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【二部開始】魔王と勇者のカスガイくん~腐男子が転生して推しカプの子どもになりました~  作者: 森原ヘキイ
第二章 カスガイくんは、新居で一緒に暮らしたい

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2-9 ふかふかでとぅるとぅるです……!

「はじめまして。ああ、俺の場合は二度目ましてかな。一年くらい前に来たんだけど、妨害されて泣く泣く撤退したんだよね。覚えてる?」

「はい、もちろんでございます。数十年ぶりの来訪者、それもアナタ様のようなキラキラしたお方をどうして忘れることなどできましょうか。――ってアラ、泣く泣く? 『これで口実ができた!』とルンルンで帰っていかれたような? いえいえ、きっとワタクシの記憶違いでしょう。とにかくこうして再びお会いできて光栄の至りに存じます」

 

 うつ伏せに倒れたまま顔だけを横に向けた状態で律儀に答えるその精霊の姿と台詞に、イリスは一気に好感度をアップさせた。マオに降ろしてもらうとダッシュで駆け寄り、膝をついて精霊の顔を覗き込む。

 

「はじめまして、ぼくはイリスです。ママがユラで、パパがマオです。あなたがこのお屋敷の精霊さんですか?」

「ああ、なんとなんとお可愛らしいお坊ちゃまなのでしょう! これはこれはご丁寧にありがとうございます、イリス様。よろしくお願いいたします、ユラ様。マオ様、は……魔物でいらっしゃるのでしょうか? あまりにも凛々しく精悍でいらっしゃるので、ワタクシ動揺を隠しきれません。ああ、失礼。話が脱線して事故を起こしました。イリス様の仰るとおり、ワタクシがこの屋敷の精霊でございます。どうぞお見知りおきくださいませ」

 

 こんなはしたない体勢から失礼いたします、とユラの下敷きになったまま直立不動で挨拶をしてくれる。どうやら想像していたとおりの、いや、それ以上にいい人らしい。イリスはもうすっかり、この精霊のことが好きになってしまった。

 

「ママ、ママ。もう降りても大丈夫だと思います」

「そ? イリスがそう言うならそうだね、よいしょっと」

「あふんっ」

 

 背中の上で軽く猫のように伸びをしてから立ち上がったユラが、そのまま手を差し出して精霊を引っ張り上げた。「ありがとうございます」と、被害者が加害者に礼を言いながら、乱れた衣服を軽く整え、ぴょこんと立ち上がった黄色い冠羽を撫でる。そう、冠羽だ。人間の頭には普通は生えていないものが、彼の頭の上で楽しげに揺れている。

 ひとことで例えるなら――うん、ホンキバタン。首から下は人型の執事の青年でありながら、首から上は真っ白なオウムという屋敷の精霊が、三人に向けて優雅に一礼した。

 

「お見苦しいところをお見せしてしまい、大変申し訳ございません。改めまして、ワタクシはギルモンテと申します。彼女はレディ・タフィー。ワタクシの盟友でございます」

 

 ギルモンテと名乗ったホンキバタンの精霊の隣に、ウサギのぬいぐるみがちょこちょこと歩み寄る。「女の子だったんだ……」というユラの驚いた声を聞いて、まるでドレスの裾をつまむような仕草をしながら、その場でくるくる回った。


「彼女が誰かに懐くなんて夢にも思いませんでしたので、本当にびっくりしました。ワタクシが隠した階段を教えたり、ワタクシが隠れていた居場所を教えたり……って、アラ? ワタクシの邪魔ばかりしてませんか、レディ? え、気のせいですって?」

 

 回転していたタフィーが、ギルモンテに応えるようにぴょこぴょこジャンプする。まるでコントのようなやり取りがおもしろくて、イリスもつられるように笑ってしまった。やだこの二人かわいい。


「よろしくね。ギルモンテ、タフィー。ついでに確認しておきたいんだけど、壁や落とし穴を作って俺たちを追い出そうとしたのはギルモンテってことであってる? で、ぬいぐるみアタックはタフィー担当」

「はい、その通りでございます。皆様には大変ご迷惑をおかけしました。本当に申し訳ございません」

「んーん、こっちこそ驚かせちゃってごめんね。むしろ楽しかったよ。あのマシュマロの壁の感触とか最高だったし」

「そうだな。あの落とし穴にあったマシュマロのクッションも実に興味深い」

「ポッポッ! ワタクシの瑣末な魔法をそこまで好意的に評価していただけるなんて……! 不肖ギルモンテ、感激の極みにございます! あ、あの、それでは僭越ながらひとつ、この場で披露してもよろしいでしょうか?」

「もちろんです!」


 いったい何が始まるのだろうかとワクワクするイリスの前で、ギルモンテが白い手袋に包まれた両手を軽く打ち鳴らす。すぐにぼふんっという音を立てて、ゆで卵を半分に切って中身をくり抜いたような真っ白なソファが三人分――子ども用と思われる小さいものを真ん中にして――イリスたちの後ろに出現した。


「す、すごいです! ふかふかでとぅるとぅるです……!」

「でしょでしょ! これがほんっとうに気持ちよくてさ、つい夢中になっていつもより多めに壁を蹴りまくっちゃった! あ、魔王さま寝ちゃだめだよ?」

「起きている」

「え、なんで嘘つくの? 光速で意識飛ばしたよね?」

「えへへへへ。すみません、ギルモンテさん。ご覧のとおり、うちのパパとママは超ラブラブで――ってギルモンテさん!?」


 マシュマロソファに座ってきゃっきゃとはしゃいでいた三人だったが、いち早く現実に戻ったイリスがマオユラの仲良しっぷりを喧伝しようと精霊を振り返ったところで――見てしまった。ギルモンテの大きな黒い目から、だぱーっと涙が滝のように流れているところを。


「ギ、ギルモンテさん大丈夫ですかっ? ごごごめんなさい、ボクたち何か変なことしちゃいましたか!?」

「いいえいいえ、違うのです! ワタクシうれしくてうれしくて……! この屋敷に、こんなに楽しくてにぎやかな声が響き渡ったのはいつ以来でしょうかっ」


 おいおいおいと噴水のように泣き続けるギルモンテの背中をよじ登って頭の上に辿り着いたタフィーが、黄色い冠羽を引っこ抜くようなモーションをする。慰めているのか、あるいは「泣くんじゃないわよ!」と叱咤しているのか。どちらにしても仲良しなことには違いない。二人が一緒にいた年月の長さを感じる。


「あのっ! ギルモンテさん、聞いてもいいですか? お二人がこのお屋敷を今も守り続けているのは、リビングに飾ってあった肖像画のご家族と関係があるんですか?」


 ずっと知りたかったことを当の本人に向けて投げかけると、ギルモンテの涙の勢いが少しずつ弱まった。タフィーを頭に載せたまま、ぐすっぐすっと鼻を鳴らすまでに落ち着く。


「……そうですね。少し長い話になりますが、聞いていただけますか? 皆様、お茶でも――って、アラ? そういえばお茶の葉がありませんでした。なにしろお客様をお迎えするなんて初めてのことですし、そもそもワタクシは外には出られないものでして。ああ、なんてことでしょう! お茶も用意できない執事なんて、ミルクと砂糖のないコーヒーのようなものなのでは!?」

「だ、大丈夫です! むしろコーヒーはブラック派の人のほうが多い気がします!」

「そうだね、俺もブラックのが好き。でも今は君の話が聞きたいから、どうぞお構いなく」

「そうだな。いい子守歌になりそうだ」

「だから寝ちゃ駄目って言ってるでしょ、魔王さま」

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