食べたい欲
「私が手伝うのはばばの分です」
「あら?知らないの?貴族の一人分って、とても一人じゃ食べられないくらいの量が準備されるのよ。それで、残った分を別の人が食べるの。だから、ばばさんがよほどの大食いでない限り、余るでしょう?はい、どうぞ」
と、半ば強引に女性の手にサンドイッチを握らせる。
その様子を、距離を取って見ていた村人の一人がそわそわとした様子を見せる。
食べたいようだけれど、決心がつかないようだ。
無理強いする気はない。
「うんまっ。何これ?初めて食べた。見た目はただのパンなのに、全然パンじゃないっ!」
「本当に美味しいっ。パンにはさんであるこれがおいしいんだ!これ、何だろう?白っぽい色なのに、パンとも全然違う味がする」
子供たちが少しお腹が満たされてくると、今度は味を楽しみ始めた。
「……これは、本当に美味しい……」
遠慮していた女性が、子供たちがあまりにもおいしそうにサンドイッチをほおばる姿にサンドイッチを口にした。
「正直、たかがパンだと、そう思っていましたが、たかがパンではありませんね……ありがとうございます。こんなに美味しい物を用意してくださって……パンにはさんで見た目をシンプルにしたのも、私たちが食べやすいようにと配慮してくださったんですね……」
え?いや、違うけれど。
なぜか唐突にサンドイッチを一口食べた女性が私を持ち上げ始めた。
「何を手伝わされるんだ?」
先ほどからそわそわしていた村人が口を開いた。
もう一押しでこの人も手伝ってくれるかもしれない。
「まさに、今子供たちが食べている、このサンドイッチの間に挟まっている、ポテトサラダを作る手伝いをしてもらいたいんです」
にこりと笑って、質問をした人にサンドイッチを一つ手渡す。
「手伝う価値があるか、味見をしていただけます?そのうえで手伝う価値があると思えば、思う存分サンドイッチを食べて、それから手伝ってください」
村人がポテトサラダサンドにかじりついた。
「こ、これは、何の味だ?作る手伝い?こんな美味い物が俺たちに作れるのか?」
残っていた村人は、子供を除けば10人ほどと少ない。だけれど、その10人が次々に籠に手を伸ばし、食べ始めた。
「ポテトサラダと言ったけれど、初めて聞くわ。私たちは何をすればいいの?」
村人の質問に、ニヤリと心の中で笑う。
おいしいものを食べたいというのは人を働かせる動機として十分効果があるようだ。
ここ、土侯爵領で芋といえば、里芋のようなタロイモと呼ばれるものをさすと本に書いてあった。乾燥に弱いのでアイサナ村では作っていないのだろう。
「闇侯爵邸の者たちしか食べたことが無い、特別な料理なの。材料が不足しているため、大量には作れないし、食べられる人も限られる。その特別なものを作るための材料を、アイサナ村の人たちで栽培してほしいんです」
私の言葉に、子供たちが興奮気味に叫んだ。
「すげー、俺たちで、このうめーやつの材料が作れるのか?」
「特別?特別なものを作るの?」
「なぁ、特別なやつを作ったらさ、自分たちでも食べていいのか?」
「え?あたし毎日食べたいっ!」
子供をしかりつけるように女性が声を上げる。
「馬鹿だね。侯爵様に献上するために作るんだ。私たちが食べられるわけないだろう!」
「いいえ、そんなことはありません。作っていただきたいものは2つあります。1つは、芋です。ジャガイモと言います。闇侯爵領では麦と同じくらい一般的な芋です。珍しいものでも特別なものでもありません」
村人が顔を見合わせた。そして、代表するように一人が声を上げる。
「アイサナ村では芋は育ったない」
村人たちももしかしたら麦以外の栽培を試みたことがあったのかもしれないと、その一言で思った。
雨不足……それがすべての努力を無にしてきたのか……。すぐに、笑みを浮かべたまま口を開く。




