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【二部開始】魔王と勇者のカスガイくん~腐男子が転生して推しカプの子どもになりました~  作者: 森原ヘキイ
第二部 第四章 カスガイくんは、旅行の準備を一緒にしたい

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4-1 ほっぺた落っこちちゃいます!

「はい、ママ。あーん」


 カシスの実が散りばめられた、紫色に輝くジェラート。それをスプーンの上に乗せて、隣に座るユラの口元にまで運ぶ。


「あーん」と、素直に小さな口を開けてスプーンをくわえる推しが、なんともセクシー。「おいしい」と、うれしそうに笑う顔が、とんでもキューティー。


「はい、じゃあイリスも。あーん」

「あーん」


 自分もやっておいてなんだが、あーんされるのってなんでこんなに恥ずかしいんだろう。雛鳥のようにドキドキしながら待っていると、すぐに冷たいジェラートが口内に飛び込んできた。ヘーゼルナッツ特有の香りをともなった甘さが、あっという間に舌の上で溶けていく。


「とってもおいしいです! ほっぺた落っこちちゃいます!」


「わっ、それは大変だ」と、ユラが笑いながら手を伸ばし、イリスの片頬を優しく支えてくれる。そのままくすぐるようにふにふにされて、思わずきゃっきゃと声を上げてしまった。


「はい、パパもあーん――」と、自然な流れでユラとは逆の席に座るマオの口元へスプーンを運ぼうとしたイリスだったが、ここで超高性能腐男子アンテナがラブラブイベントの予感をキャッチした。きゅぴーん!!

 寸前で止めた手を引き戻して、そのスプーンを自分の口に放り込む。うん、おいしい。カシスのすっぱくてさっぱりした甘さが絶妙だ。


「やっぱりパパはママからもらってください!」

「ええ?」


(せっかくのあーんイベントを推しカプでやってもらわなきゃ嘘だろ!)ということで、予定変更。あーんの役目を、強引にユラに押しつける。不服そうなユラの声は聞かなかったことにして「早く早く」と期待を込めた目で見つめると、我が子に激甘なユラは「しかたないなぁ」と、潔く白旗をあげてくれた。


「じゃあ、はい。魔王様、あーんして」


 ユラは手元のカップから、イリスのときよりも多めにジェラートをすくいあげると、丸い小さなテーブルを挟んで真正面にいるマオへと伸ばす。


「……」


 それをいつもの無表情で見つめるマオだったが、たっぷり五秒ほど経過してからおとなしく口を開けた。

 キター! 『はじめてのあーん』実績解除です、おめでとう! あれ、待って? 同じスプーンを使ったってことは、『はじめての間接ちゅー』の実績まで解除してない? こんなにテンポよく関係を深めて大丈夫? 僕、ロキ君に刺されない?


「おいしい」「だよね、俺もこれが一番好きかも。もう一口いる?」「ああ」と、こちらがお願いするまでもなく第二ラウンドをはじめるマオとユラ。ひとりで万雷のエア拍手をしながら、目の前の光景を心のカメラで激写し続けるイリス。


 そんな三人に集中する、不特定多数の視線。圧倒的幸せオーラを放出している――主に幼児が――イリスファミリーを、周囲の目がじろじろと眺めている。めちゃくちゃ見られている。

 でも、それはしかたない。だって、ここは公共の場。市民の大事な憩いの場。

 いわゆるフードコートってやつなのだから。




 イルメリウムの第三都市ムーンへーベン。ユラの祖母ブレンゼルのカフェや、ユラとマオの現在の勤務先であるイルメリウム旧時代遺構博物館サードノンブル、通称サードがある都市だ。カフェとサードがある一帯は歴史ある建物が並んでいるが、駅周辺には近代的な建造物が多くみられる。大きなショッピングモールもあり、イリスたちが今いるフードコートもその中のひとつに併設されたものだ。

