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虚言について

作者: 大熊 なこ

 Aは、人が嫌いだった。

「Aって、いっつもムスッとしてるよね」

 後ろの席のやつに言われた悪口。けれどAは、傷ついた。人が嫌いなのに、傷ついた。

 いつしかAは気づいた。人が嫌いなのは、傷つけられたくないからだと。好きになってしまったら、もっと傷つけられると知っていたから。

 Aは嘘をつくようになった。

「みんな大好き」

 傷つきたくはないから。


 Mには、誰にも言えない秘密があった。

 その秘密を隠したくて、言う必要のない嘘を今までたくさん言ってきた。

「Aって、いっつもムスッとしてるよね」

 Mは、Aがその言葉を聞ける距離にいることを知っていた。けれど、傷つけるしかなかった。だって本当は好きだから。

 人を傷つけてもいいから、自分を傷つけないようにした。

 守るように、嘘を吐いた。


 Kは、人に対して恐怖を抱いていた。

 相手が何を考えているのかわからない恐怖。

 相手が自分に何を求めているのかわからない恐怖。

 怖かったから、誰に対しても笑顔を振りまき、誰に対しても優しく接し、自身の正義を放棄した。

「Aって、いっつもムスッとしてるよね」

 Mが言ったこの言葉。自分がAをどう思っているのか、そんなことは関係なかった。

「ね」

 ひそかな声で呟いた。Aには聞こえないように、けれどMには聞こえるように。


 Iは、信じることがどんなことなのか、まったくわからなかった。

 言われたこと、ひとつひとつを疑い、結局信じず、かと言って自分のことも信じていないわけだから、いつでも何かに迷い、不安定に彷徨っていた。

 Aは言った。

「大好きだよ」

 Iはこれを疑った。

 けれど、その疑念は言葉になることはなく、

「私も大好き」

 今日もひとつ、嘘をついた。


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― 新着の感想 ―
[一言] とても考えさせられます……(^^;)
[良い点] お久しぶりです! [一言] いやいや! とても興味深いお話でしたよ。 いろいろ言っちゃうことはありますねー。
2024/05/14 23:33 退会済み
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