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【二部開始】魔王と勇者のカスガイくん~腐男子が転生して推しカプの子どもになりました~  作者: 森原ヘキイ
第一部 第一章 カスガイくんは、魔王と勇者の子どもになりたい
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1-5 初歩的な罠に引っかかって落とし穴に落ちてます!

 ピラミッドの内部を思わせる広い空間だ。いや、鍾乳洞かもしれない。天井や床などの大枠の部分は人工的な直線で作られているが、柱は原石の自然な形をそのまま利用している。その全てが水晶のような素材でできていて、内側から淡く発光していた。

(これがゲームだったら、中盤から終盤にかけての大きなイベントが発生しそうなダンジョンだなあ)

 確かジュリオは『遺跡』と呼んでいた。なるほど確かに、荘厳で静謐な雰囲気が漂っている。


「正面だ」


 五十メートルほど離れたところにある巨大な壁。大佐の一言で、その一角に三人分の視線が集中する。

 まさにそのタイミングで、壁の表面に光の幾何学模様が出現した。ちょうど大きな扉一枚分の範囲内に敷き詰められるように浮かび上がると、その部分だけが突如として消え去る。後に残ったのは、ぽっかりと四角い口を開けた真っ黒な空間だけだ。

 その奥から、何かの気配を感じる。何かが、ひたひたと近づいてくる。

(え、ひょっとしてゾンビでも出てくる? いや、ミイラか? 何だかピラミッドっぽいし場所柄的にはミイラのほうか? いや、無理無理無理ですって! 夢でもホラーは無理ですって!)

 思わずぶるりと震えた亮太は、ロミットの腕の中で体を縮こめる。

 そうして、やってきたのは――。


「ぴょい?」


 おおきなまあるいグミでした。

 そうとしか形容のできない謎の生物が、大きくつぶらな瞳をこちらに向けて全身をぷるぷると震わせている。手も足もない透明度の高い体を小さくバウンドさせながら前進する姿は、いっそ健気で愛らしい。

(何だ。どんな危険が現れるのかと思ったら、ただのぷよぷ――いや、あえてスライムと呼ぼう。ただのスライムじゃないか。ゲームにおける最弱のモンスターだ。レベル一でも倒せるやつだ。あーあ、怖がって損したなー)

 などと完全に相手を舐め切っていた亮太が、ふふんと鼻で笑ったのも束の間。


「……あれ?」


 ぼっちだと思っていたスライムの背後。そこから、一匹、また一匹と同じようなスライムが次々と湧き出てきた。みるみるうちに数十匹にまで膨れ上がると、大群となってこちらに押し寄せてくる。

 これは予想外。あっという間に形勢逆転。そのまま突進でもされたら、おそらく怪我ではすまないだろう。亮太の頭の中で、赤信号がビカビカに輝き出す。


「ちょっとやばいカンジです!」

「うん、そうだね。よし、撤退」


 亮太の悲鳴に即答したジュリオが、くるりと踵を返した。ロミットも無言でそれに続き、二人同時にダッシュ。判断もだが、速度も速い。ものすごい勢いで流れていく景色の目まぐるしさと、幼児の小さな体にぶつかる激しい風圧に耐えられず、亮太は恐れ多くもロミットの胸に顔を埋める形になった。ああ、できることなら今すぐジュリオと変わりたい! 大佐にお姫さま抱っこされるジュリオが見たすぎる!


「反射的に逃げちゃったけど、どうする? 後顧の憂いを断っておく?」

「いや、このまま出口まで行く。くれぐれもモダノメ柄のタイルは踏んでくれるな」

「わかってるって、落とし穴に気をつけろって言うんでしょ? さすがにそんな初歩的な罠に引っかかったりしな――あっ」

「え?」


 ジュリオの迅速なフラグ回収と一緒に仲良く訪れた浮遊感。思わず顔を上げれば、先ほどまで横スクロールだった視界が急に縦スクロールに変わっていく。ということは、つまり。


「初歩的な罠に引っかかって落とし穴に落ちてます!」

「あはは、大正解。危ないから魔王さまにしっかり捕まっててね」

「勇者」

「ごめんってば、魔王さま。でも言い訳聞いて? モダノメ柄とコッポルット柄って、ぱっと見めちゃくちゃ似てない? うっかり間違っちゃうのもしょうがなくない?」


 とても落下中とは思えないほど、のんびりとした口調。笑顔すら覗かせながら重力に従うジュリオを見て、亮太は言い知れぬ不安と恐怖に襲われる。夢だけど、夢とはいえ、推しがぺちゃんこになる姿など絶対に見たくない。


「危ないです……!」

「大丈夫だ」


 思わずジュリオに伸ばしかけた腕ごと、ロミットが強く抱き込んできた。その声と熱に優しく包まれた亮太は、すぐに不思議な安心感を得る。この腕の中に入れば絶対に何の心配もないのだと、無条件に信じられる。


「ん? えっ、あれ?」


 そして実際、何でもなかった。わずかな衝撃すら感じることのないまま、いつの間にか穴の底へと辿り着いていた。目をぱちぱちさせながら混乱する亮太のもとに「びっくりさせてごめんね」と笑いながらジュリオがやってくる。不思議なことに、こっちもこっちで全くの無傷らしい。ああ、推しを愛するオタクに優しい夢で本当によかった。


「さて、どうしよう。これくらいなら登れなくもないけど、できれば別のルートで脱出したいな」


 ジュリオが大きく背伸びをしながら頭上を見上げたので、亮太もつられて顎先を上げる。思わず「わっ」という声がもれてしまった。

 ホラー映画の主人公が、古井戸の底から空を仰いだときのアングルによく似ている。ただ、こちらは水晶でできているうえに、かなり高さがあった。ゆうに二十メートルは落ちてきたのではないだろうか。


「あっ」

「!」


 またもや短い声を上げるジュリオ。ついさっきも似たような経験をした亮太は、大佐の腕の中で反射的に身構える。そして非常に残念なことに、その嫌な予感は当たってしまった。

 落とし穴の入り口から聞こえてくる、きゅいきゅいぴょいぴょいという鳴き声。やがて無数の丸い物体たちが円の縁をなぞるように取り囲むと、一斉にこちらを覗き込んできた。

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