 メトロ・ガレリア。駅からガラス張りの通路で直結したこのショッピングモールは、魔物や人間、地元民と観光客が入り混じり、心地よい活気が漂っている。鏡のように磨かれた大理石の床や、ウッドテイストの柱と壁で統一された空間は高級感にあふれているが、天井から吊り下げられた植物やカラフルでユニークなオーナメントが添えられ、非常に親しみやすい雰囲気を醸し出していた。

 では、なぜそんなところにいるかというと――。


「今度のおでかけは、ニ泊でしたっけ」

「うん、二泊三日の予定だよ。列車ですぐに行けちゃう距離だから、そんなに大掛かりな準備は必要ないけど、せっかくだから色々と買い物しちゃおう。イリスの服やおもちゃも、たっくさん買おうね」

「わーい!」


 と、いうわけである。つまりイリスたちは旅行の準備のために、ここに来ているのだ。モールに入ってすぐのジェラートショップで早々に休憩タイムをとってしまったが、まだまだ一日は長い。時間はたっぷりある。さあ、楽しい楽しいお買い物のはじまりだ!

 マオとユラに挟まれながら、三人で手をつないでフードコートを後にする。そして気づいた。


(やっぱり見られている)


 ジェラートを食べているときは、マオとユラがいちゃいちゃしているから衆目を集めているのだと思っていた。けれど、それだけが理由ではないらしい。二人から一向に剥がれない視線が、人を変えながらリレーのバトンのようにどこまでもどこまでも追ってくる。


(ま、そりゃそうだ!)


 ま、そりゃそうである。だってこの二人ぞ? 最強にして最美の魔王と勇者ぞ?


「パパ、ママ。なんだかすっごく見られてます」

「ん? ああ、まあ、俺と魔王さまにとってはいつものことではあるんだけど……そっか、イリスは気になっちゃうよね」


 ごめんね、と謝罪するユラに向けて、大きく首を横に振る。「大丈夫です、気になりません。ママのせいじゃないので謝らないでください」


 これが芸能人なら遠巻きに黄色い声を上げられたり、無断で写真を撮られたりして当人にも周囲にも迷惑がかかりそうなところだが、この二人にかぎってその心配はない。なぜなら彼らを視界に入れた人たちは、皆一様に石のように固まるからだ。センリいわく「マオとユラの情報量が大きすぎることが原因」で起こる特異な現象らしい。

 そして、しばらくして硬直が解けるころには、二人はもう遠くに去っている。おかげで進路を妨害されることも、ショッピングの邪魔をされることもなさそうだと、イリスはほっと胸を撫で下ろした。


「でも今回は、いつもより余計に人目を引いてる気がする。イリスが一緒にいるからかな」

「ほえ?」


 まさかその文脈で自分の名前が出るとは思わなかったので、イリスはぽかんと口を開けながらユラを見上げた。


「さっきのジェラートショップのおねえさんも、イリスに夢中だったじゃない。イリスがあんまりかわいいから、みんな目が離せないんだよ」


 つい先ほどのフードコートでの出来事を思い返しながら、イリスは首を傾げた。確かにユラの言う通り、ジェラートショップの女性スタッフは終始イリスのほうを見つめていたが、それは注文していたユラを直視することができず、仕方なくイリスに視線が集中したからではないかと思う。しかし真実がどうであれ、ユラに「かわいい」と言われたことが素直にうれしくて、へにょんと表情筋がとろけてしまった。


「えへへへ、ありがとうございます! ママが髪の毛を結んでくれたおかげです!」


 そう言って、ぴょこんと飛び跳ねる。きょうのイリスの銀髪は、頭の上でツインテールに結ばれている。まさかユラが子どもの髪まで結えるとは思わなかったので驚いた。ブレンゼルの花嫁修業は、ずいぶんと幅広かったらしい。


「あ、待って! あの服、イリスに絶対似合う! ちょっと来て!」


 そう言うなやいなや、ユラはイリスの手を優しく引っ張りながら、とあるアパレルショップに突撃する。当然、イリスと手をつないでいたマオも一緒に引っ張られる形になり、二人は顔を見合わせて「しかたないか」と、目で語り合った。


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