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プロローグ

「ああ、やっと見つけた。ボクの愛しいひと。どうか…………どうかボクと結婚して欲しい」


 白く滑らかな磁器のような肌をした手を差し伸べてくる彼女から発せられた第一声はそのようなものであった。


 学校の屋上で腰が抜けてへたり込んでいるのとはちょうど対照的な形で手を差し伸べられている状態。時刻はもうすっかりと帳の降りた深い夜だ。おそらく午後10時くらいであろうか。


 その夜の闇とは対照的に白く、艶やかなロングヘア。この世のものとは思えないような造形の肢体と顔。

 とても美しい女性だというのが清水鈴鹿(しみずすずか)の抱く彼女への極めて純粋な第一印象であった。


 非常に、全く意味の不明な状況だ。そりゃ確かに世の中にはまだまだ人類が未踏の領域があり、解明されていないことも多い。その中にはもちろんスピリチュアルな話題というものも存在するのだろう。しかしだ、どうして自分がこんな訳の分からないことに巻き込まれて、知らない女性から求婚されているのだろうか。


 まるで現実離れした状態に、鈴鹿はまとまらない頭をフル回転させて言葉を振り絞った。


「………………はい?」


 その非常に気の抜けた返事が、鈴鹿の発した第一声であった。

 これ以外の返事をこんな状況で返せる奴がいるのなら是非ともあってみたいものだ。このときを思い返したとして、おそらく僕は僕を褒めるだろう。よく声を発することができたなと。


こんな、先程まで僕を襲っていたバケモノが側で殺された状況で。


 はらり、はらり。まるで薔薇のように真紅の「愛の花」が激しく咲き乱れ、残酷にも美しく散っていくバケモノの血しぶき。

 

「あの……僕、あなたの名前すら知らないので……まずはそこからでいいですか……?」


 やや困惑気味な表情を携えてそう答えを返す。

 至極真っ当な返答であると思った。これ以外に正解があるのかと疑いたくなるくらいには。


「……あはは、確かにそうだよね」


 鈴鹿の返答に対して、彼女は真っ当な正論を言われて納得したようにくしゃりと笑う。


 その笑いの動作は一見とても軽快で、溌剌なものであったが、その表情にはどこか悲しみも含んでいるようであった。


 どうしてそんな、表情とは裏腹な顔をするのだろうか。彼女の求婚の目的も、表情の謎も何1つわからないままだ。けれど、なぜだろうか。そこに隠された真意を知りたいと思わされるような不思議な表情だ。 


 未だに止まらぬ真紅の花吹雪、夜の闇に支配された屋上を照らす月光、それをスポットライトのように浴びて踊る彼女の長い髪。


 そんな幻想的なシーンの中、彼女はゆっくりと口を開けて自らの名前を言い放った。


「ボクの名前は………………」

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