1-12 勇者のユラさんと魔王のマオさん
ロミットの説明を途中で真っ二つに断ち切った、第三者の涼しげな声。それを追いかけるように、ジュリオが開けたままだったカーテンの向こうから、すらりとした人影が姿を現した。
さっぱりと整えられた朽葉色の短髪。面倒くさそうに細められていた深い新緑色の目が、亮太を見つけた瞬間に本来の大きさを取り戻す。
(誰だろう……)
知らない顔だった。少なくとも『極マリ』の登場人物ではない。年齢はジュリオと同じくらいか、少しだけ年上だろうか。かろうじて少年の域は卒業したものの、青年としてはまだまだ新人といったフレッシュな印象を受ける。そんな幼さの残る彼が、上品なブラウンのスーツをきっちりと着込んでいるものだから、そのアンバランスさがギャップとなって魅力が増し増しになっていた。端的に言って、とってもかっこいい。
「はじめまして、センリといいます。大体の事情はマオさんとユラさんから聞きました。二人がだいぶお世話になったみたいで、本当にご迷惑をおかけしてすみません」
「あ、どうもはじめまして。いえいえ全然そんなことは。お二人とも本当にかっこよくてきれいでかわいくて強くて優しくて頼りになって大変大変目の保養に……ん? マオさんとユラさん?」
丁寧に頭を下げるセンリと名乗った青年に、こちらも慌てて礼を返してついでに推しの活躍をアピールするが、初めて聞く人名らしき音の羅列が気になって軽く首を傾げる。それがロミットとジュリオの本当の名前だということは文脈で理解できたが、どっちがどっちなのかまでは判別できない。そんな亮太の様子だけで全てを悟ったらしいセンリは、表情を一瞬でこわばらせてから大きく息をはき出した。
「……あきれた。まさかそこからですか」という低いうめき声はジュリオに向けられたものであり、それをぶつけられた当の本人はといえば「そういえばそうだったっけ」などとのんきに受け流している。
「ほら、怒涛の展開で息つく暇もなかったからさ。でもまあ確かに、礼儀がなってなかったことは認めるよ。というわけで、改めて自己紹介だ」
亮太に背中を向けるような形で腰掛けていたジュリオが、おもむろにベッドに膝で乗り上げて正座をした。ぴしっと背筋を伸ばしてから、ゆっくりと頭を下げる。
「改めまして、ユラです。ここで勇者ってやつをやってます。ほら、魔王さまも」
「マオだ。勇者と同じく、ここで魔王をやっている」
「勇者のユラさんと魔王のマオさん」
まるで宝箱を開く呪文のように反芻しながら、亮太は大きく頷いた。ジュリオがユラで、ロミットがマオ。やっぱり二人とも名前が違う。二次創作の現パロ――現代パロディの略。異世界などの別次元で生きているキャラクターたちを、現代の世界観の中で生活させてみたらどうなるだろうと想像して作られた漫画や小説のこと――なんかでも、もともとのキャラの名前を変える場合はあるが、さすがにそれとは切り離して考えるべきだろう。
名前も、世界も、能力も全く違う。ただ見た目と声がロミジュリに瓜二つなだけのマオユラ。けれど亮太はすでに、マオとユラという存在を好きになってしまっている。マオユラというカップリングを推してしまっている。
だから知りたい。とにかく知りたい。何でもいいからめちゃくちゃ知りたい!
「あの、聞いてもいいですか? どうして魔王さまと勇者さんが一緒にいるんですか?」
名前が判明したところで、次に気になったのはマオユラの関係性だ。だって腐男子なんだもの。夢の中の二人は、果たしてどれくらい進んでいる仲なのかが気になって夜しか眠れそうにない。
それなりにゲームやアニメや漫画をたしなんできた者なら周知の事実ではあるが、基本的に魔王と勇者は敵対している。一緒に遺跡に入っていちゃいちゃしたりはしない。いや、昨今の作品の多様性を考えると、そこまで珍しいことではないのかもしれないが。
「なるほど。昔の魔王と勇者の殺伐とした関係は知っていても、今の魔王と勇者のシステムは知らないってカンジかあ。うん、興味深いね」
楽しそうに頷くユラの後を、眉をひそめた仏頂面のセンリが引き継ぐ。
「確かに千年前では考えられなかった光景でしょうね。魔王と勇者は世界の覇権をかけて殺し合うもの、というのが通説です。ですが、マオさんとユラさんの場合は、あくまでも仕事上の肩書きとして使用しているにすぎません。ぶっちゃけ、ただの同僚ですね。旧時代の魔王と勇者のような運命めいたものもない、因縁めいたものもない。特別な力も――まあ、あるにはありますが、それくらいです」
「そうそう、それくらいそれくらい」というユラのリズミカルな合いの手に背中を押され、亮太はさらに食いつく。「そのお仕事というのは、どんなものなんですか?」
とりあえず「魔王、お前を倒す!」「世界の半分をやるから許して勇者!」という関係性ではないことがわかった。センリは同僚だと言っていたが、その仕事とはいったい何なのか。遺跡とやらを探索して亮太のようなものを回収するような仕事を、今までにも二人で何度か経験してきたのだろうか。
「ふふ、俺たちの仕事に興味を持ってくれるのはうれしいな。それが一番の目的みたいなところもあるから余計にね。よっし、じゃあ直接その目で見てもらおっか」
言うなり、ユラがひょいっと亮太を持ち上げた。細身に見えて意外に力がある。そんなギャップもまたかわいらしいと思いながら、その温かい胸元へ迷わずダイブするのだった。




