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【二部開始】魔王と勇者のカスガイくん~腐男子が転生して推しカプの子どもになりました~  作者: 森原ヘキイ
第三章 カスガイくんは、パパとママのお仕事を見学したい

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3-2 ちゅっちゅしちゃう! んちゅばっ!

「――と、思っていた時期がボクにもありました」

「? どうしました、イリスさん?」

「ちょっと理想と現実のギャップに打ちのめされていました」

「なるほど。オレも身に覚えがありすぎますが、なかなかしんどいですよね。ちなみに詳しく聴いても?」


 ひょいっと顔を覗き込んでくるセンリ。彼はイリスの幼い外見を前にしても、対等に話をしようとしてくれる。あくまでもイリスは秘宝であって、普通の子どもの範疇には当てはまらないということを知っているからだろうか。


「ボクのパパとママには、もっとたくさんたっくさんファンがいると思ってました」


 だってボクのパパとママですよ! と、両手を突き上げながら根拠の足りない主張をするイリスを見ても、センリは嫌な顔ひとつせず、眉ひとつしかめない。それどころか「答えがいのあるとてもいい疑問ですね」と、興味深げに頷いてくれた。


「癪ですが、オレもそう思います。あの二人は表にさえ出れば一瞬で一定のファンは獲得できると思うんです。なにせあのとてつもないビジュアルですから」

「あのビジュアルとてつもないですよね!! ……ん? 表にさえ出ればということは、今までは露出を控えていたということですか?」


 おかしい。二人は魔王と勇者であり、魔王と勇者はアンバーサスであり、アンバーサスはアンバサダー・バーサスの略であり、アンバサダーとは積極的に公に出て企画や商品を宣伝する人たちのことである。つまり前面に出なければ仕事にならない人たちのはずだ。


(それなのに、まるで裏方に徹していたかのような言い方なんだけれども?)


「鋭い指摘ですね、イリスさん。実はそうなんです。今までは遺跡探索とか幻獣退治ばっかりだったんですよ。本人たちの――特にマオさんたっての希望だったので、我々としてもその条件を呑むしかありませんでした。まあ確かに二人とも間違いなく戦闘向きですし、表に出る仕事はほかに適任のアンバーサスがいたのでしっかり分業はできていたんですが」


 そこで言葉を切って、短くため息。「まあ、こう、なんか色々あって、ちょっと表に出てきてもいいんじゃないでしょうかってことになりました」

「なるほど!」


 なんか色々とあったらしい。深い事情はわからないが、アウトドアだけではなくインドアな仕事をする二人を見られるようになったことはイリスにとっても超朗報だ。なんか色々とあったことに、大いに感謝する。


「それで、きょうは特別展示解説のお仕事なんですよね? センリさんはここにいて大丈夫なんですか?」


 これから登場予定のマオとユラは、今はこの会場の近くに待機しているはずだが、二人のマネージャーのような役回りをしているセンリがこんなところにいても大丈夫なのだろうか。「パパとママのお仕事を正面から一般客として見てみたいです!」と、わがままを言って付き添ってもらったイリスが言うことでもないのだが、そのせいで迷惑をかけてもいけないので一応の確認はしておく。


「確かにオレはサードの広報担当ですが、今はあなたの警護が何をおいても優先される仕事ですので、どうぞこのまま労働に従事させてください。それに司会進行に関しては、オレよりよほど適任のプロフェッショナルにお任せしていますので心配ありません」

「ぷろふぇっしょなる?」


 イリスが首を傾げた瞬間、会場内の照明が暖色系から寒色系に切り替わった。砂漠の橙から深海の青へと変貌する世界。――そうして。


「はーいみんなー! こんにちはー! はじまるわよはじまるわよはじまっちゃうのよー!」


 ホール中央の丸いステージが、スポットライトの集中砲火を浴びてひときわ輝く。それを取り囲むように無数のディスプレイが空中に現れた。大きなものから小さなものまで、それぞれが別々の映像を表示している。場違いなほど明るい声は、その中でも一番大きな正面モニターから聞こえてきていた。


「サードの特別企画展『よみがえる残陽の遺跡』ギャラリートークへようこそ! 進行はあ・た・し、グレイ・スリーにお任せよんっ!」


 グレイ・スリーと名乗った人物は一人称や口調の柔らかさで女性かと思われたが、声は男性のようにハスキーなのでどちらかはわからない。姿が見えないので尚更だ。かわりに音の波形のようなもの――確かオーディオスペクトラムといったか――が、声の大きさや高さに合わせて激しく動いている。ぱちぱちという拍手と「グレイちゃんだ」という小さな歓声も聞こえてくるので、ひょっとしたらファンがいるようなすごい人なのかもしれない。


