役立たず
「ああそうか。エドは家に帰って誰かと一緒に掘ったのね?だからあっという間に掘れちゃったんだ」
浅井戸だったとしても、3メートルとか5メートルとか穴を掘るのは大変だろう。でも、人数がいれば確かに1日で掘れちゃうかもしれない。
私一人だと何日かかるかな。
土は、それほど固くはない。ちょうどたっぷり水聖女が雨を降らせてくれたおかげだろうか。
「違う……いや、そう、1人で「掘った」わけじゃない」
変な言い方ね。
「見てるだけだと退屈じゃない?」
エドがちょっと声が小さくなった。
「見てるだけでごめん。手伝えればいいんだけど、手伝えない事情がある」
手伝えない事情?体が弱くて運動を制限されてるのかな?大丈夫なのかしら?
心配になってエドの顔を見る。
「体は大丈夫なの?結構日の光が差して熱くなると思うけれど平気?無理しないでね」
「手伝わないっていう人間の心配をするの?手伝わないなら邪魔だあっちへ行けとか、役立たずだとか言わないの?」
そういうことを言う家族でもいたのかな……?
「もし、私が給金を払っているなら、そりゃ仕事をしなけりゃ腹も立てもするし、協力し合わなければ難局を乗り越えないような場面なのに自分だけ何もしないのであればちょっと仲良くできないかなぁって思うけれど……。井戸を掘りたくて掘ってるのは私の勝手だもの。なんで手伝ってもらえるって逆に思うの?」
エドがぷっと笑った。
「いや、確かにそうだ。でも、世の中にはやってもらって当たり前だって思う人間も多いんだよね」
確かに、やってもらって当たり前だって思う人間もいるけれど……。ふと、私にくってかかった村人の男の顔が浮かぶ。
「やってあげたいって思う人もいるから世の中、成りたっちゃうんでしょうね」
家族なんだから面倒を見るのは当たり前だと言う人もいるけれど。妹や母のことは、私がやってあげたいって思って世話をしていたというのも確かだ。
離れたほうがいいと、何度か言われたけれど。
家族と離れられなかったのは私。
誰かに必要とされたかったのは私。
母や妹がいなかったら、私は何のために生きているのかって、母や妹には私がいなければダメなんだって、ただそれだけが心の支えだった。
今思えば、馬鹿な話。妹は私がいなくても好きな人を見つけて結婚を決めて家を出て行ったし。母だって妹の結婚の準備やなにか始めたらすっかり精神的にも落ち着いて、私も再婚しようかしらとまで言っていたくらいだ。
依存してたのは私の方だ。
「見返りもなくやってあげたいなんて思う人がいる?」
「必要とされてたらさ、それをしなくなったら、必要とされなくなるんじゃないかって思ったら……自分の価値はそれしかないと思っていたら……やるんじゃない?」
エドがああと頷いた。
「侯爵や聖女のようなもんか。加護を失い、力を使えなくなったら何の価値もない」
エドは決して私を馬鹿にする意図があって口にしたわけじゃないだろう。むしろ、ちょっと辛そうな表情を見せている。
「私、価値がないって今言われた?」
「え?そんなこと僕は一言も……って、あ、リコは力のない闇聖女……いや、そうじゃなくて」
慌ててエドが否定する。




