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■加護なしハズレ闇侯爵の聖女になりまして~ご飯に釣られて皇帝選定会に出ています~  作者: 富士とまと


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理由

「私、朝5時には毎日起きていたの。朝食の準備をしてお弁当を3人分作り、洗濯と掃除をしてから仕事に出かける。家に戻り夕飯の支度や洗濯の取り込みや片付けをして、休む間もなくアルバイトに出かける。家に戻って寝るのは12時をいつも回っていた。そんな生活を10年以上続けて、母と妹の面倒を私一人で見てきたの。働きたくない、楽になりたいと何度も思った。だけれど、家族のためにと歯を食いしばって働いてきた。あんたたちが蔑んでいる闇侯爵だって、今も仕事をしている。何もせずに楽なんてしてない。ちゃんと寝てください。仕事はほどほどにと周りに言われるくらいイザートも闇侯爵も仕事してる。この、サンドイッチだって……。料理長や調理人たちがいつもより2時間も早起きして作ってくれた」

 あまりに支援され続けると、何もしなくても生活できてしまうことに慣れて働かなくなる人がいると聞いたことがある。

 海外に農業支援でNPOが行く。指導者が間は畑で作物を作るけれど、帰ってしまうと途端に前のように働かなくなると。働かなくても支援があると覚えてしまうと、働かない方を選んでしまうんということがあると。

「まぁ、いいわ。闇聖女と仲良くしたら水聖女に何を言われるか分からないと、もう雨を降らせてもらえなくなったら困ると思っている人もいるでしょう。闇聖女はひどい女で、食べ物が欲しかったら言うことを聞けと、無理に働かされたと言えばいい。だから、安心して食べて。そして手伝って」

 ああ、相手が強い態度に出られない相手だから、私も言いたいことを言い過ぎてるのかもしれない。逆らえない相手をいじめることが許せないと言っていた私が、これじゃあ駄目だと。ぐっと怒りを収める。

 食べ物を足蹴にする行為は本当に許せないけれど。

 にこりと笑って、私たちのやり取りを見ていた村人に籠を差し出す。

「ママ、これ、すごくおいしいよ!ママも食べて!」

 動けずにいる大人に話かけたのはミーニャちゃんだ。

 ミーニャちゃんに似た、灰色がかった茶色の瞳の女性がびくりと反応する。

「ねぇ、聖女様、私がいっぱいお手伝いするから、私がばばの分まですればばばの分を持って帰って食べさせてもいい?」

「お、俺も!これ、妹と弟にも食べさせてやりたい。まだ二人は手伝いとかできないんだけど、いいか?」

 子供たちはまだ働くことに拒否感がないのは不思議だ。大人の手伝いの延長だと思っているのだろうか。

 きっとこの世界では子供も大人に「これはお前の仕事だ」と水汲みだとかちょっとした仕事を言い使っているのが当たり前なのだろう。

 大人は……決まった畑仕事以外は、自分の仕事ではないと思っているのか。この違いは何なんだろう。働いたら負けだとかいう日本人がいたことはいたけど、それとも違う気もする。

「ねぇ、何を手伝えばいいの?」

「うん、畑に植えて欲しい物があるんんだ」

「種?」

「種とはちょっと違うかなぁ」

 子供たちと会話を続けていると、大きなため息が聞こえた。

「何をやったって……無駄だ……」

 ぷいっと、男が背を向けて去って行った。

「そうだ、何をするつもりか知らないけれど……遊びに付き合うほど暇じゃない」

「おとなしくしているのが一番いいんだ……」

 一人、また一人と村人が村へと戻っていく。

 ああ、そういうことか。

 諦めきっているんだ。何も期待していない。いいや、期待することに疲れているのか、期待したくないのか。

「ばばの分は私が働きます。ほら、ばばに持って行ってあげな」

 女性が一人膝をついて籠のなかからサンドイッチをつかんで子供に手渡した。

 それだけで、女性は自分は食べようとしない。

「手伝ってくれるなら、遠慮せずに食べてください」

 女性に勧めると、首を横に振った。


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