2・悪い人『アクシロウ』さんは売れないマンガ家さん
○ ヨシツネお気に入りの商店街
ヨシナカ、トモエ、ヨシツネの三人が雑談をしながら歩いている。
金属生命体丸出しの店の者が、話しかけてくる。
青果店主人「ヨシツネちゃん、昨日は迷い犬から町内を守ってくれて、ありがとう」
青果店の主人、カゴに入った金属果物や野菜をヨシツネに差し出す。
青果店主人「これ、昨日のお礼だから……持って行って」
規定外で少しサビが浮かんでいる、変形果実や変形野菜を眺めるヨシツネ。
青果店主人「味に変わりはないから」
ヨシツネ「ありがとうございます」
鮮魚店の前を通りかかると、今度は鮮魚店の金属生命体主人が話しかけてくる。
鮮魚主人「ヨシツネちゃん、待っていたよ……うっかり間違ってセリ落してしまった深海魚だけど持っていって」
発泡スチロールの箱の中で、ピチッピチッと元気に跳ねている。
金属生命体の深海魚をヨシツネは眺めてから、隣のヨシナカに持たせる。
金属植物の生花店や金属パン屋の前を通るたびに、お礼の品物が次々と差し出される。
ヨシナカとトモエにも、お礼品を持たせて山積みになる。
歩いていく三人の前に、ゴミ置き場で金属カラスと金属ネコと闘っている。
由井正雪のような髪型をした、ベレー帽子のマンガ家男を発見。
〈マンガ家の男〉アクシロウ「あっちへ行け! ココはオレのエサ場だ!」
ヨシツネ「アクシロウ先生、こんにちは……お食事ですか?」
アクシロウ「ヨシツネちゃんか、おっ美味そうにモノを持っているな」
勝手にヨシツネがもらった、食べ物を食べはじめるアクシロウ。
ヨシナカ(M)「こいつ、売れない泥棒マンガ家だ」
生きている深海魚を千切って、深海魚の頭をかじり食べるアクシロウ。
アクシロウ「ところで、ヨシツネちゃんに相談したいコトがあるのだけれど」
ヨシツネ「なんですか?」
アクシロウ「実は担当の編集者から、なにか連載を視野に入れた実体験マンガを一つ描けたら、連載を考えてみてもいいと言われていてね」
ヨシツネ「それは、それは……で、あたしに相談とは?」
アクシロウ、食べ終わった深海魚の中に入っていた、ネジやボルトを口から果物のタネのように地面に吐き出す。
アクシロウ「大きな声じゃ言えないが……オレの親友に、悪の科学者が一人いてね……密かに人間の男女を作った」
ヨシツネ「それって、禁止されている違法行為ですよ……人の皮以外の、本体の炭素系人類の人間を作るのは」
アクシロウ「あいつも、科学者の好奇心を抑えきれずにクリエイターの勢いで作ったんだ……多めに見てやってくれ、で作った人間の男女の有効な利用方法をオレに相談してきた」
ヨシツネ「アクシロウさんはなんて、親友の悪の科学者さんに言ったんですか?」
アクシロウ「オレが世界征服を企んで、それをマンガにするから……作った人間を怪人にして、ヨシツネちゃんと闘わせて世間にアピールするから、ヨシツネちゃん闘ってくれるかな?」
ヨシツネ(微笑み)「いいですよ、その怪人さんはいつ現れるんですか?」
アクシロウ「実は、ヨシツネちゃんの性格なら引き受けてくれると予想して、もう近くで待機させてあるんだ……おーい、出てこい〝メタルッチ怪人 01号〟」
レンガの壁を突き破って、東洋の戦国武将のような甲冑を身に着けた怪人物が登場。
壁から出てきた怪人、額を押さえてその場にしゃがみ込む。
怪人01「くーっ」
アクシロウ「ムリするな、痛かっただろう見た目は甲冑怪人でも中身は生身の人間なんだから……暴れろ、メタルッチ怪人01号」
メタルッチ怪人01号が、ゴミステーションで暴れる、散乱する生ゴミ。
怪人01が投げたポリバケツのフタがヨシツネの頬をかすり、破損した人皮の下から、金属生命体の地肌が現れる。
ヨシツネの地肌は金色の地肌だった、人皮が再生して頬の裂傷をふさぐ。
アクシロウ「さあ、どうするヨシツネちゃん……このままだと、町内がゴミだらけになるぞ」
ヨシツネ「そんなコトはさせない」
ヨシツネの人皮に付属している繊維金属の衣服が変化する。
肩当てや、腰防具や半身マントが付いた。ヒーローガールの姿に変わるヨシツネ。
ヨシツネ「この町内の平和はあたしが守る、トゥゥ!」
天高く跳躍するヨシツネ、そして怪人に向って急降下。
ヨシツネ「〝ヨシツネキ……〟」
キックを予測して身構える怪人、ヨシツネは空中回転すると、どこからか取り出した刀剣で、怪人01を縦に両断する。
ヨシツネ「キックに見せかけた欺きの〝ヨシツネ斬り〟」
怪人の甲冑が左右に分かれ中から、黒いビキニの水着を着た、人間の女が現れた。
怪人01〔人間の女性〕「きゃあぁぁ!」
黒いビキニ姿の人間の女性が恥ずかしそうに、両手で体を押さえてどこかへ〔マンガの数コマを突き破る、古典的な描写で〕走って逃げ去った。
アクシロウ「見事ヨシツネちゃん、だが悪の雑草の根は決して滅びるコトはない……そのコトをよく覚えて置くがいい、わはははっ」
どこか、遠くを見つめるアクシロウ。
アクシロウ「忘れないうちに、今のシーンを、オンボロアパートに帰ってマンガに描かなければ、また会おうヨシツネちゃん……わたしはサル! うっきぃぃぃ」
アクシロウ、意味不明なサル真似をして去っていく。
ヨシナカ「最後の変なセリフとサルの真似は、オレが編集者だったらボツだな」
トモエ「なんなんですか、あのアクシロウって人は?」
ヨシツネ「売れないマンガ家さん」
ヨシナカ(M)「こうして、町内の平和がまた一つ守られたのだった」