扇風機
クーラー派です。
「強風」のボタンを押したって
きみは空を飛べないプロペラ飛行機で
あるいは川を下れないモーターボート
いくら はねをまわしたところで
何処へ行けるでもなく 床のうえのまま
倒れないようにと脚をふんばるのがせいいっぱい
涼風をうみだせるとはいえ
きみは翼のないプロペラ飛行機で
あるいは溺れ沈んでしまうモーターボート
いくら はねをまわしたところで
青い空も海も知らずに カーペットのうえのまま
せめて おおきく ゆっくりと首をまわしてみせる
いくらはねをまわしたところで
何処へ行けるでもなく
青い空と海も知らなかった そんなきみが
夏が去って
むしろ そのはねをとめたとたんに
床のうえからも カーペットのうえからも
すがたを消してしまったのは
毎年のことながら 秋いちばんのミステリ
何処へ行ってしまったのか
さがしてみようともしたけれど
きっと きみはいまごろ
いくらはねをまわしたところで行けはしなかった
あの青い空と海で
プロペラ飛行機のまねをしながら飛んでいるか
モーターボートのまねをしながら泳いでいるか
そんなふうに想像してしまったから
来年の夏までの長い休暇を
ぞんぶんに楽しんくれればいいさって
それまで ほっとくことにした
風情は、扇風機。