3・巨大着ぐるみ怪獣襲来〔中身は人間の巨人〕
○ 休日の公園(昼下がり)
公園のベンチ、金属生命体の地肌でくつろいでいるアクシロア。近くの枝には脱いだ人皮が掛けてある。
公園のソフトクリーム屋で買った、銀色や銅色の金属ソフトクリームを食べながら、日向ぼっこをしているアクシロウに近づいていく。
ヨシツネ、トモエ、ヨシナカの三人。
ヨシツネ「こんにちは、アクシロウさん……人皮を脱いで日向ぼっこですか」
アクシロウ「あぁ、ヨシツネちゃん……たまには、金属人類の体を太陽に晒そうと思ってね……愛が欲しいから」
ヨシツネ「なんか、体にサビが浮かんでいますよ」
慌てて体を見回すアクシロウ。
アクシロウ「ど、どこに? サビが!」
ヨシツネ「ほら、そこ脇腹の辺りに少し」
アクシロウ「本当だ、これはマズい」
アクシロウ、サビ落としの紙ヤスリで脇腹をゴシゴシ擦る。
アクシロウ「危ない危ない、心のサビが表面に浮き出ていた」
ヨシツネ「アクシロウさんも、大変ですね……連載見ましたよ」
アクシロウ「どうだった?」
ヨシツネ「微妙……」
アクシロウ「そうだよな、それは担当の編集者からも指摘された、ゴミを道にまき散らすだけの怪人じゃあなぁ」
立ち上がったアクシロウ、枝に掛けてあった人皮を作業服のツナギを着るように着込む。
アクシロウ「実は、親友の悪の科学者は、巨大な人間=巨人も数体、作ってあってね」
ヨシツネ「それはそれは、で……また、あたしが巨人と闘ってもらいたいと?」
アクシロウ「察しがいいね、その通り……巨人に着ぐるみを着せて巨大怪獣にさせる」
アクシロウ、なぜかタメ息をもらす。
ヨシツネ「何か、困ったコトでも?」
アクシロウ「どんな場所から、怪獣の着ぐるみを着せた巨人を出現させるか悩んでいる……冒頭のシーンは重要だからね、何か良いアイデアは無いかな?」
ヨシナカ「セオリーで海から、海中から出現とかは?」
アクシロウ「着ぐるみが水を吸って重くなる、今回はモフモフ怪獣だから」
トモエ「山から、山中から現れるとか、山を崩してとか」
アクシロウ「山はモフモフ着ぐるみをだと、歩きずらいんだよ。着ぐるみの足の裏に枝が刺さったりするから」
ヨシナカ「田舎に現れて、家畜を襲って食べたり、田畑を踏み荒らす」
アクシロウ「う~ん、田んぼや畑に怪獣の足跡を残すのは……地方の読者を減らすので、ちょっと」
ヨシツネ「じゃあ、普通に町中で良くないですか、ビルの窓ガラスに怪獣の姿が映っていたり。高速道路を進行破壊したり、線路を走っている電車を捕まえて、別の路線を走らせてみたり」
アクシロウ「建造物の破壊は、担当編集者がNGを出すかも知れないけれど町に出現は良いな……出現時間はいつの時間が映えるかな?」
✕ ✕ ✕
○ 町(朝焼け)
眠そうにアクビをしているヨシツネ。
その横には座り込んで、仮眠をしているベンケイ。
アクシロウが指定した怪獣実現時刻を待つ。
ビルの屋上に立つ、アクシロウが朝日の方向を指差す。
アクシロウ「そろそろ、現れるぞ〝コスチュウ怪獣 A1〟」
朝日を凝視するヨシツネ。
朝日とは逆の方向から男性の声が聞こえてきた。
怪獣A1「すみませーん、場所がわからなかったもので。大きすぎて始発に乗れないので歩いてきました」
振り返ると、着ぐるみヌイグルミのモフモフ怪獣が立っている。
ゆるいシルエットのモフモフキャラ怪獣A1
怪獣A1「早速、はじめましょうか……この日のために、スクワットや腹筋をして鍛えてきました」
自分の胸や腹を叩く怪獣A1。
怪獣A1「わかりますか、着ぐるみの下で躍動する筋肉……ちなみに、わたしは着ぐるみの下は何も着ていませんスッポンポンです」
A1の先制攻撃のフライングクロスチョップが、搭乗していないベンケイの喉に炸裂する。
ベンケイ「ぐぼぅ」
ビルの壁に吹っ飛ぶベンケイ。
ヨシツネ「ちょっと待ったぁ! 戦闘はベンケイに乗ってから」
コックピットに飛び込乗るヨシツネが、ベンケイの操縦桿を握る。
ヨシツネ「〝ベンケイ・ジャイアント……〟」
ヨシツネが、どんな技名を叫ぶのか身構えるベンケイ。
ベンケイ(M)「ジャイアントショルダーアタックかな? ジャイアント火炎放射かな?」
ヨシツネ「〝ジャイアントスイィィグ〟」
ベンケイ「そっちかい!」
怪獣A1の両足をつかんで、ブンブンとプロレス技で振り回して、空の彼方に放り投げる。
A1は、筋肉誇示ポーズをとりながら飛んでいく。
A1「ひぇぇぇぇぇぇ!」
A1は朝焼けの中で一番星になった。
アクシロウ「覚えてやがれ、怪獣バンザーイ! この気持ちを忘れないうちに、マンガに残さなければ」
屋上から飛び降りて、足をくじきながらも、すぐに元の状態に関節がもどって走り去っていく、金属生命体の売れないマンガ家。
ヨシツネ「アクシロウさん……その捨てセリフだと、ラストの盛り上がりに欠けるよ」
ヨシナカ(M)「また、商店街の平和はヨシツネとベンケイの活躍で守られた」