント受け流されること前提で話を振った。「いないな」と、そういう無難な答えを待ちながらストローを加える。けれど。


「――そうだな。よければ助言をもらえるだろうか」


 大真面目な顔でマオが乗ってくるものだから、ソワレは『ユニコーンの虹色フワフワ・スパークルミルキーシェイク・ウィズ・マジカルスターダストトッピング』の中に、大量の空気をぶふぉっと送り込むことになった。


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