「グレイ・スリーはサード専属のAIキュレーターなんです。博物館内のすべてのシステムを管理している人工知能で、こういったイベントの司会なども務めてくれます」

「人工知能!」


 隣でこそりと補足してくれるセンリの説明に、脊髄反射で驚いてしまう。そうだった、そういえば普通に科学も発達しているんだった。雷やら氷やらの魔法を使うファンタジックな身内がいるお陰で、いまだにイリスの中でこの世界についてのイメージが定まらない。


「残陽の遺跡といえば、数多ある遺跡の中でも危険度の高い遺跡として界隈では有名よ。今回の企画展では資料展示のほかに、そんな遺跡の内部やトラップをバーチャルで体験できるコーナーなんかも用意しちゃったから、お子様から大人様までもれなく楽しんでちょうだいね!」


 海外のノリといえばいいのだろうか。司会にしてはフランクすぎるが、日本人のイリスでもちゃんとついていける。むしろ、博物館の企画展のような硬い説明でも言い方ひとつでこんなにニュルンと耳に入ってくるものなのかと感動してしまった。


「じゃあまずは遺跡についておさらいしちゃうわね。当然みんな知ってると思うけど、これがあたしのお仕事だから最後までいい子で聞いてちょうだい」


 お給料はもらってないんだけどね、とグレイが冗談っぽく愚痴をこぼした途端、それほど人数がいるわけではない会場がどっと沸いた。なんてユーモアのあるひとなんだろう。これは好きになってしまう。


「さてさて、遺跡というのは次元の歪みから発生する扉から行くことのできる特異な空間のことよ。遺跡によって規模も構造も危険度も千差万別なの」


 グレイの声の波が表示されていた画面が、遺跡についてわかりやすく説明されたイラストに切り替わる。『遺跡』という名称から、世界遺産のように普通に存在しているのだと思っていたが、どうやら実際にあるのは扉だけで、そこから別の空間につながっているらしい。なるほど、不思議だ。


「ちなみになんですけどセンリさん、ボクがいた遺跡の扉はどこにあったんですか?」

「すみません。それは最重要機密なので」


 しーっです、と人差し指を口元に当てる姿さえ様になるのだから本当にイケメンってすごい。きょうもセンリはかっちりとしたスーツ姿だが、そういう仕草をすると年相応に見えるのでお得感が増し増しである。


「昔々の建物の壁や何百歳もの大樹の幹に現れることもあれば、使用中のホテルの鏡や住宅街のマンホールに現れることもあるということは、子どもたちも先生に聞いて知ってるわよね? それじゃあ、質問よ。もし生まれたばかりのピカピカな扉を見つけたらどうするのかしら?」

「絶対に近寄らないで、調停騎士団に通報する!」

「はーい、よくできました!」


 子どもたちが声を合わせて答えると、複数のモニターに現れた可愛らしいキャラクターたちが盛大に拍手をする。どうやらこの世界では、遺跡は横断歩道と同じレベルの一般常識らしい。


「残陽の遺跡はトップレベルに危険なところで、普通の調査員じゃとてもじゃないけど入り込めるようなところじゃないわ。凶悪なトラップに、凶暴な守護獣や守護者。そんな過酷なダンジョンを踏破できる、限られた存在。そう、それこそが我らがアンバーサス! その中でも最強と謡われるあの二人のこと、みんな知ってるかしら?」


 来た来た! もちろん、マオとユラのことですねっ!?

 ぴんっと背筋を正して短い足をバタつかせるイリスと時を同じくして、ざわざわと会場がどよめく。「知ってる?」「知ってるけど知らない」「最強のアンバーサスって都市伝説じゃないの?」

 その困惑に満ちた雰囲気で、イリスは理解した。どうやらマオとユラが登場することは事前に告知されていなかったらしい。つまり、正真正銘のサプライズということになる。


「あの二人って公の場に出てくることは今までなかったはずだよね」

「えっ、でもこの流れってひょっとして……?」

「残陽の遺跡を踏破したアンバーサスって確か――あ、嘘っ。え、本当に?」


 期待値という名のボルテージが、徐々に上昇していくのがわかる。会場がどんどん温まっていく。それに比例するように、イリスの心臓もバクバクと騒ぎ出した。さあ、来る! うおー、来るぞー!


「ナイっスな反応をありがとう、みんな! ちゅっちゅしちゃう! んちゅばっ! それでは張り切ってあなたたちのご期待にお応えしちゃうわよんっ! おいでませ、最強のアンバーサスちゃんたち!」

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